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08 感じたことのなかった安らぎ

 王都で大人気というこのカフェは、木目調の家具で統一され、男性でも入りやすい内装である。

 デザートの種類も豊富で、ちょっとした軽食も取れるようになっており、とても使い勝手がいい。それだけに、いつも行列ができていた。

 グレンがジーンに付き合って王都に来た時も、たくさんの人が並んでいた。


『すごい人ですね』

『そうだろう? 二ヶ月ほど前にオープンした店なんだが、かなり評判がいいんだ』

『女性同士はわかるのですが、男性同士でも並んでいますね』

『そうだな。カフェといえば可愛らしい内装の店が多いが、あそこは落ち着いた雰囲気らしいぞ』

『なるほど。だから、男性同士でも入りやすいんですね』


 ジーンとの会話で、店の様々な情報を仕入れた。その際、予約すれば並ばなくていいことも知った。

 予約は、今のところ誰でもできるわけではないらしい。オーナーの知り合いだったり、常連だったりと条件つきのようだが、行きたいのなら話をつけるとジーンは請け合った。

 今日、ダイアナと一緒に王都に行くことが決まってすぐにジーンに話をしたのは、彼女には内緒である。


『イヴリンが散々自慢していたからな。ダイアナも羨ましそうにしていたから、きっと喜ぶだろう』


 ジーンはそう言って微笑むと、すぐに店に連絡を取るよう従者に命じた。

 そのおかげで、グレンとダイアナはすぐに店に入ることができたのだった。


「素敵……。とても落ち着きます」


 お忍びとはいえ、王族のダイアナが来店するとあって、奥の席に通される。そこは人も少なく、比較的静かだ。窓際で外の景色もよく見える。

 店に入った途端、ダイアナが感激したようにそう呟いたものだから、グレンの気持ちは浮き立つ。


 喜んでもらえてよかった。


 ダイアナは他のきょうだいたちとは違い、どこか遠慮している。グレンはそれをいつも感じていた。

 他の皆のように気軽に接してほしい。もっとたくさん話をしたい。いろいろな表情を見せてほしい。

 時間が経てば経つほど、そう思うようになっていた。


 グレンにとって、ダイアナは恩人である。


 アレクサンドラの婚約者に決まってからは、常に気を張っていないければならなかった。

 彼女の要求は留まることを知らず、それに応えることが苦痛になっていく。彼女の顔を見るだけで胃が痛む。声を聞くと耳を塞ぎたくなる。

 アレクサンドラはとにかく愛を請い、グレンを縛り付けようとした。それが苦しくてならなかった。

 婚約者として最低限のことはしていたが、それ以上は心と身体が拒否した。

 アレクサンドラはそれに腹を立て、グレンを詰る。そして嫉妬を期待してか、ホレスとの逢瀬を見せつけるようになり……。果ては、婚約破棄だ。


 一方的に責められ、婚約破棄を突きつけられるなど、他人には酷い仕打ちと映っただろう。だが、グレンはホッとしていた。ようやくアレクサンドラから解放される、と。

 それだけでよかったのに、更にはグレンを庇う人間が現れたのだ。それが、ダイアナだった。


 獣人を貶める発言が許せなかったから、というのが一番の理由だったのだろう。しかし、グレンに対するアレクサンドラの態度にも怒りを露わにし、人種差別の激しいあの国から連れ出してくれたのだ。


 人間だろうが獣人だろうが、同じ「人」ではないか。人間は獣人を見下すが、人間がどれほど偉いというのか。

 知能も変わらない。理性もある。身体能力でいえば、彼らの方が著しく高い。獣人が本気で牙を剥けば、人間などあっという間に駆逐してしまえる力を持っている。

 だからこそ、人間は獣人を恐れる。その恐れをひた隠すため、彼らを下位に位置づけているだけなのだ。


 グレンは、そんな考えに辟易していた。相手が王女でなければ言い返してやりたかった。

 そして、そんなグレンの代わりに反論してくれたのも、ダイアナだった。


 ダイアナはグレンを救ってくれた恩人で、女神のような存在。

 だが、今は──


 ダイアナ様が俺にとって女神であることは変わらない。が、敬うだけではもう足りない。

 彼女といると心が安らぐ。楽しい。嬉しい。──愛しい。


 誰かといてこんな気持ちになるのは、グレンにとって初めての経験だった。


いつも読んでくださってありがとうございます。

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