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第七話 能力の目覚め

 腕合(わんごう)風成(ふうせい)に決定的な一撃を与えたと思っていたが、気が付くと視界の半分が真っ暗闇だった。


(なんだこれは……確か、あのガキを殺して、……っ! 頭が痛いっ!)


 スキンヘッドの男は顔を(しか)め、次第に自身の(ひだり)側頭部(そくとうぶ)が壁にめり込んでいることを把握した。


(は? なんなんだこれは?)


 頭を触ると手が血塗られており、腕合は頭部から流血していることを認識する。何より、膝をついた風成を見下げてたはずの自分が壁に寄りかかるように倒れている状況だった。


 風成は起き上がろうとする腕合を見据え、


「気分はどうだ? ちなみに俺はお前をぶん殴れて最高かな」


 いつもの調子で軽口を叩いた。


 一方、啓子(けいこ)は風成を傍観し、「うそ……」と呟いていた。その理由は、腕合が風成に衝撃波を放とうとした瞬間、風成が一歩踏み出したかと思えば、いつの間にか腕合の真横に(ひと)()びし(みぎ)側頭部(そくとうぶ)を右拳で殴りつけて相手を壁側までぶっ飛ばしたからだ。その結果、腕合の左側頭部は壁にめり込んだ。


 啓子は腕合の頭が壁にめり込んだことで壁面が枝分かれた線状にひび割れているのを見ながら沸いた疑問の答えを導こうとしていた。


(能力者? それも肉体を強化するタイプの? いや、だったら最初から本気を出しているはずよ)


 などと逡巡(しゅんじゅん)する。


「今、目覚めんだ……能力が」


 最終的に啓子は風成がたった今、超能力に目覚めたと判断した。

 

「分からないことだらけだけど、お前が(ろく)でもないってことだけは確かだよな」


 今度は風成が腕合に止めを刺そうとしていた。


「ま、待て! 今、頭が痛く、血が!」

「お前があの女の子に言った言葉、そのまま返してやるよ。そんなことは知るか!」


 焦った腕合は何故(なぜ)か左手をズボンのポケットに入れて(わめ)き、対して風成は右腕を引いて――、


「や、やめろ! ぐべぁ!」


 拳を腕合の顔面目掛けて振り抜いた。


 スキンヘッドの男は風成の一撃を食らうと、後頭部が左側頭部がめり込んだ壁面に(はま)り、壁が更にひび割れて崩れた。そして腕合の首は根本まで崩れた壁に向こう側に入り込んだ。当の本人は白目を向いて動かない――――左手のひらを口に当てながらという格好で。


「大丈夫か?」


 風成は啓子に歩み寄った。


「そっくりそのまま言葉を返したいところなんだけど」

「俺は見ての通り、ヴィクトリーパワーに目覚めたからな。元気がありふれている」

「なにそれ、ダサすぎ」

「うぐっ」


 少女の辛辣(しんらつ)な物言いは、風成に精神的なダメージを与えた。


 啓子は壁になんとか寄りかかって立ち上がり、風成に対して口を開いた。


「あんたは超能力に目覚めたのよ。私達みたいに」

「超能力……」


 風成はぼそりと呟く。耳を疑うような話だがすんなりと啓子の言葉を事実として受け止めた。実際に啓子と腕合が超常的な力で戦っていたのだから。


「そう、能力者になったのよ。多分、肉体強化とか? その(たぐい)の能力かな?」

「肉体強化……そうか、俺はスーパーマンだったのか」

「多分、スーパーマンはもっと強いわよ……ま、似たような感じかな」


 しみじみと語る風成に対して呆れながら啓子は喋るが、最後は何となく彼の言葉を肯定した。


「ってか、気になることがあるんだが」

「?」

「あいつ、俺に殴れられる前に急いでポケットに手を突っ込んでたけど、なにあれ? 能力者は負けるとポケットに手を突っ込むのか?」

「そんなわけないでしょ」


 と言う啓子だが、思い当たる(ふし)があるのか()ぐに考え込む。


「いや、そんなまさか」

「心当たりあるのか?」


 風成が問うと同時に腕合が倒れた辺りから音がした。


「最悪……」


 啓子は嫌な予感が(よぎ)り、風成は、


「冗談だろ。殴った手応えから頭蓋骨が無事じゃないと思うんだが」


 と言い、二人は腕合が倒れていたところを見る。


「ぅ……ぅ……」


 腕合は白目を向きながら立ち上がって(うな)っており、口から多量のカプセル型の薬が見える。それは超能力を増強させる薬『B.H.D』であった。よく見ると彼の足元には蓋の空いた小瓶が転がっているのが分かる。


「あいつ、明らかに意識ないぞ」


 風成は腕合の様子を不思議に思う。


「もしかしたら薬のせいかも」


 啓子は地面に転がっている小瓶を見て言う。


「薬?」

「超能力を増強させるドーピング剤みたいのものがあるのよ。その代わり薬を使いすぎると神経が狂うらしいわよ」

「小学生相手にドーピングするのはダサい上極まりないな」

「それは言わないでやって……ってか何年生?」


 啓子は前半は可笑しそうに、後半は純粋に思ったことを()いた。


「今年で六年」

「じゃあ私と同い年ね」

「ぅ……ぅ」


 腕合の(うめ)き声で二人は思い出したように構える。


「この状況で雑談しちまうお前の神経もわりかし狂ってと思うけどな」


 風成は啓子をおちょくるように声を掛ける。


「う、うっさい! あんたも話に乗ってたじゃん! とりあえず、逃げて救援を呼ぶわよ」


 少女は言い返した(あと)に逃走を(うなが)すと風成は「え?」と声を出し、


「いや、今勝てる気しかしないんだが。このまま二人で畳みかければいけるだろ」

「調子乗りすぎよ。あんたはあの薬の怖さを知らないから、そんなこと言えるの。あいつポップコーンを食べるみたいに薬を食べているのよ、近づかない方がいい」

「その例えは良く分からん」

「うっ……」


 風成に指摘されると啓子は自分でも何を言ってるのか分からず恥ずかしくなる。


「と、とにかく! あんたは超能力に目覚めたばかりよ、自分の力をコントロール出来るわけない」

「そんなことないと思うけどな」


 啓子は風成の発言に、むっとしたので彼が腕合を殴ったであろう腕を力強く握った。


「いたたたたたっ! 暴力反対!」


 風成は痛みで思わず声を出す。


「少なくとも(すじ)を痛めてると思う、最悪、骨にヒビが入ってるかもね」

「いや、握る前に口で言ってくんない」


 と風成は顔を(しか)める。


「とりあえず聞いて。肉体も精神も目覚めた能力に適応するために進化するのよ、特に脳機能が著しく覚醒するのが今の見解。でもあんたは、ついさっき目覚めたばかりで体が慣れてないのよ」

「ふむふむ、勉強になるなー、さすが先生」

「ふざけんなっ」


 ふざけた様子の風成に、啓子は再び彼の腕を強く握った。「いたたたたたっ」と苦しむ風成は自分の発言を後悔した。すると――、


 突如、腕合が二人に向かって走り出した。


「うわっ! いきなり来やがった!」

「今、上手く走れる気がしな、って、ちょっと!」


 風成は啓子をお姫様抱っこしようとした。


「うまく走れないならこうするしかないだろ」

「いやでも恥ずかしいから!」

「文句なら後で聞いてやる」


 少年は少女を抱えて走り出し、場を離れようとした。

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