泣きそうな君の顔を最期に
そんな話をしているうちにたどり着いた第五層。
この間倒したのにまだうじゃうじゃいる魔物たち。
しかも、オークやらグリムやら、ぱっと見で強そうなものばかり。
「これは……流石に……」
「えぇ……」
ここから先は、彼女たちを連れていくわけにはいかない。
自分の身を守るのに手一杯になって、彼らを守ことができないだろうから。
「レイナさん、カナンさん、マモルさんは、ここでここで待っていてください。ここなら魔物は上がってきませんから」
各層ともに、魔物は階段には足踏み入れることはない。
そういう制約でもあるのだろう。
だからこの階段にいる限りは安全なはず。
「わかったよ、気をつけてね」
「危なそうだったらすぐに戻ってきてね、ティアラ様、アユム」
力づくうなづいて了承してくれたマモルさんとカナンさん。
「えぇ? 歩君行っちゃうの? 私怖い」
レイナさんだけが一人アユムさんのマントを掴んで上目遣いで彼を見上げた。
「大丈夫。そこなら安全だから。決して降りてこないようにね」
真剣な表情でそう言ったアユムさんに、レイナさんは渋々ながらに絡める腕を解いて頷く。
「ティアラさん、行きましょうか」
「えぇ」
ドレスを翻しモーニングスターを取り出す私に、「おぉ!!」という守さんの歓声と、「こら!!」というアユムさんの叱責が飛んだ。
***
「グオォォォォォオ!!」
「はぁっ!! くっ……たぁぁぁぁ──!!」
「グギギギギギギギ!!」
「アユムさん危ない!! ったぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「グギィィィィイィイ!!」
アユムさんと背中合わせになって魔物を薙ぎ払っていく。
倒しても倒しても次々と前に躍り出る魔物たち。
それが少しずつ少なくなってきたことを感じ始めた、その時だった──。
「わぁぁ、綺麗な石!!」
場に似つかわしくない興奮したような明るい声が戦場に響いて、声の方へと視線んを向けると、階段から降りて何かを石を拾おうとするレイナさんの姿が飛び込んできた。
そしてそのすぐ上には、人喰い花の魔物が──。
「!! 危ない──っ!!」
「ティアラさん!!」
思わず、駆けていた。
そして間一髪、レイナさんと人喰い花の間へと飛び込み──シュルンッ、ザクッ!! ──「っあぁぁぁああっ!!」
人喰い花の鋭い蔓によって貫かれた、私の右肩。
「っ……」
熱い……!!
おそらく毒を注入しているのだろう、蔓から何かが身体に入り込んでくる感覚に、思わず顔を顰める。
そして私の肩を貫き毒を吐き切った蔓は、逃げようとするかのように花本体へ帰ろうとする──が──。
「にが……さない……!!」
完全に私の右肩から抜け切ると同時に、逃がさないようにガシッと左手で掴みあげる。
「ティアラさん!!」
鶴を掴まれて逃れようのない花を一刀両断するアユムさんの光の剣が視界に映った。
さすが勇者様。
最後に見えたのはそんな勇者様の泣きそうな顔。
「アユム……さん……」
私は彼の名だけを呼ぶと、そのまま意識を手放した。




