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花ヨ、終焉ヲ告ゲヨ。  作者: 黒雨 のゆ
第二章 祈りは海を越えて
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第三幕 揺らぐ秩序の海

生徒が連行されるその光景に戸惑う。だがその反対に周りの生徒たちは、それぞれ表情を崩さず、席に着いていく。

柚木は未だここの秩序に慣れずにいた。

そして何事もなく進んでいく授業。

正しい答えだけ回答し、規則正しい間隔で教室を移動する。そんな感情を失ってるような生徒たちの行動に恐怖を覚える。


夜になり、寮の部屋に戻ろうと長い廊下を歩いていた。

「……驚いたか?昼の出来事について。」

声のした方を振り返ると、窓際に立つ夜斗がいた。だが、その姿は昼のような威厳さはない。

「どうして、あんなことを…」

「君は、この世界の秩序を壊すな。」

静かに、それでも強く。

「……でも、これが”正しい”なんて誰が決めたんだよ」

柚木は、震える声でそう返すが、夜斗は答えずにただ窓の外を見つめる。

「………ここは”箱庭”だ。閉じた理想で保たれている。その理想を壊せば、皆が壊れる。」

そしてまた、口を閉じ、窓の外を眺める。

「…君は、どうしてここまで…」

柚木は言葉を言いかけたが、窓の外を眺める夜斗の姿に固唾をのむ。

整った横顔が夜空の光に照らされ、その姿は今にも消えてしまいそうな儚い姿だった。

「………これが最善なんだ。」

夜斗は小さく呟いた。柚木にこの言葉が届いたのか、何も話さず、静かに自分の部屋へ戻っていった。


部屋に着きベッドにうずくまりながら思い出す。

「……もう、何が何だか分からないよ…」

クロユリがどうしてこんなにも”秩序”を固守しているのか。クロユリの目的はなんだ?どうしたら鍵を手に入れれる?

「……俺は、早く戻りたいだけなのに…」

顔をあげ部屋の窓から空を眺める。

「…この空は、あっちの世界とも繋がってるのかな。みんなと同じ空を見てるのかな。」

窓を開けると昼間と空気が違い、海風が澄んだ空気を運んでくる。

その空気は不安な柚木を包み込むような気がした。窓を開けたままベッドに横たわる。

__そして柚木はゆっくりと目を閉じた。



___________

夜明けの廊下に靴の音が響く。優しい光を灯しているランタンを持ちながら廊下を歩く。そしてその音が止まった場所は図書室だった。誰もいないはずのその場所に、ふと光が灯る。

彼は慣れたように迷わず向かう。古ぼけたノートを手に取り、窓際の椅子に腰掛けるとゆっくりとページをめくっていた。そこに書かれているのは、旧世界__この学園が成立する以前の、ある失われた都市の記録。

彼の指があるページで止まる。

《__違うことは、悪いことなのか。》

その一文に、彼の目が静かに揺れる。

「っ…そう、かもな。全員が海を泳いだら泳がなきゃいけない。じゃないと軽蔑されるんだ。」

____________

一方、明と天綺は校舎裏の空間で二人きりの時間を過ごしていた。その場所は周囲の監視を逃れた、唯一閉ざされた場所。二人は座り込み、壁に寄りかかりながら話していた。

「あの柚木ってやつ。瑞稀が言ってた通りだな。」

水平線を眺めながら天綺に問いかける。

「うん。ただの異端者じゃないね。」

明の問いに優しく答える。海風と夜風が合わさり穏やかな空気に心が安らぐ。

そしてしばらくの沈黙が続く。だが二人は気まずさも感じず、ただ隣に座り海を見ていた。

__明は何かを思い出したのか顔を下げ俯いてしまう。

「…はぁ」

「あの時のこと、まだ引きずってるの?」

天綺の言葉に、明は目を伏せる。

「おれたちが”間違った”から、あの子は消えた。だから今は、正しくなきゃいけない。」

俯きながら言葉を落としていく。天綺のことを信頼しているその声は柚木と初めて言葉を交わした時よりもか細かった。

「あの時こそちゃんとしてたら…今こうなってなかったかもしれない。」

「……でも、それって」

「お前は、一緒にいてくれるよな?天綺。」

眉を下げ悲しそうな明の表情に、そっと明の手を取った。

「うん。俺は明のそばにいるよ。何があっても。死ぬ時は一緒。」

この言葉に明は安心したのか肩を下ろす。

二人の絆は硬く結ばれていた。

”秩序の正しさ”に従う彼らの中で、唯一確かなのは、この手の温もりだけだった。



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