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02 交流夜会

完結まで毎日12時に予約投稿済みです。

安心してお楽しみください!

 事のはじまり──それは、美しい月夜だった。

 豪華なシャンデリアが煌めき、一流の演奏家たちが奏でる音楽が流れている。


 ここは、マネルーシ王国の王城。今宵は夜会が開かれている。それは、マネルーシ王国が隣国のティアル王国との交流を目的として開催されたものだった。

 広々としたホールでは皆がダンスを楽しみ、その傍らでは社交が行われている。ひしめく人の間を縫うように、給仕をする者が足早に、且つ、優雅に行き交っていた。


「ふぅ……」

「王女殿下、お疲れでしたら控室にお連れします」

「いえ、そうじゃなくて。……でもそうね、少し疲れたかも。外の空気を吸いたいわ」

「でしたら、バルコニーに」

「そうね……」

「殿下?」


 思案していても、その瞳は宝石のような輝きを放ち、姿勢のよい立ち姿には高貴さが漂っている。身に着けているものといえば、もちろん一流の品ばかり。

 そんな彼女は、側に控える護衛に向かって不満を漏らした。


「ジョナス、「王女殿下」なんて呼ばれるとむず痒いわ。いつもどおりでいいから」

「しかし……」

「私が王女といっても、この国の貴族たちは敬ったりしないわ。表ではそう振る舞っていても、裏では私たちを見下しているのだから」

「……」

「だから、いつもどおりでいいのよ。私がそう望んでいるの」


 ジョナスと呼ばれた護衛は、口を真一文字にして俯き加減になる。そして、その拳は強く握られていた。頭の上にある丸い耳が、若干萎れている。尻尾もしょんぼりと下がっていた。

 しかしすぐに顔を上げると、しっかりした声で応える。


「承知いたしました、ダイアナ様」

「それでいいわ」


 ダイアナが満足そうに微笑む。その微笑みは、天使のように神々しい。

 その笑顔に周りは魅了されるが、それも一瞬のこと。すぐに平常を取り戻す。だが、ダイアナの一挙手一投足に皆が注目しているのは、一目瞭然だった。


 ダイアナの護衛、ジョナスは熊の獣人である。そして、ダイアナは猫の獣人。

 ティアル王国は、獣人の国なのである。ダイアナは、ティアル王国の第二王女だ。

 今日の交流会には、王太子である第一王子が参加する予定だった。しかし、妃が身重であり、もうすぐ出産ということもあって、参加を見合わせることにした。

 ならば、姉である第一王女が出席すべきなのだが、彼女は自由奔放な性格で、出席を拒否した。


『マネルーシは、弱っちいくせにうちを見下して偉そうだから嫌いよ。私は行きたくないわ!』


 とのことである。

 いくら説き伏せても無駄だ。彼女はこうと決めたら梃子てこでも動かない。

 我儘で気ままな彼女だが、家族には優しい。ダイアナも常々可愛がってもらっている。ここは引くしかなかった。


 ダイアナは上から三番目であり、上の二人が参加しないとなると、もう彼女しかいない。下の弟妹たちは、他国に単独で来られる年齢ではなかった。

 というわけで、ダイアナは専属侍女のエリンと護衛のジョナスを連れて、ここへやって来たのである。もちろん他にも護衛や従者はいるが、彼らは皆、宿屋で待機させていた。


 ダイアナたちは賓客として迎え入れられていたが、王城での宿泊を辞退した。王城で形だけの接待を受けても気苦労が絶えないからだ。それなら、まだ王都に構える高級宿の方が気楽である。

 防犯という観点では、もちろん王城の方が安全。しかし、獣人にとってはさほど問題ではない。

 例えば、マネルーシの騎士団全員で攻め入られでもしたら、さすがにダイアナたちでも全滅してしまうだろう。統制された集団に、少人数ではとても太刀打ちできない。

 だが、そこらの盗賊や強盗なら、こちらが圧倒的に強い。束になって来られたとしてもだ。

 だから、居心地の悪い王城よりも宿を選んだ。


 姉王女の言うように、マネルーシ王国はティアル王国を見下している。

 一応友好国なのでそれなりの体裁は保っているが、マネルーシ王国は人間至上主義であり、異種族差別が激しい。故に、獣人のことも毛嫌いしていた。

 先々代のマネルーシ王はそんな二国の関係を憂い、お互いが分かり合えるようにと、こういった交流会を催すようになった。しかし、その成果は未だ出ていない。


 人間と獣人の違いは、一番は見た目である。

 獣人には属する動物の耳と尻尾がついている。猫獣人のダイアナにも、尖った耳と長くしなやかな尻尾がある。

 ただ、女性の場合は尻尾はドレスで隠れる。問題は耳だが、これも髪の結い方や飾りで誤魔化すことが可能だ。しかし、男性はそうはいかない。

 熊獣人のジョナスは、耳も尻尾も隠れない。熊なのでそれほど大きくはないが、それがない人間と並ぶとどうしたって目立つ。

 王女であるダイアナにはそれなりに敬意を払っても、ジョナスには冷ややかな視線を向ける者も多かった。

 そういうこともあり、少しの間だけでもこの場を離れたいと思ったのだ。


「そうだ。ここの庭園は綺麗な花々が咲き乱れて、それは美しいそうよ。月明かりに照らされた花も、さぞ美しいことでしょう。ジョナス、庭園に行くわよ」

「ダイアナ様、庭園は広うございます。月で明るいとはいえ、暗闇は危険です」

「暗闇が危険? 私は猫の獣人よ。夜目がきくわ」


 獣人は、属する動物の特徴を引き継いでいる。故に、ダイアナは人間よりも夜目がきくし、運動能力も高い。おまけに聴覚や気配にも鋭い。大抵の危険は回避できる自信がある。


「ダイアナ様……」

「お願い。気分を変えたいの」


 そう言って上目遣いでうるうるすると、見た目にそぐわず心優しいこの護衛が折れることを、ダイアナはよく知っていた。

 案の定、ジョナスは渋々ながらもダイアナの希望を受け入れる。


「少しだけですよ」

「えぇ、わかっているわ。少しだけ」


 二人はさりげなく場所を移動し、目立たないようにこの場を後にした。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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