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【完結】脳筋聖女と《贄》の勇者~聖女の力は使えずとも、そんな世界、私が壊してみせましょう~  作者: 景華
第一章

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地獄の番犬ケルベロス


「──地獄の番犬、ケルベロス……」


 あちらの世界の神話やら漫画やらアニメやらに出てくる超有名な魔物。

 まさかそれが実在するだなんて。

 いや、ゴブリンやオークも存在するこの異世界においては、それもあり、なのか。


「ファンタジー、だね」

「えぇ……」

「まぁ、魔王が存在したことからファンタジーなのはわかってたし、気楽に行こう」


 そうか。この人は対峙したんだ。

 この世界最大のファンタジーである、魔王に。

 たった一人で。


「アユムさんは右から私は左から、二手に分かれてまず左右の顔をなんとかしましょう。形勢が不利になったら、すぐに撤退を」

「うん。わかった。気をつけて」

「はい!! アユムさんも、ご武運を……!!」

 私の言葉に頷くと、アユムさんは再び視線を六層へと移す。

「行こう──!!」


 タンッ──!!

 私たちは同時に地を蹴って左右それぞれのケルベロスの頭へと走った!!


「たぁぁぁぁああああっ!!」

 顔の手前に来たところで大きく飛び上がり、勢いよくモーニングスターを振り下ろす。

「グォォォォォオオ!!」

 巨大な左の頭上へとめり込んだモーニングスター。

 確かな手応え。

 凹んだ頭部。

 が──。


「グオォォォォオオオオオ!!」

「っ!? キャァッ!!」

「ティアラさん!!」


 私が攻撃し浮遊している間に、すかさず私の方へと真ん中の頭がぐいんと顔を向け、低く咆哮ほうこうしながら突進してくる。


「っ、大丈夫、です!!」

 咄嗟に魔法で光の壁を出現させた私は、そのまますたん、と地面へと降り立った。


「よかった……!! っ、はぁぁぁあああああっ!!」

 アユムさんが出現させた光の剣を一振りさせると、ただそれだけで大きな地響きとともに巨大な頭が地に倒れた。


「っ──!!」

 その衝撃波が、反対にいる私の方にまで到達する。

「すごい……。これが魔王を倒した、勇者の力……!!」

 凄まじい威力。

 私も負けてられない……!!


 私は再度自分の目の前の頭に注意を向けると、一気に左頭に向かって駆ける──!!


「はぁぁぁああああああっ!!」

 自分の中にめぐる聖なる力を振り上げたモーニングスターへと流し込み、そして──「グオォォォオオオオオオオオオ!!」

 左頭の急所へとクリティカルヒットし、大きく揺れてから地へと顔をもたげ、動かなくなった。


「やった──!!」

 聖なる力の威力、すごっ……。

 今まで腕力を鍛えてきたのと相まって、戦いにも特化した聖女になってしまったようだ。

 脳筋聖女の力、思い知ったか!!


 私は次に、真ん中で私とアユムさんを交互に見る真ん中の顔へと視線を向ける。

 と──。


「!! アユムさん!!」

「!?」

 大きな口を開いたケルベロスに嫌な予感を感じ私は咄嗟に身体を無理矢理動かし、素早くアユムさんの前へと滑り込んだ。そして──。


ブォォオオオオオオオオオッッ!!


「っ!!」

 火の粉を巻き上げながら放たれる火炎放射。

 二人の周りに一瞬のうちに張った光の防御を避けるようにして、炎はこちらを容赦なく包み込む。


「っぶなぁ〜〜……」

「ありがとうティアラさん……。危うく焼き肉になるところだったよ……」


 日々魔物肉の焼き肉を食べている私たちへの当然の報いとばかりに放たれた炎はゆっくりと威力をなくしていき、やがて消えた。

 燃料切れ、だろうか。

 聖女の力が覚醒しててよかった……!!


 様子を伺いながら光の防御壁を解くと、急いでアユムさんと共に近くの岩場へ身を隠す。

 ケルベロスはガス欠のように浅い呼吸を繰り返していて、すぐには攻撃する気配は見受けられない。


「……アユムさん」

「ん?」

「早いとこやっつけて、皆で大焼き肉大会しちゃいましょうね」

 レイナさんからは“野菜もないのに焼肉ばかりで胃もたれする”って苦情が来そうだけれど。


「そうだね。腕によりをかけて焼き上げるよ」

 返された言葉に、私は頬を緩める。


「あ……」

「ん? どうしたの、ティ──ア!?!?」

 小さく声をあげて私が自身のドレスの胸元に手を突っ込むと、アユムさんが声を上げながら飛び出さんばかりに目を大きく見開いた。


「これ、使いましょ」

 胸元から取り出したのは、一つの黒い玉。


「色々お説教したい気持ちだけどとりあえず置いといてあげる。で、これは?」

「え、えっと……、カナンさんがくれたんです。光苔と炎の魔石のかけらで合成した、光玉だそうです」


 アユムさんが朝食を作っている間にカナンさんから手渡された光玉。


「投げつけることで光を放ち目眩しになるそうです。昨夜私たちが話している間に、三人で光苔を集めて、おうちが錬成師の家系であるカナンさんが作ってくれたそうです」

「皆で……? 助かるね。うん、ありがたく使わせてもらおう」


 戦いに参加できないからせめて、と言って渡してくれたカナンさん達の思いの形。

 無駄にはしない。


「3、2、1でこれをやつに投げつけます。その間は目を瞑っていてください。光が止んで奴が混乱している隙に──」

「一気に攻める、だね。了解」

 改めてアユムさんが剣を構える。

 私も片手にモーニングスターの柄をぎゅっと握り、標的を睨み上げた。


「行きますよ。3、2、1──!!」


 カァァァァアアアン!!

「グオォォォオオオオオオオオオ!!」

 叩きつけた光玉が弾けた音と、ケルベロスの声がダンジョン内に木霊する。


 ドシン──!!


 大きな音とともに地響きが身体に伝わり、ケルベロスが混乱し倒れたものだと確信した私たちは、二人同時に目を開け、岩から飛び出した!!

 目を回して倒れ込むケルベロス。

 今だ──!!


「アユムさん!!」

「あぁ!!」

 私たちは二人同時に目を回したケルベロスに向かって駆けると、勢いよくケントモーニングスターを振り下ろした!!


「はぁぁぁぁああああああッッ!!」

「グォオオオオオオオオオオオオオオオン!!」

 低く芯にまで響く叫声。

 舞い上がる砂埃。


 煙が引いて目の前に現れたのは、完全に息の根を止められた三つの頭。


「やった……!! アユムさ──っ!?」

 私が歓喜に震えアユムさんの方へ視線を移すと同時に、私の腕は彼によって力強く引かれ、暖かい腕の中へと包み込まれた。


 抱きしめられている。

 その事実に、私の思考が停止しかける。


「ティアラさん……!! よかった……!!」

「あ、アユムさん、あの……っ」

「お疲れ様。よくがんばったね」


 そう言って優しく微笑み、私の頭をそっと撫でたアユムさんに、ようやく私は息をついた。


 生きて、倒したんだ。

 今まで落とされて誰も生きて帰ってくることのなかったこの“ヨミ”のボスを……!!


「肉、持って帰ろうか。皆のところに」

「はいっ!!」



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