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三題噺もどき4

カイロと公園

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくさんじゅう。

 



 ようやく晴れが続くようになってきた。

 風は変わらず冷たいし、時折強く吹くが、夜空がすっきりと見えるに越したことはない。雲に隠れることなく見えている月は、もう半分ほどがなくなり、オムライスのようになっている。……今日の夕飯はオムライスにしてもらうかな。

「……」

 細身のパンツに、大き目のジャケットを羽織り、お気に入りになったスヌードを首に巻いている。大き目のやつなのか、鼻のあたりまで覆ってくれるのはほんとにありがたい。寒いと一番先にいたくなるのは鼻な気がするからな。痛みには慣れているが、痛くないわけではないのだ。痛いのは痛い。

「……」

 手が冷えるので、いつもジャケットについているポケットに手を入れて歩く癖があるのだが、それでも冷たいことに変わりはない。

 いつもは。

「……」

 今日は、そのポケットの中に小さなポーチが入っている。ガラのないシンプルなものだが、家を出るときに突然渡されたのだ。何かと思い受け取ると、中身に何が入っているのかがすぐにわかった。

 それのおかげで、今日は指先がほとんど冷えずに済んでいる。

「……」

 もったいぶらずに言うと、使い捨てカイロである。

 一度持たされたことがあったのだが、そのまま持っているのがどうにも嫌でその一回だけで終わっていた。中身が砂なのがよくない。そういうモノだと分かっていても持って居たくはない。色もグレーだし。

 そのあたりを考慮して、ポーチに入れてくれたのだろう。専用のやつかどうかは知らないが。

 できた従者である。いつもはあの態度だが。

「……」

 しかし指先が冷えないだけでこんなに違うのかと思うくらい温かい。

 今は充電式のカイロとかもあるらしいが、少々値が張るので買おうか迷っていたところではあったのだ。安いのを買うとあまり保たなそうだし、性能をよくすると当然高くなるし。

 まぁ、このポーチがあれば、使い捨てのカイロで済みそうなのでいいかもしれない。これはこれで良い値段はするが……。というか二月なんて本来カイロいらないはずなんだけどな。

「……」

 冷たい風が吹く中、カイロの温かさとできた従者に感心をしつつ、歩いていく。

 今日の目的地は決まっていた。先日通り過ぎたりはしたんだが、入りはしなかったので、あの子に申し訳ないことをしてしまったからな。

 それに、そろそろ行ってみようかと思っていた頃だったので丁度いい。

「……」

 足の向かった先は、小さな公園である。

 ブランコにジャングルジムにシーソー。子供たちが喜びそうな遊具がぎゅうと詰め込まれている。端にはベンチが置かれており、木々も植えられている。

「……やぁ」

 声を掛けながら手を伸ばしたのは、ブランコの椅子。

 なぜか懐かれ、家にまで憑いてきたブランコである。あの後ここまで返したはいいが、家にまできぃきぃと音が聞こえることがあるので気にはしていたのだ。それより前から聞こえてはいたが、それ以上に聞こえることが多いのだ。その音はわざと聞こえるようにしているんだろうけど。とんだじゃじゃ馬である。

「……あぁ、すまなかったね」

 先日手だけ振って帰っていたのを怒られてしまった。

 あの日はあまりにも風が強くて寒かったので、すぐ目の前まで来たが撤退したのだ。あのままブランコに乗りでもしたら、冷えておしまいだ。防寒はしていたが、カイロを持っていなかったからな。……関係ないか。

「……うん」

 ここにはブランコだけではなく、ジャングルジムもいるしシーソーもいる。ベンチだっているし、鉄棒もいるようだ。混じるように聞こえるのはここに何年も根を張っている木々だろう。ここにいるのは皆して仲が良いようだ。

 きっと、人々が大切に扱っているからだろう。

「……ははっそうなのか」

 今日は子供がこんなふうに遊んでいた。どちらが先にのるかで喧嘩をしていた。昨日はこんなことがあった。そういえばあのボールは拾われていった。いつも来る親子がいる。初めて見た顔があった。先週はこんなこともあった。

「へぇ……」

 会話は聞いていて飽きない。

 この目で見ることは出来ない、人の生活の一端を見せてくれる。

 いつも見るのは、帰路につく人と、スーパーで働く人くらいで。仕事で話す事もあるが、それも大抵はチャットなんかで終わってしまう。見ることはないな。

「……ん?」

 相槌を打ちながら、会話を楽しんでいると。

 時計が時間を押してくれた。

 おっと、もうそんな時間なのか。もうそろそろ帰らなくては。気の利く態度の冷たい従者が待っている。今日は何だろうか。りんごを切っていたから、アップルパイかな。ようやくチョコレート菓子は終わりかな。

「……うん。それじゃぁ」

 ブランコから立ち上がり、公園の出口へと向かう。

 今日は憑いてくるなよと釘を刺して置き、帰路につく。

 次はいつ来ようか。





「……戻った」

「寒くなかったですか」

「あぁ、カイロのおかげで」

「そうですか……今日はチョコレートアップルパイですよ」

「……そうか」












 お題:公園・りんご・ポーチ

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