第二話 裏社会の入り口
風成と啓子はコンテナ内にある階段を降りて地下へと到達する。そこは白色の床と壁が照明で照らされている空間だった。
空間の右側と左側、そして階段の真正面にはそれぞれ通路が伸びており、各通路の左右の壁に幾つか扉があるのが見える。
「ここ明るすぎるというか、白いな。それに空調管理とか冷暖房対策とか大丈夫なのか?」
風成は眩しがって目を細める。
「あんた意外とまともなこと気にするのね。驚いたわ」
「俺も今、自分でも驚いている」
「ふふっ、なにそれ」
啓子は風成から返ってきた言葉がおかしくて思わず笑ってしまい、
「ほんと、あんたっておかしい」
「俺も今、自分でもおかしいと思っている」
「それはもういいから」
最終的には冷たくあしらった。
その後、啓子は真正面の通路の奥には集会所があり、会議、食事、談笑をしたりする所ということを説明し始める。
「今から、この『神戸特区能力所』で一番偉い人、つまり所長が集会所にいるから、そこに行くけど……って聞いてんの? そういうボケはいいから」
風成は啓子に背を向けて自分達が降りてきた階段を見ていた。
「ボケじゃないって、誰かが降りて来てるんだよ……声が聞こえる」
「え? 本当に? 全然聞こえないんだけど」
「そういえば老化は耳から始まるって聞いた事があるぞ」
「それって何? 私が老いてるってこと? おいこら」
啓子は風成の耳を引っ張った。
「いてててててっ! くっ、この」
風成は彼女の腕を掴んで耳から簡単に手を離させた。
「今、もしかして本気出さなかった?」
啓子は掴まれた感触が思いの外、強かったので尋ねる。もしかしたら彼特有の能力を行使したのではないのかと予想した。
「いやいや、そんな女の子の手を振りほどくのにねぇ、ほ、本気を出すわけないだろ」
「ふーん、女の子の細腕にびびったんだ?」
啓子が少し煽ると――、
「ああ! いつ丸焼きにされるか分かんねえからな! それに細腕って、自分で言うの? 自慢なの?」
風成は開き直るどころか煽り返した。
「今から丸焼きにしてあげるわよ!」
啓子は能力を行使し、両手を炎で包んだ。一方、風成は財布から一〇〇〇円札を出して「これで勘弁して下さい」と言うが、啓子は「絶対っ、ふざけてる!」と言い、両手の炎がメラメラと燃え上がった。
もう駄目だ、と思った風成は一〇〇〇円札を落として逃げようとしたその時、
「おめぇさん達、早速仲が良いな、ウホホッ」
男が一人階段を降りて来て、笑いながら喋っていた。
男に対する風成の第一印象は喋るスーツ姿のゴリラだった。更にその後ろから緑色のパンツとタンクトップを着た金髪モヒカンの男とセーラー服を着た女子高生らしき人が現れる。なお、啓子はやって来た女子高生を見ると、慌てて能力を解除した。
「啓子、無暗矢鱈に能力を使ったら駄目だろ」
「だって、こ、こいつが丸焼きだから!」
女子高生に注意された啓子だが、自分でも訳の分からないことを言ってしまう。
「俺は丸焼きじゃねえよ」
そんな少女に対して風成はそっと頭にチョップし、啓子は「うっ」と声を漏らした。
「ん? なんだこのお金はよぉ?」
そうこうしているあいだにモヒカンの男が落ちている一〇〇〇円札を見つけて拾った。
「あ! それ俺のです!」
「ほらよ、次落としたら拾っちまうぞ、ヒャハハ」
「あざーす」
風成は慌てて主張すると、快く一〇〇〇円札を返してもう。見た目とは裏腹にモヒカンは良い奴だなと思った風成であった。
セーラー服の女子高生は場が一旦、落ち着いたのを確認すると、風成に自己紹介をし始める。
「私の名前は水菜瑠那だ。よろしく」
彼女は手を差し出し、風成と握手を交わす。
瑠那は焦げ茶色のロングヘアであり、サイドテールで髪を結んでいた。着ているセーラー服のスカートと上衣の襟は紺色を基調としており、襟に青空色のスカーフを通して結んでいた。
風成は瑠那の醸し出す雰囲気を感じ取る。啓子よりも気が強そうで芯がしっかりしてそうな人だと思ったのだ。実際、その通りであり『神戸特区能力所』の副所長を務めていて、皆の仕切り役でもある。
周囲の人々を見て風成は――、
(これが超能力を操る能力者達……皆、キャラ濃いんだな)
しかし、啓子にはおかしな奴だと思われているため、人のことは言えなかった。