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【完結】脳筋聖女と《贄》の勇者~聖女の力は使えずとも、そんな世界、私が壊してみせましょう~  作者: 景華
第一章

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もやもやと新たな仲間


「たくさん採れましたね。これならあと数日分は大丈夫そうです」

 木型のモンスターは倒したら普通の木としてそこに存在する魔物だ。

 成っている果実は木についている限りは腐ることなく保存することができる。

 なんて便利な魔物なんだろう。


「これで野菜類も手に入れば言うことないんですけど……」

「……」

「やっぱり一度私がダンジョンを出て街に行って、野菜を手に入れてきた方がレイナさんのためには良いでしょうか……」

「……」

「アユムさん?」

 

 さっきからこちらの言葉に反応することなく、黙々とバケツに果物を収穫してくれているアユムさん。

 そう、黙々と──……。


「って……アユムさん!! 採りすぎです!!」

「!! っ、すみません、つい……」

 さっきまでちょうど良い量だったはずが、バケツからあふれるほどに果物が積まれている。


「これは……しばらく果物パーティができそうですね」

 とクスリと笑えば、アユムさんは何とも言えないような表情で「すみません」ともう一度謝った。


「気にしないでください。お肉を食べる時に果物があるとさっぱりしますし、ちょうど良いです。でもアユムさん、大丈夫ですか? 何かぼーっとしてましたけど……」


 アユムさんに手を引かれ四層に来てから、彼は無言でひたすら果物を採っていた。

 私が何を言っても言葉を返すことなく。

 するとアユムさんは少しだけ気まずげに自然を地に向け、ぽつりと話し始めた。


「……ここ数日、あなたを一人にしてしまうことが多いように感じて、申し訳なくて……」

「へ?」

「れいなちゃんが来てから、俺はあまりあなたの言葉を聞くことができていない気がします。あなたの声を、言葉をちゃんと聞きたいのに、ここ数日はあなたを置き去りにしているようで……」


 私を置き去りに……あぁ、そうか。

 これまでは私と二人だけだったから二人の時間ばかりだったけれど、ここ数日、アユムさんはレイナさんにつきっきりだものね。


 話も、やっぱり同じ故郷を持つ二人と私とでは溝がある。

 前世日本人とはいえ、それを話したところで混乱させるだけだ。

 だから私は誰にも言ってはいない。

 この世界の親や妹にすらも。

 いつも感じるのは、そう、多分疎外感。


 自分が、あちらの世界ともこちらの世界とも異質な存在で、どちらからも弾かれてしまうのが、ただどうしようもなく怖い。


 でもそうか。

 アユムさん、気づいてくれていたのね。


「仕方ないですよ。だってレイナさんは、今はアユムさんだけが頼りなんですから。同じ故郷で、歳も近いですし。私は……ほら、嫁ぎ遅れで歳も上ですし、こういうことしか脳のない……脳筋聖女、ですから」

「っ、違っ──!!」

 アユムさんが声を上げたその時だった。


「誰かいるの?」

 カツン、カツン、と硬い靴音が響いて、私たちが降りてきた階段とは別方向から、一人の女の子が姿現した──。


***


「はいっ、歩君、果物どうぞ」

「アユム、水も飲んでね」

「は、はぁ……ありがとう」


 ハーレムだ……。

 ハーレムができている……‼︎


 果物を採りに出て遭遇した町娘のカナンさん。

 ミルクティーブラウンの方までの髪に、快活そうな大きな目。

 ハキハキとして物怖じしない態度は、城下の娘の粋そのもの。


 そんな彼女は、親御さんと喧嘩して半ばヤケを起こして村を出て森に入ったところ、足を滑らせて穴に落ちたのだという。

 穴はヨミの四層に直通となっていて、出口を探して歩いていたところを私たちに遭遇した、と言うことらしい。

 よかったー、四層の魔物一掃しといて……!!

 早急に穴は埋めていただきたいものだ。


 私達と違って追放されたわけではない彼女も、流石に穴からよじ登って出ることはできず、ここで少しの間生活を共にすることになった。

 彼女も十八歳と、アユムさん達と同世代ということもあり、なんだかとっても馴染んでいる。


「カナンちゃん。歩君はお水ばっかりいらないと思うなぁ」

「えー? 水は大切だよ。しっかり水分とらなきゃ、身体の中がドロドロになっちゃうんだから」

「果物で水分取れるから良いと思うなぁ」

「糖分も一緒だけどね」


 早くもアユムさんを巡ってバトルが繰り広げられる。

 アユムさん、素敵だもんね。

 同世代の子で、しかも閉鎖された空間で一緒にいるとなると、意識してしまうのも無理もない。

 無理もないけど──。


「居心地悪……」


 ぽつりと呟いた言葉は偶然三人の声の隙間に入り込み、一つの独立した呟きとして響き渡ってしまった。


「ティアラ、さん?」

「っ!! ご、ごめんなさいっ……!! 私……何を……。っ、ちょっと狩りに行ってきますっっ!!」

「は!? ちょ、ティアラさん──!!」


 私はアユムさんの声を無視すると、すぐに立ち上がりテントを飛び出していった。






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