第三八話 リミッターオーバー
【限界突破】と言ったレイは体中から火花を散らしながら両手を膝につけて、顔を上げる。
「終止符を打つぜ」
「どういう事かね」
レイは動き出した瞬間、六々堂回廻の目の前まで迫っていた。
回廻は電位測定型戦闘服を着ていても反応が遅れた。
(はっはやい! まさかここまでとは)
回廻はレイの攻撃に追いつけないと判断した。しかし、彼にはライフルの銃弾より圧倒的に速い砲弾を撃つ事が出来る上に能力で自身の体を絶縁体に出来る為、電撃攻撃は効かない。仮に追いつけないスピードで殴られ続けても砲弾を撃つタイミングはあると踏んでいたので勝機は自分にあると思っていた。
「なっ⁉」
回廻は目の前に迫ってきてたはずのレイを見失う。
「いっ、一体どこにいるのかね」
周囲を素早く見渡していると背後にある船内に繋がる入り口から物音がした。
(まさか、逃げたのかね! ……確かにあの速さで逃げてしまえば私は追いつけないが、この船に逃げ場など無い)
船にはゴム製の救命ボートが搭載されているが、船が炎上してから三十分経っているのが体感で分かっていたので救命ボートは一隻も残っていないと推測する。
回廻は船内に入り、走ってレイの後を追った。船内に入ると大きな通路の左右に客室がある。通路を進んでいると上階に繋がる階段があり、回廻は階段を駆け上がる。
そして階段を上がった先はレストランテーブルと椅子があり、普段は船内レストランとして活用している場所である。炎が燃え盛り家具は無残な姿となっていた。そして、船内レストランの中心に階段から上がって来た回廻を見て佇むレイが居た。
回廻は未だに得体の知れない不安を感じていた。
「何をしたいのか理解できないね」
「ふっ……なら教えてやろう、ここがオマエの墓標だ」
「なに?」
レイの周囲からスパーク音が鳴り響くと更に大きな火花を体中から散らす。そして、回廻に向けて人差し指を向けた。
「【限界突破・雷線】」
「なっ!」
最初にレイが回廻に放った【雷線】と違って一筋の電撃などではなく直径五〇センチの規模に拡大していた。当然、回廻は体を絶縁体にして右手のひらで受け止める。
「馬鹿の一つ覚えかね! 威力が上がった所で――!」
「【雷線】! 【雷線】! 【雷線】!」
レイは間髪入れずに電撃を回廻の右手のひらに放ち続ける。余りの威力に相手は後退しながら攻撃を受け止める。
「ぐっ! これがある限り私は負けないのだよ‼」
回廻の電位測定型戦闘服が右手のひらで弾け散った電撃によってひび割れ裂け始める。たまらず鋼鉄の左腕をレイに向ける。
レイは再び鋼鉄の左腕内部に電気が流れ始めるのを感じた。
「来い!」
「食らうがよい」
刹那、鋼鉄の左腕内部から砲弾が撃たれ爆発音が轟く。しかし、レイは一歩も動かなかった。回廻は不可思議に思うも勝利を確信したが砲弾が放たれる直前、レイは両腕を前に伸ばすと、腕の間を大きく開けて縦に揃えて構えていたのであった。
「【限界突破・電撃双腕】」
両腕に幅三〇センチある【螺旋状の電撃】を纏わせる。そして砲弾が大きく開けた腕の間に到達した瞬間、スパーク音が鳴り、激しく螺旋状の電撃が弾け続ける。
なんと、レイは飛んできた砲弾を腕の間に保持しながら体をその場で左回りに一周しようとしていた。
「なっ、なっ! まっまさか! まさかぁぁぁ!」
回廻は直ぐにレイの腕の間に保持されている砲弾の現象を理解した。レイは両腕に強い電流を流す事で腕の間に磁場が発生する。そして金属製である砲弾は両腕から発せられる磁力に引っ張られて一時的に留まったという事である。
「食らいやがれえええええ!」
レイは左回りに一周した勢いで保持している砲弾を回廻に向かって放り投げる。
回廻は避けられないと判断し、咄嗟に鋼鉄の左腕を前に構えて防御するが、
「あがっ! ぐっぉ!」
砲弾は鋼鉄の左腕はバラバラに飛び散らせ、左肩に衝突し、回廻は後方に飛ぶ。
「ぁ……あ」
回廻は仰向けに倒れて左肩から血を流し、レイは倒れている回廻に近づく。
「はぁ……はぁ……、能力を使いすぎたようだぜ」
レイは疲労困憊だった。少なくとも一日は休まないと能力を思う様に扱えない状態である。普段通り、能力を行使出来るのはもって一、二回。
回廻はレイが近づいて来てるのに気付く。
「そうか……君は……これを狙って」
「狙ってはない、オマエの腕で出来る事を俺が出来ないわけないと思った。ただそれだけだ」
「だが、私に決定打は与えられなかろう……ぐっ! なんせ能力が効かないからね」
回廻は上体を起こす。
「オマエは自分の体の異変に気付いてないのだろう」
「どういう事かね」
「オレがなぜ、デッキで笑ったか分かるか」
「なに?」
回廻はレイに指摘されて自身の体を見ると、右手のひらを見た瞬間、青ざめる。
「あ、あ! まさか! これは!」
回廻の右手のひらは損傷していた。つまり負うはずのない電気的損傷を負っていたのである。




