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銭湯のおかみさん~物の怪銭湯奮闘記~  作者: さいとう みさき
第三章銭湯の嫁
13/18

3-4:守さん

とある八王子のとある銭湯に嫁入りしたかなめが体験する不思議な不思議な物語。


今日もおかみさんのかなめはてんてこ舞いの一日を過ごすのだった。


「人間は物の怪を恐れるものじゃえっ!」


「え、あ、ちょっと……」



 蜘蛛女はそう言って私に覆いかぶさるように見下ろして来る。

 まるで威嚇するかのように。


「解せぬ解せぬ! 人間が我ら物の怪と共に歩むなど!!」


 そう言って蜘蛛女は私にその手を伸ばして来る。



「ひっ!?」



 どう言う事?

 西の物の怪もこっちでは大人しくするはずだったんじゃないの?


 迫りくるその手に私は身動きできなくあっさりと捕まれる。

 ものすごい力。

 触れられているそこはまるで剛毛でもあるかのようにざわざわしている。

 がっしりと掴まれた腕を振り払おうにも無力な私はもがくだけだった。




「やめな! ここは東の狐が仕切る土地だよ!!」


 

 しかしそこに聞こえてきたのはあの鬼女さんの声だった。


「この地で人を襲う事はご法度だよ! もし従わないのならあたしが相手になるよ!!」


 そう言ってジャージの上を脱ぎ捨てるとその体がゴズっと一回り大きく成り、額に角を生やし、白目が黒く、瞳が赤くなって牙を生やす。

 髪の毛も逆立ったかのようになり、まさしく鬼女そのものだ。



「鬼女か…… 主も人の肝を喰わねば生きて行けぬはずえ、何故じゃ?」


「レバニラ炒めってうまいもん食ってりゃ何とかなるんだよ! それより湯本の嫁さんを放しな!!」


 鬼女さんはそう言って一歩蜘蛛女に近寄る。



「そうですね、こんな真昼間から私たちが争うのもよくないですからね」



 びきびきびきっ!


  

「ぬっ!? これは氷!?」


 見れば蜘蛛女の足元を氷が覆っている。

 そしてその向こうからした声は……



「雪女さん!」



「大丈夫? 蜘蛛女、早くその手を放しなさい。鬼女とこの私を相手にするつもり?」


 雪女さんはくたびれた服装はいつものままだったけど、周りに氷を張ってこちらを睨んでいる。

 蜘蛛女は足元の氷と雪女さんを見比べる。



「……解せぬ。人間風情の為に物の怪のおぬしらがここまでするとは解せぬえ」



「いいから湯本の嫁さんを放しな!」


「でないとただでは済みませんよ!!」



 鬼女さんと雪女さんがそう言った瞬間だった。

 蜘蛛女は蜘蛛の足で凍り付いた足の氷を割って私を抱き上げ一気に木の上に糸を使って飛び上がる。

 それは本当に一瞬の動き。

 そのせいで鬼女さんも雪女さんも全く動けずに私たちを見上げる。


 そして蜘蛛女は私の身体に糸を絡ませ縛り上げる。



「ますます気になるえ、東の狐の所の嫁がそんなに大切かえ?」


 蜘蛛女は鬼女さんと雪女さんを見下ろしながら首をかしげそう言う。

 この物の怪、私をどうするつもりよ!?


 しかし、



「当り前だ、かなめさんは僕のお嫁さんだ!!」



「えっ?」


「何っ!?」



 ぶちぶちぶちっ!


 ばきっ!!



 聞こえてきた守さんの声に驚いた瞬間に体に巻き付かれている糸ごと、もの凄い力で引きはがされ蜘蛛女は守さんに殴られ地面にたたきつけられる。



 どがぁ~んッ!!



「えっ? ええっ!?」


「大丈夫かい、かなめさん?」


 いや、助けてくれたのが守さんってのはものすごくうれしんだけど、木の枝の上にお姫様抱っこされた私が見たのは全身を白っぽい毛でおおわれて、顔だけ人のままで頭の上にちょこんと耳があり、長い尻尾を振っている守さんだった。



「ま、守さんその姿は!?」


「かなめさんが蜘蛛女に捕まって木の上に飛び上がったのを見たら心臓の鼓動が高鳴って妖力が噴き出したんだ。どうやら物の怪の血が目覚めてしまったようだね。でも僕のかなめさんが大変なんだ。どんな力を使ってでも助け出すよ!」



 どきっ!



 犬耳っぽい頭の上の耳が可愛いけど、あの優しそうな守さんはそう断言する。

 それに抱きかかえられている腕もいつもよりたくましく感じる。



「おのれ、貴様は一体何者じゃえっ!?」


「僕は、俺は湯本銭湯の跡取りだ! 東の狐と犬夜叉の息子だ!!」


 守さんがそう蜘蛛女に啖呵を切ったその時だった。




「こんな所におったか、蜘蛛女よ。ここは儂が納める土地、これ以上の悪さをするでない」



 しゃん


 しゃん



 聞こえて来たその声は紛れもなくお義母様。

 そして私でもわかるほどの妖気が漂っている。


 見れば公園の入り口からまるで花魁のような豪華な服を着崩したお義母様が狐耳を立たせ、大きな尻尾を振って、子ぎつねを伴ってしゃなりしゃなりと歩いてくる。

 周りには狐火も幾つも浮いていて、険しい表情のお義母様はキッと蜘蛛女の睨む。



「東の……狐かえ……」



 蜘蛛女は立ち上がり守さんに殴られた頬を手の甲で拭ってから人の姿に戻る。



「悪かったわ、別にその嫁を取って喰うつもりはなかったえ。ただ、解せぬのじゃ。物の怪が人の為にここまですることがの……」


 そう言って両の手を上にあげて降参のポーズをとる。

 すると鬼女さんも雪女さんもまた人の姿に戻り、お義母様の言葉を待つ。



「じゃから西の連中は何時まで経っても人の世に混じれんのじゃ。時代は変わった。我ら物の怪も変わらねばならん。故に我ら人と混じった者が率先して人と手を取り合う必要があるのじゃ」



 しゃん!



 お義母様がそう言って蜘蛛女の前に立つ。

 すると蜘蛛女は不思議そうにお義母様を見て言う。



「物の怪がかえ?」


「物の怪じゃからこそじゃ。人間は変わって行く。鉄の羽で空を飛び、世の闇を明るく照らす摩天楼を作り上げる。我ら物の怪が太刀打ちできる存在ではないのじゃよ」



 お義母様がそう言うと蜘蛛女はふっと小さく息を吐きうなだれる。



「物の怪は怪物、しかしいつの間にか怪物は人間になっておったというのかえ……」


「故に我らも変わる必要があるのじゃ」



 お義母様がそう言うと蜘蛛女は空を見上げ言う。



「儂の負けじゃ! 鬼女よ、そのレバニラ炒めとやらを儂にも食わせてくれんかえ?」


「……いいだろう、一度喰えばその美味さが分かる。人の肝よりずっとうまいぞ」


 そう言いながら蜘蛛女は鬼女さんと雪女さんに連れられて行った。




「さて、守よその姿じゃが……」



 ひょいっ!



「うわぁああああぁぁぁっぁッ!!」


 お義母様がこちらを見上げそう言ったら、守さんが私をお姫様抱っこしたまま枝の上から飛び降りた。

 思わず悲鳴をかげるけど、守さんはまるで鳥の羽のように静かに地面に降り立つ。


「大丈夫だよ、かなめさん。僕が守っているんだから」



 どきどきどきどきっ!



 いやこれは驚いた心臓の鼓動だけど、ちょっと今の言葉にも心揺らされた。



「守よ、お前さん物の怪の血が出たのじゃな?」


「うん、そうみたい…… で、母さんこれって人の姿に戻るのどうしたらいいの??」


「ふむ、そこからかのぉ……」



 まだ守さんに抱きかかえられたままだけど守さんとお義母様の会話を聞いてちょっと焦る。

 私はたまらず守さんに聞く。


「守さん、もしかして人の姿に戻れないの?」


「う~ん、戻り方が分からないんだよね」


 あっけらかんと言う守さんだけど、それじゃ困る。

 物の怪の姿のまま銭湯なんか続けられないよ!!


「でもまあ、かなめさんが番頭やってくれてるから当分は大丈夫だね。その間に母さんに人にの姿に戻る方法を教えてもらうよ」


「いやそうだけど、そうじゃなくてぇ!!」



 お姫様抱っこされたまま私は守さんの手の中でこの先の事が不安になるのだった。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] >私が見たのは全身を白っぽい毛でおおわれて、顔だけ人のままで頭の上にちょこんと耳があり、長い尻尾を振っている守さんだった。  犬とキツネの物の怪の子でこんな姿……。  なんだろ? 雪男? …
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