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第六話 『風成vs腕合』

 入り組んだ路地裏で風成(ふうせい)腕合(わんごう)は向かい合う。啓子(けいこ)は二人を見つつ、壁を背にして座っていた。


(無茶よ、危険過ぎる!)


 啓子の心情としては無謀ともいえる風成の行動を止めたいのは山々だが、戦闘時に追ったダメージで体が上手く動けない。そのため、しばらく体力の回復に専念して戦線に復帰するつもりでいた。


「無能力者が勝てると思ってんのか? そもそもだな――能力があってもランドセルを背負ってそうなガキが大人の俺に勝つのが不可能ってのが相場だろう?」


 腕合は無能力者と判断した風成を(あなど)る。


「その能力者のおっさんがランドセル背負ってそうな女の子に腕をズタボロにされてる時点で矛盾してると思うけどな」

「あのガキは本条家の生き残りでな、そんじゃそこらの能力者より腕が立つんだよ」

「訳分かんないけど、言い訳だろ、それ」


 挑発するように言う風成。


「どいつもこいつも舐めやがって、楽に死なせねぇぞ!」


 超能力を使うまでもないと判断した腕合は左腕を大きく振るって風成に殴りかかる。しかし、風成は隙が大きい腕の振りを利用し、腕の下に頭を振って回避した。所謂(いわゆる)、ウェービングという回避技術である。「なっ」と腕合は虚を突かれ、少年は素早く地面を右足で蹴って跳躍しつつ、相手の振るった腕の内側に交差するように右ストレートパンチを顔面に叩き込む。


「うぐっ! このっ」


 腕合はまともにカウンターを食らって鼻を押さえながら苛立ちを(わら)わにする。


 風成は格闘技を習っている訳ではなく浅く広い交友関係故にトラブルに巻き込まれやすく喧嘩慣れしており、喧嘩相手の動きや技を純粋に尊敬し、自分の技術に還元している経緯がある。ただ、彼は始めて対峙する大人尚且(なおか)つ能力者に対してかつてないほどの緊張が走っていた。


(間合いを少しでも空けたら、能力とやらで一撃で負けちまう! このまま(たた)み掛けてやる!)


 風成が追撃をかけようとした、そのとき――、


「【衝弾(しょうだん)】」


 と腕合は言い、啓子を吹っ飛ばしたものと同程度の衝撃波を放つが、風成に向けて放ったのではなく、後方に跳びながら地面に向けて放った。地面は更に(えぐ)られてコンクリートが飛び散り、


「ぐっ!」


 風成に幾つか(つぶて)が当たり、彼は尻餅をつく。そして立ち上がろうとすると――、


「避けて‼」


 啓子が叫ぶが既に腕合が風成に向けて衝撃波を放った後だった。


「がっ……ぁ……」


 風成は衝撃波をその身に食らって吹き飛んだが、啓子が膝を地面につけならがらも体を当てて少年を受け止めると「うぐっ」と声を漏らした。


 風成がうつ伏せに倒れる姿を見て啓子は口を開く。


「こいつは無能力者なのよ! 私達、能力者と何も関係ないのに、このっ、くずっ」


 彼女は腕合を睨みつけて憤慨(ふんがい)していた。


「ちっ、うっせーガキだ。今からてめぇら二人とも」

「痛かった、骨折れてないだろうな」

「「は⁉」」


 風成は腕合が喋り終わる前に立ち上がって自分の体を心配していた。そんな彼を見て二人は驚嘆する。


「なんだこのガキは! 普通じゃねぇ」

「あんた一体、何者なの?」

「言っただろ、通りすがりってな」


 と言って風成は再び構えて腕合と対峙する。


(にしても、どうなってんだ俺の体)


 風成は常人より五感が鋭いことの他に体が丈夫であることを自覚していたが、さすがに今の攻撃を耐えれるとは思っていなかった。一方、腕合は未だに驚きを隠せずにいるが、風成に殴られたことを踏まえて体が異様に丈夫だが攻撃力に関しては所詮(しょせん)、子供並みだと判断した。


「どうやらてめぇは体の丈夫さが自慢らしいが、これならどうだ、【衝連弾(しょうれんだん)】!」


 腕合は左手の人差し指から直径三〇センチの衝撃波を一〇発連続で放ち始め、一発二発と風成に直撃する。


「……っぅ……うおおおおおおおおおお‼」


 後退りするも、風成は腕合に向かって走りだす。


「こ、こいつ、イカれてんのか! さっさとくたばれ‼」


 風成に三発、四発と衝撃波が直撃する。彼はよろめき、たたらを踏むも前に向かって走り続けた。


「……っ! 止まれ! このガキがっ!」


 目を見開きつつ攻撃を続ける腕合。


 五、六、七発目も風成に直撃し、ついに少年は地面に膝をついた。なお、八発目以降の衝撃波は風成の頭上を越えていき啓子の頭上をも越えていった。


「いかれてやがる……ふぅ……能力を使い過ぎちまった」


 腕合は超能力が発動出来なくなることを恐れた。能力者とはいえ常時、超能力を発動出来る訳ではない。超能力を使い続けたり、肉体的、精神的に疲労を重ねると、しばらく能力を行使出来なくなるか従来の規模の能力が発揮出来なくなる。


「まぁいい、これで最後だ」


 腕合は風成に近寄る。


「動かないで!」


 啓子は立ち上がって腕合に向かって能力を行使する素振りを見せて、


「その人はなにも関係ないのよ! ただ間が悪くて、この場に居合わせただけの一般人よ! それに一般人がこっちの世界のことを万が一でも知ってしまったら、記憶を操作したり封印したりする能力者が派遣されて対応するのよ、だからそいつを攻撃する必要も意味もない!」


 これ以上、風成に危害を加えないようにと言い聞かせようとする。


「そんなことは知るか! 無能力者の癖にこいつは俺を殴ったんだ、だから消えてもらう」

「このっ! 【炎円(かえん)】‼」

「っ、【衝弾】」



 啓子は右手のひらを向けて、手のひらと同じ幅の円状の火柱を放つが薬によって威力が強化された【衝弾】に押し負ける。少女はたまらず避けようと壁側に飛び寄るが、路地を覆う大きさの衝撃波を避けることは不可能だ。


「あぐっ!」


 互いの技が衝突したことで【衝弾】の威力は弱まっているが、攻撃を受けた啓子は壁に叩きつけられて倒れる。


(打つ手がない! あいつの言った通りだ。後を着けて路地裏に追い込んだつもりだったけど、追い込まれたのは私の方だったんだ)


 と啓子は自身の軽率な行動に後悔し倒れながらも顔を上げると、腕合が風成に人差し指を向けて止めを刺そうとしていた。


(私のせいで……ごめん……)


 啓子は心の中で懺悔(ざんげ)する。


「じゃあな、クソガキ」


 と腕合の言葉を聞いた瞬間、


(俺は死ぬのか)


 風成は死を覚悟した。


「最後に言いたいことはあるか?」


 勝者の余裕とやつだろうか。腕合は見下すように風成に問いかける。


「なにもねぇみたいだな。じゃあな、てめぇのイカれた根性だけは認めてやるよ」


 何も語らない少年を嘲笑(ちょうしょう)するスキンヘッド。


(たった二年だ。記憶すらないまま、俺が居たという孤児院は無くなってて、気付いたら病院のベッドの上だった。俺は自分が何者か分からないまま死んでいくのか。俺が死んだらあの女の子はどうなるんだろうか。また俺は何も守れずに――――また?)


 風成は止めを刺されそうになる刹那の瞬間、自分自身の心の声に疑問をもつ。記憶が無いのに幾度も大切な何かを失い続けた、そんな気がしたのだ。また、沸々と自分と敵に対する怒りが湧いてくる。


(女の子どころか俺は自分すら守れずに死ぬのか、そんな未来、嫌に決まってる。俺はこいつをぶっ倒して自分もあの子も救うんだ! 動け! 動け! 俺の体ぁぁぁぁぁぁあああああ‼)


 誰にも聞こえない少年の心の叫び。そして、


「死ね、【衝弾】」


 と腕合が言うと、ドンッと鉄板を(へこ)ませたような鈍い音が路地裏に響いた。

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