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第一〇話 別れからの再会

「死ぬかと思った」


 戦いを終えた風成(ふうせい)安堵(あんど)し呟いていた。そんな彼に対して啓子(けいこ)は気になったことを言い始める。


「ちょっと来るの遅くなかった? 確か、近くにある第一公園からブランコを取ってくるだけなはずよ。人でも居たの?」

「そういうわけじゃない。ただ、あそこの第一公園のブランコが撤去されたことを思い出したから別の所行ってた」


 啓子は「あーそういえばそうだった」と言って風成が来るのが遅いと思ったことを申し訳なく思った。


「確か去年、危ない遊びをした人がいたから無くなったんだっけ?」

「そうそう、俺が思いっきり立ちこぎで四回転したからな、飛び降りたときにはブランコの鎖が狂ったように絡まってて乗れない位置にあったんだよ」

「あんたが犯人かよ……」


 啓子は呆れていた。次いで、彼女は風成の今後について話そうかと考えた。何故(なぜ)なら能力者となった以上、裏社会に身を置きながら一般社会に溶け込むことで異能の存在を隠蔽(いんぺい)する必要があるからだ。更に啓子自身が所属する『神戸特区(とっく)能力所(のうりょくじょ)』の管轄(かんかつ)内で発見された能力者なので一先(ひとま)ず、風成の身柄を保護する必要がある。


「話があるんだけど、って、あれ?」


 啓子は風成の姿を見失ったので周囲を見渡すと、公園を囲んでいる木の一つに少年が突っ立っていることが分かった。


「凄いな、超能力って! 楽しー」


 風成は木々の上を飛び歩いてはしゃいでいた。肉体強化の能力を無駄に発揮中だ。


「ねぇ! ちょっと!」


 元気だなと思いつつ、啓子は風成に聞こえるように声を張り上げる。


「なんだ!」

「話があるんだけど!」

「お箸があるの⁉」

「違うわ‼」


 風成の聞き間違いに一層、声を張り上げる啓子。


 ちなみに風成は常人を凌駕(りょうが)する五感を持つが(ゆえ)に不必要な音まで拾ってしまい聞き間違いをすることがある。特に今のように散漫な状態であれば尚更(なおさら)だ。


「なぁ! 名前なんていうんだ?」


 風成はふと聞きたいことが思い浮かんだので飛び歩くのを止めて、木の上から尋ねる。


「本条! 本条啓子!」

「本条! 今日はありがとうな」


 少年は礼を言うと、その場から離れ始めた。


「待ってよ!」


 啓子は慌てて呼び止める。


「いや、ちょっと飛び回ってくるから、後で来るわ。何か楽しくなっちまったわ」

「えっ……ちょっと」


 呼び掛けに応じない風成は背中を見せて遠ざかって行った。 


 少女は戦闘の疲れで追いかけることが出来ない様子だったので――、


「能力は人前で使わないように気を付けて‼ ってか自分の名前言えよ……」


 必要最低限のことを叫び伝えた後、不満を呟いた。その後、駆けつけて来た能力所(のうりょくじょ)の仲間と去って行った少年が来るのを公園で待つことにした。


――少年少女が邂逅(かいこう)してから一年が経ち、啓子が風成を『神戸特区能力所』に連れて行く前日の話である。


 なお、一年前の腕合(わんごう)戦後、風成は啓子の前に姿を現さなかった。何故なら、彼は超能力に目覚めたばかりで身体が肉体強化の能力に適応していないにも関わらずさんざん動き回ったので、体がしばらく動けなくなっていた。


 啓子の目の前でうさぎの(ごと)く木々の上を飛び跳ねていたので彼女は風成の事情を知る(よし)もなく、仲間と合流した後も公園で待機していたが風成が来ず、


(あの、嘘つきが)


 と怒っていた。


 現在、風成は自身が暮らしている病室で中学校の制服を着たまま横になっていた。


 彼は疲れていた。その原因は修行を重ねていたせいだ。風成は自身の超能力をコントロールするために人がいない山中(さんちゅう)で肉体強化の能力を発揮していた。

 

 以前、体がしばらく動かなかったという出来事を踏まえて修行をしていたのもあるが、荒事に備えるため、戦いに勝つため、修行を重ねていた。最も、失った記憶が一番の起因になっているということは風成自身も気付いていない。


(飯でも買いに行くか、物凄くペペロンチーノが食べたい)


 漠然(ばくぜん)とそう思った風成は病室を出て、病院の三階から一階に降りて待合室を通り過ぎる。


 そして、外に出ようとしたとき、横にワンピース型の制服を着ている少女がいることに気付く。


(この制服、港の近くにある中学校のやつだったような……んん⁇)


 風成は少女の顔に見覚えがあった。というより本条啓子本人であった。風成は「後で来るわ」と言って『第二公園』に戻れなかったことを思い出した。


(事情はどうあれ、この手の女の子は……切れてきそうだから逃げよう)


 少年は外に繋がる自動ドアを抜けた瞬間、走って逃げることを決めた。


 そのすぐ後、啓子は目の前の自動ドアのガラスを見ると見覚えのある少年が(うつ)っているのに気付いた。


(……え?)


 少女は顔を動かし風成を見る。対して風成は少女の動きに()られて思わず目を合わせてしまう。丁度、自動ドアがウィーーンと音を立てて開くと風成は口を開き、


「お、おお疲れ様でーす」


 と声を上擦(うわず)らせて、啓子に背を向けて走り出した。しかし――、


「まちやがれ! ごらぁ!」

「ぐはぁ!」


 啓子に後ろ襟を掴まれて背中から地面に叩き付けられる。


 風成は観念した。

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