4/25(金):ダンジョン都市のカギ
三月一日から投稿しようかなぁと思いましたけどうるう年だから二月二十九日にしました。
「よいしょ」
ダンジョンの一階層にて一番弱いとされているスライムを手際よく倒す。
スライムたちの行動パターンはすでに千近く倒しているから分かっている。だから一切傷を負うことなくなまくらの剣で倒せている。
「またやってるよ」
「飽きずによくやる」
「スライムを倒しても経験値はそんなに貰えないのにな」
一階層でやっているものだからスライムを倒しまくる俺の行動をよく見られている。
スライムの経験値は個体差はあれど基本は1であり、スライムを倒すのは最初だけだ。戦闘に慣れてレベルが上がればスライムよりもその次のチンアントを倒した方が経験値は貰える。
だけど俺のステータスに問題がある。
『新月学人
Lv2
HP(14/15)
MP(2/2)
ATK:7
DEF:6
AGI:6
DEX:8
RES:6
EXP(297/932)
スキル
アビリティ
魔法』
俺のステータスは膨大な経験値を要求されるのにその見返りが全くない。
普通ならLv2に上がる時は10くらいでいいものが、俺は七百ほど要求され、さらにはステータスの上りが低いからここでスライムを倒すしかないのだ。
地道すぎる一歩というか、他の人から見れば俺は冒険者としての才能はないのだろう。
でも俺の人生なのだからどれだけ無駄なことをしていても、俺は俺がやりたいことをするだけだ。どれだけ笑われようと。
それにそっちの方がやりごたえがあるというものだ。壁は高くないと。
「ん?」
RPGの最初の草むらでレベル上げしていたことを思い出しつつスライムを倒していると変わったドロップアイテムが出てきた。
いつもなら魔石かスライムの体液がドロップするはずだが今回はカギだった。
「何だこれ……新発見だ」
スライムのことを熟知している俺だからこんなアイテムがドロップすることはネットでも知られていないはず。
ただ俺には鑑定スキルがないからこのアイテムがどういうものか分からない。ダンジョンの秘密の場所を開けることができるのかもしれない。
「ん?」
『ダンジョン都市のカギ
ランク:不明
千エネルギー分の魔石を蓄積するとどこの扉からでもダンジョンに三十日間入ることができる。期間が過ぎれば再ジャージすることで再び使用可能。現在のエネルギー(0/1000)』
鑑定スキルを持っていないのにこのカギの情報が見えた。
こういう風に見えるのかと興奮しながらも書かれている情報を読み解く。
「こんなダンジョン形式は見たことがない……それに千エネルギー?」
魔石は新時代のエネルギーとして注目されている。だがその魔石のエネルギーをどうやってこのカギに、どういう基準でエネルギー量になっているのかは分からない。
ただ強いモンスターからドロップする魔石はエネルギー量が高いと言われている。それにたまに出る大きな魔石もエネルギー量は大きいとか。
それなら今日換金していないスライムの魔石はどれくらいのエネルギーなのか。
「こうか?」
カギにスライムの魔石を近づけてみると魔石は風のようになり俺の手から消えた。不思議現象に興奮しつつも情報を見る。
『ダンジョン都市のカギ
ランク:不明
千エネルギー分の魔石を蓄積するとどこの扉からでもダンジョンに三十日間入ることができる。期間が過ぎれば再ジャージすることで再び使用可能。現在のエネルギー(1/1000)』
「これは……長そうだ」
大体予想はしていたがやはりそうなってしまったという感じか。
でもこの未知のカギの先に何があるのか気になるから道が長くてもやるつもりだ。これでしょうもないものだとしても、それはそれで面白くてオチが付く。
「やるか!」
☆
「悪い、今日輝夜からもらっていたお金を使ってしまった」
料理が置かれているテーブルを挟んだ正面にいる女性に素直に白状する。
俺が作ったヤンニョムチキンを美味しそうに頬張っている、本来の近づきがたい雰囲気を知っている人なら別人かと思ってしまう濡羽色の長髪の女性、月見里輝夜。
「気にしなくていいわ。だってあれは生活費として学人に渡しているものなのだから。むしろ今まで使っていなかったことに怒っていたわよ」
「ここに住まわせてもらっているんだからそれくらいは出しておかないと」
「無理やり住んでもらっているのだからそう考えるのは自分に厳しすぎるのよ」
何でも完璧にこなせそうなのに壊滅的に家事ができない輝夜に幼馴染としての特権を使われて外堀を埋められ俺は一緒に輝夜の家に転がり込んだ。
「いやでも……ヒモみたいだろ」
「ヒモじゃなくて専業主夫よ。家事をすべてしてくれるのだから専業主夫以外にないでしょ」
「そうか……? それだと世の専業主婦さんに失礼だと思うんだが……」
「こんなに美味しいヤンニョムチキンを作れて、こんなに綺麗に部屋を掃除してくれ、快適な生活を送らせてもらって、これなしだと生きていられないと思えるのだから学人は立派な専業主夫よ」
「そうか、ありがとう」
輝夜に淡々と説得されて俺は素直に頷くしかなかった。
「でも珍しいわね。今日はダンジョンに行ってなかったの?」
「行ってた。いつも通りスライムを倒していたんだがこれがドロップしたんだ」
輝夜にスライムからドロップしたカギを見せる。
「……スライムから?」
「そ」
「……カギをドロップするなんて聞いたことがないわね」
「俺も聞いたことがない」
輝夜でも聞いたことがないみたいだ。輝夜もそれなりにネットから情報を集めているみたいだがそれでも分からないらしい。
「これ、鑑定スキルがなくても情報が出てきたんだ」
「そんなアイテムが存在するのね。後で見せてちょうだい」
「あぁ」
まずは夕食を食べ終えて、俺が洗い物をしている時にカギを見る輝夜。
「……何も見えないわね」
「見えない?」
「えぇ、どうやっても見えないわね。……こういうアイテム自体は聞いたことがないけれど、専用ドロップアイテムということかしら?」
俺にしか見えない情報。これを疑わず信じてくれるのは幼馴染であるからだろう。
「何が書かれているの?」
「月額ダンジョンのカギって書かれててランクは不明。魔石のエネルギーを千分チャージすると三十日間そのダンジョンに入ることができるんだと」
「へぇ……今どれくらいチャージされているの?」
「五十三だ」
「それで今日は魔石を換金しなかったのね」
「そ」
これをしつつレベル上げもできるから今までとやることは変わらない。でも地道にやることは嫌いじゃない。
「当面はこれを続けるつもり?」
「そのつもりだ。だからお金は頼る。すまない」
「だから構わないと言っているでしょ。私は学人が冒険者として続けられるようにサポートしたいのよ」
俺は冒険者としての才能はない。だから社会人として働きながら冒険者をしようと思っていたが、それを輝夜が待ったをかけてここに住まわせてもらってヒモとして生きていることになっている。
「それを言うなら輝夜だって冒険したいだろ」
「したいわよ。でも私は学人が冒険者として楽しく生きているのならそれでいいのよ」
輝夜も同様に冒険者としての才能はない。
才能の有無はステータスではなくサブステータスによるものだ。サブステータスはスキル、アビリティ、魔法のことで、それらは今現在変化することがないとされている。
だから才能の有無はそこがあるかどうかで決まってくる。
俺も輝夜もサブステータスはなかった。
「そう言えば思い出すな。ダンジョンが出てきた当時は二人でパーティを組んで冒険者をやるって話をしていたっけ」
「そうね。学人が魔法剣士、私は魔法使いで決めていたわね」
「まさか才能の有無があるとは思わなかったけど」
「レベルを上げてもサブステータスを持っている人には敵わないものね」
そこを嘆いていても仕方がないからと輝夜は仕事に就いているわけだ。立派だな。
「そのカギで何か分かれば教えてちょうだい」
「あぁ、教えるよ。まずは魔石を千個集めてからだけど」
「……思っていたのだけれど、よくスライムを飽きずに倒せるわね」
「面白いぞ。次の休みに一緒に行くか?」
「遠慮しておくわ。スライムなんて十体で十分よ」
「そうか……」
スライムを倒しているというか、冒険者として極めているという感覚があって好きなんだよな。楽しくて仕方がないからスライムを何千、何万倒せと言われても倒し続ける自信はある。