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のぞみ遊園地  作者: 仲原 穹矣
喉の痺れる甘さ
2/3

甘液の小瓶1



───ここはどこなんだろう。


中村友莉は困惑しながらも、どこか冷静であった。右手に目を向ける。「黒い葉書き」を持っていたはずの手には何も残っていない。


「「のぞみ遊園地」へようこそ」


彼女は声がした方に体を向ける。そこには、180を超える長身な男性が静かに佇んでいた。妖しげで色白、目を奪われてしまいそうな程美しかった。


「ファルシュと申します。」


彼女はようやく口を開くと──


「「のぞみ遊園地」…。ここはどこですか…?…日本ですか?」


「あまり詳しいことは言えませんが、貴方がいた世でも死者の世でもない、「存在してはいけない場所」とでも言いましょうか。」


「……どういうことですか…?」


「まぁ、場所はあまり重要ではありません。」


ファルシュは一度咳払いし、続けた。


「それでは当園の説明をさせていただきます。お客様にはこの遊園地で全力で楽しんでいただきます。心の底から楽しむことができたなら、お客様の望みを何でも叶えます。」


「ちょっと待ってください楽しんで願いを叶えて貰うって…どういうこと?」


「……「楽しんだのに、加えて願いも叶うなんておかしい!」ですか?いえいえ、我々はお客様に楽しんで頂かないと死んでしまいます。なので、お礼がしたいんです。Win-Win というやつです。」


「死ぬ……?もう何が何だか分からない…。」


「我々「のぞみ遊園地」のスタッフは、喜怒哀楽の「楽」を養分として生きる魔物なのです。 そのため、「楽」を見せて頂かないとお腹が空いて死んでしまいます。」


友莉は余計分からないという顔をした。


「なのでお客様の「楽」という感情を我々に見せてくれればいいわけですね。」


「……それで、私は帰れるの?」


「えぇ、もちろん。全てのアトラクションが終了いたしましたら、記憶を消して元の世界にお送りします。」


友莉はやっと安泰の表情を見せた。しかし、すぐに不思議そうに首をかしげた。


「でも、楽しいって感情はどうやって食べるの?」


「そのことに関しては心配なさらなくても大丈夫ですよ。当園ではこの小瓶を使います。お客様が「楽」を発したとき、この小瓶に甘液あまつゆが溜まり、蓄積されていきます。一度溜まったら減ることはありません。」


「直接食べることはできないのね。」


「いえ、食べれるのですが、目に見えるようにした感情の方が美味ですし、お腹持ちも良いのです。

少なくとも我々にとってはご馳走です。」


「そうなんだ」と感心したように呟くと、興味がより湧いたようで、段々と顔が明るくなっていった。


「"甘液"って美味しそうね…舐めてみてもいい…?」


「人体に害はないので、どうぞ。」


そう言われると、彼女はこれ以上ないぐらいの笑顔を見せた。ファルシュが持っている小瓶に残っている甘液に目を向ける。


「…あれ、さっきより小瓶の中の甘液が増えてる?まぁいいや。」


 躊躇いなく、口の中に甘液を入れた。口に入れた瞬間、彼女の体は震え始め、時々ビクッと体が跳ねるようになった。

 ファルシュは体が跳ねる様子を見て焦ったのか、「人間に食べさせたのは初めてだからな」と零す。恐る恐る彼女に話しかける。


「どうですか?」


話しかけられると、友莉は目に涙を浮かべながら答えた。


「…!!…お…いしい…!!…なにこれ…めっちゃ美味しいんですけどぉ……感動…!!」


「…それは良かったです。」




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




まだ甘液の余韻で体が震えている友莉を落ち着かせ、ファルシュは説明を続けた。


「アトラクションは計7つ。それぞれに管理人の魔物が付いています。管理人にはそれぞれ専用の小瓶があり、「楽」を向けた相手の小瓶に甘液が溜まります。 どうぞ、小瓶です。落とさないようにしてくださいね、替えはないですから。」


ファルシュはそう言って、親指程しかない小さな小瓶を友莉に渡した。


「…あ!だからさっき あなたの小瓶の甘液が増えてたんだ!にしても小瓶多いね……1.2.3…4……え9つ?管理人て一人ずつじゃないの?」


「1つは私の分ですね。」


「てか、「「楽」を向けた相手の小瓶に甘液が溜まる」って……あんたメッチャ不利じゃんよ。案内係なんだから。」


そう言われて、少し不服そうに彼は答えた。


「舐めないでください。先程も溜まっていたでしょう?心配はいりません。」


「ふーん…というか、9つだから…もう一つの余りは?」


「管理人が2人いる所があるんです。」


「2人?なんでそこだけ?」


「1つ目のアトラクションは、その2人の担当ですので、詳しくはそこに着いてからお話します。さあ、そろそろ園内にお入りください。」


友莉は、ハッとしたように遊園地のゲートを見た。彼女は園内にまだ一歩も踏み入れていない。友莉とファルシュで遊園地のゲートを挟んでいる。彼女はそんなつもりは無かったが、本当はまだ少しも心を許していなかった という事に気が付いた。


「では参りましょうか。1つ目のアトラクションへ。」



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