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肉体強化系能力者の戦闘記  作者: ネイン
ホムンクルス編
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第五四話 最強の能力者

 鴉が鳴き始め、陽の光を浴び始める時間帯。穏やな海上から十月(とおつき)風成(ふうせい)本条(ほんじょう)啓子(けいこ)の右腕を掴んで飛び出し、海沿いの道に着地する。


「あの人達どうすんの?」


 啓子は先程まで乗っていたゴム製のボートを指差す。ボート上には桐宮(きりみや)セツ、赤塚(あかづか)音流(ねる)(かなで)義安(ぎあん)の三者が居た。


 風成は啓子の問いに質問で返す。


「ほっといてもよくない?」

「逃げたらどうすんのよ」


 二人の会話が聞こえたのかセツが口を挟む。


「君達のせいで逃げ場なんてないからな。一人で逃亡生活をするぐらいなら、東京本部の温情に賭けた方が良い」

「それと私と義安は碌に動けないからさ、安心して」


 音流はセツの言葉に一言付け足した。


 風成は手を振りながら


「そうか、じゃあ。ばいばいー」


 と言うと横に居る啓子は「友達か!」と言った。ちなみにセツは怪訝な目付きで風成を見て、音流は快く手を振り返した。


 風成は小規模遊園地『ロイヤルガーデン』に走って向かう為、その場で足の屈伸をする。


「よーし。じゃあ、そろそろ行ってくる」

「待って」

「なんだ、本条。今更、止めるなんて無しだぞ」

「言っても聞かないでしょ……あいつに触れられた時点で負けって分かってるわよね」

「斥力で俺の体、バラバラ―。みたいな感じになるんだろ」

「だから、隙を見てあの子と一緒に逃げれるなら逃げて欲しい」

「隙が出来たらな」

「……なんか、逃げるつもりなさそうね」


 啓子はしょうがないな人だなと思った。体をほぐした風成は、『ロイヤルガーデン』がある南方向を向く。


「念を差しとくけど、着いて来るなよ」

「大丈夫よ。上手く走れないけど、私のペースで後を追いかけるから」

「着いて来てるのと一緒だから。なにさらっと嘘ついてんだ」

「私が素直に言う事聞くとでも」

「そーだよな」


 風成は啓子を騙そうと画策する。


「敵だああああああああああああああ!」


 啓子の背後を指差して叫んだ。


「えっ⁉」


 啓子は振り向いて「敵はどこなの!」と言う。しかし、風成からの返事がないので啓子は風成の方を見る。


「あ……あんのっ、ヤローー!」


 風成の姿は無かった。彼は音も経てずに南へと駆け出して行ったのである。


 風成は全速力で海沿いの道を南へと走り続けた。西方向には商業地区『ロイヤルパーク』が広がっており、目的地である『ロイヤルガーデン』と隣接している複合商業施設の裏を通り抜けようとしていた。複合商業施設は東京ドーム一個分の広さで三角屋根の二階建てだった。


 風成は嗅覚から異変を感じた。


(……血の匂いがする!)


 風成は足を速めると直ぐに匂いの正体が分かった。何故なら、眼前には六々堂(ろくろくどう)回廻(かいね)が乗っていた船に居た黒スーツ並びに白衣を着た人達が血を流して転がっていたからである。皆、息絶えてた。


(これは、二階堂ってやつの仕業か……転がっている人達とはただの協力関係なんだろうけど、普通、ここまでやるか⁉)


 風成は目の前で転がってる人とホムンクルスの少女の姿を重ねてしまい不安になる。複合商業施設の三角屋根の向こう側から観覧車が見えていたので『ロイヤルガーデン』は直ぐそこだと分かり、風成は三角屋根の上に飛び乗り、降りて行った。


 地面に近い位置にある観覧車のゴンドラの上に一人の男が座っていた。彼の名前は二階堂(にかいどう)龍牙(りゅうが)。東京十長(じっちょう)の一人であり、五人いる最高能力者の一人でもある。今年で十六歳になる彼は、現代の日本の能力者社会において、最強という呼び声が高い。


 彼はミディアムロングでウルフの髪型をしており、前髪の下から見える赤い瞳はギラついていた。下半身に黒色のスキニーパンツ、上半身は黒色のオープンカラーシャツを身に着けていた。


 龍牙は地面にいるホムンクルスの少女とその少女を連れまわしていた白衣の中年女性を見下ろしていた。


 白衣の女性は龍牙を恐れながら非難した。


「は、話が違うじゃないか!」

「俺様は誰とも群れるつもりはねぇ」

「謀ったな……他の東京十長も一緒か!」

「あんな雑魚共と一緒に括るな。お前と喋る事は何一つねぇ、退場してもらおうか」

「ひぃ……わ、私達を殺して、どどうするつもりだ!」

「ああ? 慈善事業に決まってんだろ。俺様より強い力を持つ存在を作ろうとしてんだろ。こえーこえー、そんな奴居たら、愚民共はぐっすりおねんねもできねぇよな。なんてな」

「あ…ああ! 助けて!」


 龍牙はゴンドラを飛び降りると同時に、右手のひらをゴンドラに当てる。するとゴンドラは観覧車から引きちぎれるように離れ、加速しながら白衣の女性と少女に向かっていった。白衣の女性は腰が抜けて、へたり込み、少女はゴンドラに背を向け駆け出す。


(誰か……助けて)


 少女は願う。


 そしてゴンドラは人を巻き込んで地面に衝突する。


「ヒャハハハ! ざまぁねぇな! おいおい!」


 龍牙は愉快に笑うが、ある事に気付く。


「ああ?」


 ゴンドラの下敷きになったのは白衣の女性のみであり、既に彼女は息絶えてた。そして、ゴンドラの向こう側に少女を抱えている風成が居た。彼は間一髪の所で少女を救い出したのである。


「間に合った……あぶねぇ」


 と風成が呟くと少女は涙目で風成に抱き着く。

 

「お兄ちゃん!」

「大丈夫だったか?」

「きて……来てくれたんだ」

「当たり前だろ」


 龍牙は風成に言う。


「なんだお前は、おいおいおい。遊園地の開園まで我慢できなかったてか?」

「いやぁー、そうなんだよ。開園前に……お前をぶちのめしたくなってな、つい来ちまったわ」

「俺様をぶちのめす? 頭大丈夫かお前は、天地がひっくり返るような事抜かしやがって、ああ?」

「天地をひっくり返さなきゃお前を倒せないなら……ひっくり返してやるよ」


 風成は少女の肩に手を当てて、背後に追いやった。


 ホムンクルスの少女を守る為、本条啓子の願いを守る為、十月風成は拳を強く握りしめた。

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