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【完結】脳筋聖女と《贄》の勇者~聖女の力は使えずとも、そんな世界、私が壊してみせましょう~  作者: 景華
第一章

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“ヨミ”コカトリスの卵


「はぁぁぁぁぁっ──!!」

「っ!! ──はぁぁぁっ!!」


 第四層は、私が思っていたよりもはるかに強い魔物で溢れていた。

 倒しても倒してもどこからともなく現れる魔物たちに苦戦しながらも、少しずつ魔物を確実に減らしてはテントに戻って身体を休める日々。そして──。


「はぁっ……はぁっ……」

「気配……っ、消えました、ね」

 第四層で戦い始めて四日目、ようやくフロア全体に満ち満ちていた殺気は消え、静けさがとり戻された。


「ティアラさん、お疲れ様です」

「ありがとうございます。アユムさんもお疲れ様でした」


 二人での生活もずいぶん慣れた。

 私が捌いてアユムさんが焼いて、分担しながらする食事。

 この第四層は、実が成った木型の魔物や空飛ぶ魚型の魔物など魔物の種類豊富だ。

 だから果物もたくさん収穫できたし、魚だって食べることができて一気に食卓が華やいだ。


 魔物の可能性ってすごい。

 楽しくなってきたダンジョン生活。

 でも、それでも全部アユムさんがいてくれたからだろう。

 私一人なら、生き残ることはできてもこんなに楽しくは生活できていない。


「散策してみましょうか」

「えぇ」

 もしかしたら三層みたいに、冒険者だった白骨くんたちの遺物が何かあるかもしれない。


 すると私の目の前に、大きな手がスッと差し出された。

「少し湿ってるから、滑らないように」

「へ?」

 ぁ、え、……つなぐってこと?

 なんか恥ずかしい……!!

 婚約者ですらそんなこと言ってくれなかったのに……アユムさん……天然タラシだわ……。

 オカンのくせに。


「ぁ、ありがとうございます」

 お礼を言って差し出されたその手にそっと自分のそれを重ねると、握り返してくる温かい感触。

「いきましょう」

「はい」

 私は手を引かれるようにして、前へと進み始める。


 しっとりと湿った石畳。

 時々響く、天井から落ちているであろう雫の水音。

 光苔だけが光る薄暗いダンジョン内を、フヨフヨと浮かびついてくる炎の魔石が照らしていく。


「──え……」

「これ……」


 奥に進み目の前に現れたのは──「卵?」


 鳥の卵よりも大きな、三歳児ぐらいがすっぽりとはりそうな大きさの縞模様をした赤い卵が五つ。

「これ……。“ヨミ”コカトリスの卵、ですね」

 この大きさ、この模様、間違いない。図鑑で見たわ。

 でもさっき倒した中に“ヨミ”コカトリスはいなかった。

 とすると──。


「すでに何処かの冒険者が倒した後かもしれません」

 運良く倒したけれど、冒険者も他の魔物にやられてしまったなんて可能性は大いにある。

 だってこのフロアには、もはやどの部位かもわからない白骨くんたちがゴロゴロと転がっているんだもの。


「……美味しそうですね」

「後で焼いてみましょうか? いや、お湯で煮て茹でても良さそうですね」

「ゆでたまご……!! 夢が膨らみますね、アユムさん……!!」

「今夜もご馳走ですね」

 すっかりこのダンジョンでの二人生活が日常になってしまった。

 妙に所帯染みた令嬢と勇者の日常会話だ。


 肉も焼いて卵も焼いてとなると、炎の魔石も大活躍よね。

 焼いている間は灯りとしては使えないから、光苔の僅かな灯りを頼りに調理するしかない。

 炎の魔石をもう少し増やせたら……。

 ……いっそ割る?

 確か魔石は割ってももう片方にまた魔法陣が現れるから、効力は多少落ちるけれどそれも有りだ。


「何悪い顔してるんですか?」

「えぇ!? そんな顔してませんよ!!」

「そうですか? たまにはしても良いんですよ? いろんな顔を見せてくれた方が、俺も嬉しいですし」

「っ……。……やっぱりアユムさんはタラシです」

「え? なんですか? それは」

「何でもないでーす」

 そんな和やかな会話をしていた、その時だった。


「あ、あの……」


 卵から発せられるか細い女の声。



「卵が……しゃべった──!?」


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