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カメラの記憶

作者: ぬん


カシャ____


横をふり向くとカメラを構えた君がいた。


「すごく綺麗だよ。」


透き通るような白い肌に綺麗や黒髪が目立ってまるで天使のように見えた。


____________


午前4時、少し明るくなってきたくらいの頃に篠宮いのりは家の近くの公園にやってきた。


遊具も何も無い、噴水と芝生があるだけの小さな公園。朝の太陽が噴水の水に反射して眩しい。

水に触って少し不思議な時間を過ごしていた。


カシャ


真横からカメラの音がして咄嗟に振り返った。

そこにはカメラを構えた黒髪の少年が立っていて、少しびっくりしてしまった。


「誰ですか…?」

「…あ。ごめんなさい、僕、田邊祐介っていうんだ。朝に散歩するのが趣味でね。」


ふーん、といのりは視線を顔からカメラに変えた。


「…カメラが気になるの?」


祐介はいのりに向かって歩き、隣に座ってカメラをよく見せた。


「カメラいつも持ち歩いてるの?」

「いや、そろそろ引っ越すんだ。この街は自然豊かで空気が美味しい。綺麗な思い出を少しでも残したくてね。」


柔らかに笑う顔に見惚れて、すこしの間顔をじっと見てしまった。


「そんなに見られると、少し恥ずかしいよ。」


いのりは恥ずかしそうに顔を赤くして、視線を下に変えた。

ただ周りの人よりもダントツ顔が整って、つい見惚れてしまう。そんなこともあるだろう。

少し沈黙が流れてすぐ、祐介は口を開いた。


「急なんだけど、僕とお付き合いして欲しいんだ。」


ものすごく急だ。ついさきほど会ったばかりの少年に告白などされると思ってもいなかったいのりはびっくりして噴水に落ちそうになってしまった。


祐介は綺麗に受け止め、顔がつい近づいてしまう。


「…あ、の。お付き合いって…」

「一目惚れってやつ、かも。もしかしたらね。」


こんなにも急に恋人になってもいいのだろうか、引っ越すことが確定しているのにここで付き合ってどうなるのだろうかと迷っていた時、朝の鐘が鳴った。


ゴーン_ゴーン_


「僕、もう行かなくちゃ。」


少年は立ち上がって、またね、と言い残して公園から颯爽と立ち去ってしまった。

あまりにも急な出来事すぎてぽかんとしていたいのりも家に帰ろうと考え、その場を後にした。


_______


毎日、雨でも雪でも、また彼に会いたい一心で公園の噴水に座っていた。


「来ないのかな、いや別に来て欲しいってわけじゃ…」


ひとりで落ち込んでいるとき、近所の人の噂話が聞こえた。


「え!祐介くん引っ越しちゃったの?いい子だったのにねぇ。」

「どうしてなのかしら、また会えるよって言って行っちゃったし、また帰ってくるかもねぇ」


引っ越した。その一言でいのりは深く傷付いたのかもしれない。別に好きでもなかった。ただ一緒に空を見上げて静かな、落ち着いた空間を過ごしただけだった。なのにどうしてこんなにも胸が苦しいのだろうか。彼が一目惚れだと言ってくれたことに、すごく嬉しくて嬉しくて泣きそうになっていた。


「これが運命のなのかな…すごく突然やってきて、突然消え去る…さすがに突然すぎるよ…」


連絡先だって、どこに引越したのかだって分からない。ただ、「また会えるよ」の一言を信じてこの街で待っていたい。あなたを待って、今度は私が言うよ。



「私も一目惚れだった」って。







「いのり、成人式おめでとうー!!」

「ありがとうお母さん。…苦しいかも」

「あらごめん、ついうっかり…」


いのりはあれから高校を卒業し、成人式を迎えた。


「私、気分転換に歩いてくる」


時々行きたくなる、あの公園。

どうして行きたくなるのだろうか。もう理由なんて忘れてしまったかも。


噴水の近くにはブランコや砂場、綺麗な遊具が出来たけど人がいる様子は全くない。


「ここ、どうして落ち着くんだろうな、不思議。」



カシャ



突然横から、カメラのシャッター音が聞こえた。


「…すごく綺麗だよ。久しぶり。」


彼だ。高い身長ときれいな肌にサラサラの黒髪。

顔を見た瞬間、全て思い出した。


「…祐介くん?」

「覚えててくれたの?嬉しぃな。」


いのりは息をする間も惜しんで祐介に抱きついた。


「わたし、ずっとずっと考えてた、あなたが帰ってきて、言うことも全部。」

「そうなの?」


涙が止まらないいのりにハンカチを差し出す。

カメラのレンズが光を反射して少し薄目になってしまった。


「ねぇ結婚しよう。私な運命の人は貴方よ。一目惚れだなんて信じてなかった、でも貴方と離れて、ずっと胸が苦しいの。これって恋だよね」


耳を真っ赤にしながら、真剣な眼差しで祐介を見た。一目惚れで結婚だなんてありえないかもしれない。だけどここまで惹かれるなんて、手を引くわけないじゃない。


「僕も、まだ好きだ。この恋は絶対偶然だなんて言わせない。僕がこの出来事を運命だって思わせるくらい、幸せにしてあげる」



午後6時、オレンジに光る綺麗な夕焼けを背景に、2人は永遠の愛を結んだ。



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