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花ヨ、終焉ヲ告ゲヨ。  作者: 黒雨 のゆ
第二章 祈りは海を越えて
11/19

第二幕 閉じた秩序のなかで

青い空と海の狭間に浮かぶようにして存在するこの学園は、どこまでも澄んでいた。

だが、その澄んだ空気とは裏腹に校内は歪んでいた。

朝の鐘が鳴ると同時に、生徒たちは寸分の狂いもなく準備を始める。

そして無言のまま校舎へ吸い込まれていく。

その光景を窓から見下ろしていた柚木は、言い知れぬ寒気を覚えていた。

「まるで、機械みたいだ。」

ポツリと言葉を落とす。

「外の空気は澄んでいるのに、ここだけは…重い。」

制限されている水槽と自由に泳げる海のように学園の敷地内と外では世界が違うようだった。

「__水槽の中でも、こんなに苦しい制限があるなんて。」

教室のドアから見つめる視線に、柚木は体が硬直する。

「__!」

視線を向けると、夜斗が立っていた。彼は何も言わず、鋭く見つめた後そのまま去っていった。

早くなった鼓動を落ち着かせるよう呼吸を整える。

いつ誰が見ているか分からない。柚木は気を引き締め秩序を乱さぬよう準備を始めた。


特別クラスに編入されてから時間が経ったが、まだ教室では誰一人として心からの笑顔を見たことがない。

秩序を乱せば消される。人と違うことをすれば罰が与えられる。

生徒たちは皆、教科書通りの態度で応え、必要最低限の言葉だけを交わしていた。

教師やクロユリの言葉は絶対。ルールは絶対。

()()()()()()()()()こそが、善であるというように。

この学園の規則や秩序がどういったものなのか知るため、柚木は探りを入れていた。

”試す”場所とされていたが、教室の異様な空間以外、変わったことはなかった。

生徒と同じものを食べ、同じ時間を過ごす。

同じことを繰り返すこの居心地の悪さに嫌悪感を抱く。だが、これは決して表情に出してはならない。

いつ何されるか分からない。北地方とは違ったクロユリの威圧感に柚木は圧倒され、自分の意見を出せずにいる。

「…セラテルがいたら、なんて言ってたんだろう。」


昼休み。食堂で与えられた食事を前にしながらも。空気はほとんど変わらない。生徒同士話すわけでもなく、ただひたすらに食べ物を口へと運んでいく。

目の前に出された物も味がしない。だが、どこか不気味な香りがソースと共に鼻を通る。

そんななか、遠くの席から柚木に視線を向ける二つの気配があった。

ひとりは、海の中で儚く揺れる水草のような瞳の明。常に冷静で、どこか他人との距離を測っているような瞳。

もうひとりは、水面に反射する淡い魚影の色の瞳を持つ、天綺。一見すると柔らかだが、その笑みはまるで心がなかった。

二人はゆっくり柚木の前に座り視線を柚木に固定する。

「お前、どこかで”教え”を学んでこなかったか?」

明の問いは鋭く、無表情なままに突き刺さる。一方、ナイフとフォークを使いこなし、優雅に食事をとっている天綺。

「……教え?」と柚木が問い返すと、天綺が代わりに微笑んだ。

「”正しさ”のことだ。ここでは皆、それを守って生きている。明が言ってるのは今まで見てきた正しさを正当化し、それが秩序に相応しいか。冒涜なのか。それを学んだことはあるかって話。」

柚木は曖昧に笑うことしかできなかった。何が正しくて、何が間違っているのか。それを一律に定めてしまうこの場所に、どうしても馴染めない自分がいた。


「お前にとって、”正しさ”ってなんだ?」

明は粗を出すように問い詰める。柚木は切羽詰まったように頭の中を回転させる。

「……俺は……」

その瞬間、校内中に警笛が響き渡る。

「え…何この音…」

柚木は不安になりあたりの生徒を見渡すが、動じていない。

天綺と明はゆっくり立ち上がる。

「はぁ…また乱す者が出たのか。」

「このサイレン、何?」

「秩序を乱した人の周囲にクロユリがいなかった時になる警笛だ。」

「じゃあね。柚木くん。俺たちは行くから。”処理”しに行かないと」

そして、食堂を出ていく二人。

柚木はただ二人の後ろ姿を見つめることしかできなかった。


_______


ある日、同じクラスの生徒が教師の質問に間違って回答した。

その瞬間、周囲の生徒が一斉に立ち上がり、その生徒を取り囲む。

「「秩序違反、第十一項目に基づき、再教育処置を実施します」」

「…連れて行け。」

教師の淡々とした声と共に、無言のまま地下へと連れて行かれる姿に、柚木は凍りついた。

何が”違反”なのかも分からない。だが、全員がそれを当然のように受け入れていた。

「……これがルシェルの言っていた…人を駒として扱っている…ことか?」

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