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花ヨ、終焉ヲ告ゲヨ。  作者: 黒雨 のゆ
第二章 祈りは海を越えて
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第四幕 秩序の調合

学園都市の空は青く澄み渡り、どこまでも穏やかだった。だが、その静けさが異様に見えるほど、柚木の胸はざわついていた。

昼休みの始まりを知らせるチャイムが鳴る。柚木は気分転換しようと校舎に囲まれている庭へ向かった。

他の生徒たちは皆教室で昼食を食べているためその庭には静かな風の音だけが聞こえている。

「……風が気持ちいいな。」

遠くでベンチに座っている人影が見えた。

彼は柚木に気付いてないようで小さく呟いた。

「今日のカフェオレは3対7。まだ理想じゃない。」

柚木は他の生徒には感じられないその姿に、何かを感じ、恐る恐る声をかける。

「ここで何をしてるの?」

彼は柚木の声に肩をビクッと動かし振り返る。そして柚木を顔を見て肩を撫で下ろす。

「……なんだ。君か。あの人たちが来たのかと思った。」

校庭でふと出会った一人の生徒。制服は乱れ、手には少し凹んだ紙パックのカフェオレを持ち、無気力そうに空を見上げていた。彼とは反対に、近くの花壇には優しいオレンジ色のオニユリが風の音色と共鳴している。名は冬間 朔(とうま さく)__周囲からは”落ちこぼれ”と嘲られている少年だった。

「なぁ、君、外の世界から来たんだろ?」

朔の言葉に目を見開く。転校生とされていたが、元いた世界から来たとは言っていなかったから。

「うん、でもどうしてそれを?」

柚木の問いに、朔ははにかむように微笑んだ。

「見りゃ一目瞭然だよ。ここの儀式が行われていた時、妙にクロユリたちが警戒してたしね。それに他の人たちとは違って、何かをしようと考えてる目をしてる。__前の僕みたいに。」

素性を隠しているようなその表情に柚木は一歩踏み込む。

「前の僕?」

前屈みの姿勢になり手に持っていたカフェオレを横に置き、遠くを見つめる。

「あぁ。でも僕らは、ずっと”直される”だけさ。何かを間違えたとかじゃない。ただ違ってるだけなのに。」

「朔は何かしたの?」

柚木の素朴な質問に朔は少し困った表情を見せため息をつく。

「まぁ、君に隠さなくてもいいか__僕は一度あの闇と混色したあの青い髪の男に意を決して対抗した。でも無意味だった。何も変わりはしなかった。」

オニユリの花の香りを優しく運ぶ風の音が聞こえる。それと共に小さな雫が朔の頬を伝う。

「俺に話してくれない?何があったのか。……きっと俺のしたいことと朔の望んでいること、きっと同じな気がするから」

しばらく考えた後、ゆっくり口を開けた。

「ここの秩序は苦境。僕はそう思った。近い未来、利き手までも矯正されそうで。だからあのクロユリに対抗したんだ。そしたら俺は連行され”再教育”を受けた。そこはもう無機質で。ただ感情を矯正される時間を過ごす。もう元の自分がわからなくなった。……矯正されてその施設から出た今でもこういう風に君に話している。僕は変われなかった。だからまた施設へ送り返されそうになってる。__このカフェオレのミルクとコーヒーのように、僕たちもこの秩序と上手く調和をとっていかないといけない。」

カフェオレを一口飲んだ後、昼休みの終わりを告げるチャイムがなった。

「わかってるとは思うけど、クロユリにはちゃんと警戒するように。今は許されてるかもしれないけど次は消されるかもしれない。」

そして立ち上がり、柚木にカフェオレを渡す。

「購買のカフェオレ美味いんだ。心を落ち着かせてくれる。話を聞いてくれたお礼。そして、この先の君の幸運を祈って。」

柚木は震えた。この世界は、違うだけの存在を”正しさ”の名のもとに押し込めている。

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