ハジマリ
ミーン、ミーンと蝉がうるさく鳴いている。
もう8月になりかけの猛暑日。空一面の青空の中から太陽が僕たちとアスファルトをジリジリと焦がしている。あまりの暑さに、じんわりと汗が浮かんでくる。
「えー!ショウちゃん、本当にやるの…?」
僕は驚きのあまり、思わずショウちゃんの腕をつかんでしまった。
掴まれたショウちゃんは足を止めて、うんざりとした表情をした。
「俺がやるって言ったらやるって決まってんだろ!あと、俺のこと『ショウちゃん』って呼ぶなって何回言ったらわかるんだ!」
口調荒くまくしたてると、勢いよく僕の腕を振り払った。
ショウちゃんは昔からそうだった。自分がこれだ、と決めたことは何がなんでもやり通す。
「でも、縁起悪いよ…」
「ただ、墓の間を通るだけだ。問題ねぇよ」
「もし、へ、変な人がいたら…?」
「そしたら、そいつにキックをお見舞いしてやればいいんだよ!」
僕は思いつく限りの言葉で、何とか今回の計画を阻止できないかと説得を試みた。
「やっぱり、止めようよ。危ないし」
「んじゃ、お前抜きでやるから来なくていい」
「でも…だって…」とつぶやく僕に嫌気がさしたのか、ショウちゃんはぶっきらぼうに言い捨てた。
その言葉に僕は首を横に振った。
真夜中にそんな所に行くのはもちろん嫌だ。でも、今回は久しぶりにショウちゃんから誘ってもらえたのだ。たとえそれが、罰当たりだろうと怖かろうと、危険であろうと、結局この誘いを断る選択肢は初めから僕にはなかった。
ショウちゃんは僕の反応を見て満足したのか、ニコニコと歩き出した。
「肝試し、何か出るといいよなぁ」
僕に同意を求めるような口調だ。
僕は頷きかけたが、ショウちゃんの顔に身に覚えのありすぎる、悪い笑みが浮かんでいるのを見てしまった。こういう時は決まって何かよからぬことを企んでいる。
余計なことを考えないようにして、僕は無理やりショウちゃんの言葉に同意してみせた。
「肝試し、か…」
僕の小さな呟きは、周りのセミの声にかき消えて、誰の耳にも入ることはなかった。