私は──
あったかい……。
お風呂に浸かっているような。
ふかふかのベッドでぐっすりと眠っているような。
不思議な感覚。
そういえば、もう何日もベッドで眠っていなかったわね。
仮にも伯爵令嬢なのに、戦ってばかりで。
血生臭いことばかりで。
──なんで私ばっかり。
私だって平和な日本で暮らしていた、普通の女子高生だったのよ?
なのに……。
もう嫌だ。
こんな世界。
こんな私。
“──本当に?”
ふわふわとした女声が、耳に届いた。
「誰?」
“あなたは普通の女子高生? 今のあなたは誰? 普通の大学生だったアユムさんは? 彼はここにきて、自分の状況を受け入れて、必死で魔王を倒してくれたのよ? 見ず知らずの世界の人々のために。たった一人で。その時あなたは、どこで何をしていたの?”
私──?
「私は……」
ただひたすらに、力を鍛えていた。
力を持ちながらも。
ただ──“安全な場所で”。
私には聖女の力なんて使えないから、力を鍛えなければならないと“思い込んで”。
心のどこかでずっと、ここは現実ではないのだと──自分はもうあの世界の女子高生ではないのだと認められないままだった。
そうだ。
だから……。
「私は……自分を、自分の力を否定し続けていた──」
“……そう。女子高生のあなたは、もう死んだのに”
現実を認めるのが怖かった。
だって私の中には、記憶があるのだから。
だけど今、その言葉はストンと自分の中へと落ちて、ピッタリとはまっていった。
“──ねぇ、あなた誰?”
「私、は……」
脳筋で。
伯爵家の娘で。
聖女である──。
「ティアラ・プレスセント──」
眩く光り始めた世界。
その光の中から、見慣れた制服を着た彼女が、私に微笑みかけた気がした。




