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12 それから

 あの後、ダイアナたちは改めてオーウェル侯爵夫妻に挨拶をした。

 急な婚姻であったにもかかわらず、了承してくれた二人には感謝しかない。


 マネルーシに来る前にジーンが取った策というのは、ダイアナとグレンを結婚させることだった。

 高位貴族の結婚は、パワーバランスを保つため、王の許可が必要になる。

 これが一番の肝だったのだが、ジーンは速攻でマネルーシの王太子に事情を話し、協力を得ることに成功した。


 王太子は周辺諸国に外遊していたこともあり、両親と妹の暴走を後で知り、頭を抱えていたのだ。

 彼もまた、他種族に対する自国の意識が相当遅れていることを憂慮しており、今後は自分がリーダーシップを取って変えていかねばならないと思っていた矢先の出来事だった。そういったことも、ジーンはお見通しだったのである。


 結婚してしまえばこっちのものだ。誰であろうと、貴族の結婚を後からどうこうすることはできない。ましてや、今回は貴族同士ではなく、片方は王族である。

 ダイアナはその身を捧げられるか、グレンは覚悟があるか。

 それは、二人が早々に婚姻を結ぶことに対し、問われていたことだった。


「お兄様はさすがね。相変わらず手際のいいこと」

「私もできる限り情報は集めるようにしているけれど、お兄様には敵わないわ」

「当たり前よ。あなたに負けるようじゃ、王太子は返上よ」

「この国の未来は安泰ですね」


 庭園のガゼボで、イヴリンとダイアナ、そしてグレンが語らっていた。いや、正確にはあと二人いる。

 ダイアナの膝には猫になったフローラが丸くなって寝ており、グレンの膝には同じような状態のアイリス。先ほどまでリオンもいたのだが、勉強の時間ということで部屋に戻っていた。

 幼い弟妹たちは、ダイアナたちが戻ってきてからやたらと甘えてくる。彼らがマネルーシに行く前、事情をよく知らなかったとはいえ、どこか緊迫した雰囲気を感じていたらしい。


 グレンも一緒に戻ってきた。

 二人の結婚については、ダイアナがグレンの元に嫁入りした形になっている。なので、ダイアナがマネルーシに行くという選択もあったのだが、グレンは首を横に振った。


「ティアル王国で暮らしたいのです」


 グレンは、思いのほかこの国を気に入ったらしい。また、リオンやフローラ、アイリスの成長を見守りたいとのことだった。

 彼らがグレンを慕うのと同じくらい、グレンも彼らを可愛がっている。離れ難かったのだろう。三人で語らいながらも、グレンの左手はアイリスの背を優しく撫でている。


 グレンはすでに、ティアル国籍を取得していた。マネルーシに戻る前にはすでに心を決めており、両親や王家に話を通していたのだ。そして、ダイアナと結婚する前に侯爵位も得ていた。

 グレンはマネルーシ王国で文官として働く傍ら、植物学の研究をしており、大きな実績をあげていた。その研究はティアルでも高く評価され、叙爵となったのだ。


 ただ、他の貴族たちから反対が出なかったわけではない。

 しかし、ティアルの学者たちからの高い評価、王族の後押し、ダイアナの夫、と諸々の背景が鑑みられ、最終的には受け入れられた。

 これらは全て水面下で行われており、ダイアナには一切知らされていなかった。知った時には吃驚仰天したものだ。

 グレンはダイアナにも話そうとしたが、ジーンに止められたらしい。やり手の兄は、時折こんな悪戯を仕掛けることがあるのだ。まったくもって油断ならない。


 そして二人には、領地はないが、王都内にある緑豊かな土地を与えられた。そこに居を構え、生活することになる。

 現在は、邸が建つまで王城で暮らしながら、これからの生活……特に、結婚式に向けて準備を進めているところだ。


「結婚式もそうだけれど、家令や使用人、護衛の選定もあるでしょう? なかなか大変よね」


 いろいろな人に手伝ってもらいながらではあるが、人を選ぶというのはなんと難しいことか。


「そうなの。でも、エリンもジョナスもついてきてくれるから心強いわ」


 ダイアナの専属侍女であるエリン、そして専属護衛のジョナスは、そのままついてくることになっていた。彼らがそれぞれの長となり、これから雇う使用人たちのまとめ役となってくれるだろう。


「家令についても、ジーン殿下の伝手で、いい方を紹介してもらえそうです」


 使用人については主にダイアナが、家令はグレンが決めることになっている。護衛はジョナスに一任していた。彼なら実力はもちろん、人となりも考慮した素晴らしい護衛を選んでくれるはずだ。


「もうすぐティアルを離れるのが、なんだか淋しくなってきたわ」


 イヴリンの嫁入りも間近だ。こうしてのんびりとお茶できるのも、あともう少し。

 淋しい、とダイアナも思う。しかし、姉は望まれて大国に嫁ぐのだ。それに、今ではイヴリンも楽しみにしている。彼女なら、きっとあちらでも自分らしくやっていけるだろう。


 その時だった。使用人が、一通の封書を持ってやって来る。


「イヴリン殿下、お手紙が……」

「エリックからね! ふふ、相変わらずお返事の早いこと」


 エリックとは、イヴリンが嫁ぐ相手だ。

 大国の王太子は、多忙の中でも常にイヴリンのことを気にかけている。

 手紙を使用人から受け取ったイヴリンは、頬を紅潮させていた。


 なんだかんだ言いつつも、お姉様はエリック殿下をお慕いしているのよね。彼からのお手紙は、いつどこにいても持ってこさせるのだから。


 ダイアナは小さく微笑む。


「それじゃ、私は部屋に戻るわね。フローラとアイリスも連れていくわ」


 そう言うと、イヴリンは侍女たちに目配せする。すると、彼女たちはダイアナとグレンの膝で眠っていた二人をそっと抱き上げる。


「あとは、二人でごゆっくりね」


 イヴリンは悪戯っぽく笑い、ガゼボを後にした。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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