運命ノ種子
「いつかまた会う日まで。…君との再会は、避けることのできない運命だから。」
誰が言ったのかも、どこで聞いたのかもわからない。
それなのに、その言葉だけが、ずっと胸の奥に残っていた。
まるで、最初から決められていたように——。
柚木 來那は、何か、"喪失感"を抱えて生きている青年。
学校のチャイムと蝉の鳴く声が合わさる旋律を目覚ましがわりに目を開ける。
それを合図に、他の生徒たちはそれぞれ準備を始める。
空はもう、薄い茜色に染まりはじめていた。
いつもの帰り道。いつもの街並み。すれ違う人たちの顔も、見慣れた風景も、すべてがいつも通り……のはずだった。
でも、今日は何かが違う。
鳥の声がやけに遠く聞こえる。教室の時計が5分遅れになっていても気が付いた人は少なかった。
気のせいだ。そう思いたいのに、胸の奥がざわざわと騒がしい。
坂道の途中で立ち止まり、ふと空を見上げる。
夕焼けが、まるで空全体を燃やすように広がっていた。
鞄のポケットに手を入れると、いつも持ち歩いている小さな石が指先に触れた。
黒曜石のように滑らかで、触れるたびにほんのり温かい。
小さい頃、柚木の部屋に落ちていたこの黒曜石は、何に使うかは知らない。
ただ不思議と、これを持っていると落ち着く気がする。
「……こんな空、見たことない」
小さくつぶやいた声が、やけに響いて聞こえた。
その瞬間だった。
視界の端が、ゆらりと揺れる。
周囲の音が消え、空気の温度がすっと下がった気がした。
さっきまで歩いていたはずの地面が、わずかに“ズレた”ような感覚。
見慣れたはずの風景が、ほんの少し、色を変えている。
ほんの些細なズレと微かな違和感。
けれどそれは、世界が少しずつ崩れ始めている証拠だった。
そしてこのあと——
俺は、“それ”に出会ってしまう。