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【完結】脳筋聖女と《贄》の勇者~聖女の力は使えずとも、そんな世界、私が壊してみせましょう~  作者: 景華
第一章

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ティアラの告白

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「……はい。私は──前世はアユムさんやレイナさん、マモルさんと同じ日本人。──普通の、高校生でした」


「!! え……そんな、まさか……」

 突然の私の告白に頭がついて行っていないのだろう。

 戸惑ったように視線を泳がせるアユムさんを気にすることなく、私はゆっくりと言葉を続ける。


「前世の記憶をもってこの世界に生まれた転生者。それが、私です」

「転生……者……」


 不思議と落ち着いた気持ちだ。

 それはきっと、私自身がこの世界に生まれ落ちた私を受け入れたから。

 そして彼を──アユムさんのことを心から信頼しているから。


「高校三年生の秋でした。大雨の翌日、増水した川に転落した小学生を助けた代わりに私は命を落としました」


 ゆっくりと、落ち着いて、あの日を辿る。

 未だ鮮明に思い出せる水の冷たさ。苦しさ。

 そして微かに聞こえた、少年の泣き声。

 私が転生してからずっと、忘れたふりをして目を背けていたもの達。


「気づいたらこの世界で、私は赤ちゃんで、しばし羞恥プレイ状態でした」

「あぁ……」

 そんな哀れそうな目で見ないでくれ。

 私の黒歴史だから。


「記憶がある分私はどこか異質でした。未だに食前食後の挨拶は、公の場以外では“いただきます”と“ごちそうさま”ですし」

「あ……だから……」

 私がここで食事をしている時のことを思い出したのだろう。

 納得したようにアユムさんが声を上げた。


「はい。ここでもそうだったと思います。アユムさんに出会った時、日本人だってわかったから、つい気を抜いちゃったんだと思います。ふふ、まさか今をときめく皆の憧れの勇者様が、前世の私と同じ日本人だなんて思ってませんでしたし。お顔を拝見した時、とっても驚きました」

「……人に注目されるのは苦手なので、ずっとフードをかぶってましたしね」


 ちゃぷん。

 照れ臭そうに言いながら、アユムさんが手元に転がっていた小石を泉へと投げ入れ、泉の水面に波紋が生まれる。

 私はそれをぼんやりと眺めながら、言葉を続けた。


「ずっと、怖かったんです。自分の今を認めるのが。自分が、この世界の伯爵令嬢──ティアラ・プレスせんとだと認めるのが……。だって、ついこの間まで高校で皆と騒いで、勉強をして、“大学で恋愛するぞー!!”って友人たちと言い合ってたのが、突然“あなたは死んだので次は異世界の聖女です”、だなんて。しかも、五年後には生まれたばかりの赤ちゃんと婚約までさせられて……。恋愛経験0で赤ちゃんと婚約ですよ!? 表面上はわかっていても……到底、認められるものじゃ……、信じられるものじゃなかった……」


 恋愛に夢を見たまま死んで生まれ変わって、恋愛経験0で婚約した相手が生まれたてのシワシワ赤ちゃんだった5歳の私の絶望たるや。


「う、うん、大変、でしたね、絶対」

 あまりの私の剣幕に若干頬を引き攣らせながら相槌を打つアユムさんに、私は一度キュッと唇を引き結んでから再び口を開く。


「高校生の私にも、父がいて、母がいました。兄弟はいなかったけれど、大切な、とても仲のいい家族がいたんです。そして友人も。そんな人たちと二度と会えなくなったという事実を、私は今まで受け止めることができずにいたんです。こちらの世界が日本とつながっている世界であるということに気づいた時、日本に帰りたいと思ってしまった自分もいます。今の日本にはきっと、前世の私の親もいるはずですから」


 私が十三歳のころ“扉”が発見され、二つの時間軸が統一された。

 そしてその際の日本の西暦を聞いて驚いた。

 その時の日本は、私が没後一年の世界だったのだから。

 私が転生したのは、日本の世界とはちがう過去の時間軸。

 それが一つに統一されたのだから、当然一番に考えたのは、前世の親のことだった。


「ティアラさん……」


「でもね、ティアラ・プレスセントにも──今世の私にも私を大切にしてくれる父母はいました。そして妹も。心配してくれるアユムさん達だっている。そんなたくさんの縁に恵まれた今世に気づいたんです。ようやく、ティアラを自分として受け入れることができて、前世の自分の死を認めることができた。だからきっと、無意識のストッパーが外れたんですよね」

 私自身が無意識に自分にかけた枷だったんだと思う。

 今、とてつもなく心も身体も軽いのは、きっとそれが外れたから。


「だからもう、私は──ティアラは、大丈夫です」

 この力があるならきっと、扉を物理的に壊すのではなく聖なる力で封じることができる。


「そうだったんですね……」

「……」

「……」

「アユムさん?」

 突然黙り込んだアユムさんに、私が彼の顔覗き込むと、アユムさんは少しだけ悲しげに笑った。


「あぁ、いえ……。ティアラさんが同じ学校だったなら、俺はきっと、俺のまま、気持ちを楽にして生きていられたんだろうな、って。……あなたが同級生だったなら……。そうだな、一緒に登校したり、一緒に昼食を食べたり、部活の試合に応援に来てもらったり、休日は一緒に勉強したり買い物に行ったり……。ティアラさん──ティアラちゃんと楽しい学校生活を送ってただろうな」


 とろけるような笑顔でそう語るアユムさんに、私の顔の熱が上昇していくのを感じる。


 それ、恋人同士の日常ですから──!!


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