5/30(金):東江愛理
「やっぱり学人くんだ! 一昨日ぶりだね!」
「そうだな……」
グイっと来る東江にどうしてダンジョンにいるのかと疑問に思った。
だって未遂とは言えあんなことがあったのにダンジョンにすぐに行けるとか鋼の精神すぎだろ。面白いな。
「私の彼氏に近づかないでくれる?」
グイッと来ている東江との距離を離すべく輝夜が俺の腕を引いて後ろに下がらせる。
「あっ、彼女さんがいたんだ……不用意なことをしてごめんね?」
「分かればいいのよ。それじゃあ私たちは行くわ」
「ま、待ってよ! せっかく会ったんだし少し話さない……?」
「ここはダンジョンの中よ。そんなもの地上で会った時でいいわ」
まあそりゃ御尤もで。あっ、東江の後ろにメイドの東雲さんがいる。メイドもこんなところまで来ないといけないのか。大変だな。
「ここで会ったのも何かの縁だから私たち四人でパーティを組まない!?」
俺の腕を引いて先に行こうとする輝夜だが東江のその言葉で止まった。
「あなたたちでは私たちの足を引っ張るだけよ」
おぉ言うねぇ。でも輝夜はもうLv33になっているからそれを言うには十分すぎる。
「そうかもしれないけど……私は学人くんともっと一緒にいたいかな……」
え、えぇ……どうしてそんなことを言われているんだ俺? しかも輝夜の腕をつかむ力が強くなっているし。もうとんでもないな。
「ハァ……学人、あなたが決めなさい」
「そうだな……」
この場において一番の重要人物は俺なわけだから俺が決めないといけない。
今日は輝夜の気分転換も兼ねているしダンジョンを二人で楽しむという日だ。そういう時に最近知り合ったばかりの人と一緒にパーティを組むというのは気まずい雰囲気になりそうだ。
俺一人ならば面白さでパーティを組んでいただろうが輝夜の方が優先度が高い。
「今日は控えてくれ。今は彼女と楽しく冒険をしているからな。でも機会があれば一緒に行こう」
「そっかぁ……残念だなぁ。追いたくなるくらいには残念だなぁ」
こいつもストーキングのことを言っているよ。最近流行っているのか?
でもこれは輝夜をストーカーするのではなく俺をストーカーするのだからまだいいか。
「勘弁してくれ。東江のレベルはいくつなんだ?」
「12だよ」
「それなら危ないぞ」
「大丈夫! 私には早紀がいるから!」
「私のレベルは29です。お嬢さまをお守りすることはできます」
Lv29か。平均くらいか。日本の才能アリのレベル平均は30くらいだったはず。それで最高レベルは公表されている中では58だったはず。
東江を襲おうとしていた奴はレベルが40くらいらしいから上位にいた冒険者だったということだ。今の俺にとっては面白味の欠片もないけど。
どうしたものか。これが見知らぬ人なら無視して行くのだけれどアイテムの取引相手だ。これで相手に何かあれば東江家が大変になって取引どころではなくなるかもしれない。
「いいんじゃないかしら。私のことを気にしているのなら大丈夫よ」
「……分かった。それならこの四人でパーティを組むか」
「ホント!? ありがとう!」
組んだところでどうなるかなんて分かり切っている。東江に合わせることになる。
「本当にいいのか?」
俺は輝夜の耳元で小言で問う。
「いいわよ。彼女が東江家のご令嬢なのでしょう? 仲良くしておいて損はないわ」
「いやそれはどうでもいいんだよ。いざとなれば転移で帰せばいいんだから。今日は輝夜の気分転換できたんだから」
「それはいつでもできるわよ。……それに、才能ナシだった者同士なのだから少しくらいは寄り添ってもいいとは思っただけよ」
「……そうか」
輝夜は本当に優しいな。
「あっ、自己紹介がまだだったね! 私は東江愛理。もう学人くんから聞いてるかな?」
「えぇ、聞いているわよ。東江家のお嬢さまでしょう? 私は月見里輝夜よ」
「こっちは私のメイドの東雲早紀」
「よろしくお願いします」
各々のことを自己紹介をし終え、パーティを組む上で大事なポジションについて話さないといけない。
「パーティなんだから自分の役割を言わないとな。俺は魔法剣士をしている」
「さっきからずっと思ってたけど……その剣ってどこで作ってもらったの?」
あぁ、ずっと剣王の魔剣を出しっぱなしにしていたから東江たちに見られている。それを言うなら輝夜の魔法士の杖と賢者のローブもそうだから今更な話か。
「これもそうだけどスキルを持っていても作れる人はいないみたいだね。ウチの専門的な人が言っていたよ」
バッチリと聖者のコートを着ている東江がそのコートを指した。
「それに月見里さんが着ているローブや杖もそういうものだよね? 作った人を教えてほしいな。その人をウチで雇いたいって思っているから。もちろん素性が知られたくなければ周りにバレないようにするよ」
そう言われてもこれはレベルアップ報酬で貰っただけだからな。
「これについては答えるつもりはない。悪いな」
「ううん、いいの! 答えられないことは誰にだってあるよね! 聞いてごめんね」
「いや大丈夫だ」
まあこう言うしかないよな。気を取り直してポジションの話を再開する。
「それじゃあ次は輝夜だな」
「えぇ。私は魔法使いをしているわ」
「魔法使い……何が使えるの?」
「……ここで秘密にしても意味がないわね。私が使える魔法は魔弾、水魔法、土魔法、風魔法よ」
「えっ!?」
俺がいるとは言えダンジョンという場所で出し惜しみすることをしないつもりの輝夜は使える魔法を答えた。
その輝夜の言葉に東江は酷く驚いている。東雲さんも分かりづらいが驚いている感じだった。
「み、水魔法があるの!? それに……魔弾ってなに!?」
「新発見の魔法よ」
「し、新発見!?」
もしかしなくても輝夜は自慢したくて言っていないか? まあ俺は自慢する気はないから代わりにやってくれるのなら喜んで代わる。
「う、売ってくれないかな!?」
「そうやってお金で解決するのはお金持ちの癖なのかしら? 新発見の魔法の魔弾にはお金以上の価値があるでしょう?」
「うっ、そ、そうだよね……」
輝夜はボトルの出所が俺だと思われないように話しているのか。ホントに抜け目ない。
「お嬢さま、次はこちらが言う番かと」
「あっ、そうだね。武器は短剣で風魔法を使うよ」
「私はアビリティ『忍び足』を持っております。敵に気付かれずにこの剣でモンスターを殺す暗殺者をしています」
魔法剣士、魔法使い、魔法剣士見習い、暗殺者という組み合わせか。まあいいんじゃないか? バランスも良さそうだし。
あれ、レベルアップ報酬に暗殺者用の習得アイテムがあったな。あったところでどうこうするつもりはない。
「それじゃあ行こっか!」
「一番弱いあなたが前に出ないで」
輝夜と東江が前に出てそれを俺とメイドさんが付いて行く形で進むと少し遠くでサイレンウルフが三体いたため止まった。
「またサイレンウルフだな」
「あっ、やっぱりあの遠吠えってサイレンウルフのものだったんだ」
「聞こえていたのか?」
「うん。聞こえたから行ったんだよ」
「危ないだろ」
「もしかしたら学人くんかなって思って……えへっ」
彼女持ちに言う言葉ではないだろう。
「行くわ」
「えっ!? い、行くの!? サイレンウルフは会わない方がいいよ!」
そんな東江が気に喰わなかったのか輝夜がサイレンウルフに向かっていく。
「さっきもサイレンウルフと戦ったわ。だから私たちは大丈夫なのよ。身の危険を感じているのなら隠れていなさい」
「そういうことだ。まあ来るのなら危なくないように俺が守るから安心しろ」
「う、うん……わ、私も頑張るからね!」
これくらいでもハンデにならないだろうが面白さは増す。
『学人、私よりその女と話し過ぎじゃないかしら?』
輝夜から念話が飛んできた。
『ごめん』
『その女を同行を許したのは私よりもその女を構ってもいいというわけではないのよ?』
『あぁ、分かっている』
「どうしたの?」
「いや、何でもないぞ」
さすがに俺と輝夜はまだ念話をしながら会話をするということはできないため黙っていたら東江に問われた。
「ふぅん。そうなんだ」
俺の答えにムスッとして返してきた東江。前回会った時もそうだったが東江はウソを言われるのが嫌なんじゃないのか? それで機嫌が悪くなるのかもしれない。
それも気を付けないといけないとはかなり攻略難易度は高そうだ。俺は別に攻略する気はないけど円滑にコミュニケーションをとるのなら気を付けないとな。
「そうだ。人には言いたくないこともあるんだからな」
「……分かってるけど」
「話してないで行くわよ」
「あぁ」