第二十三話 話のきっかけは
寝室のクローゼットの前で私は楽に過ごせるドレスに着替えさせてもらう。
寝巻き、まではいかないが、ゆっくりと過ごせる、コルセットの無いガウンのようなドレスだ。
「ねぇマリー、聞いてもいいかしら?」
私はマリーに尋ねる。
「どんなことでも聞きますわ」
「私、リズさんがどんなことを考えてるかわからないの。ただ分かるのは――平民のわりに、礼儀正しいということくらいしか」
私の言葉に、マリーは少し考えたあと、
「リズさんは、緊張なさっているのではないでしょうか?」
「緊張?」
私が聞き返すと、マリーは言葉を続ける。
「ええ。平民の世界で育ったリズさんが、いきなり王族のアリシア様と同室になったわけですからね。――立場は違うものの、わたくしもアリシア様に初めてお仕えしたときは、緊張したものです」
「私、リズさんにどう接すればいいのか分からなくて――」
「アリシア様がアーク様に接するように、気さくに接すればいいと思いますよ」
私の言葉に、マリーは微笑みを浮かべながら答えた。
「でも、アークは婚約者で、リズさんとは違うわ。その、最近、ドキドキすることが多くて――」
私の言葉に、マリーがくすくすと笑う。
「アリシア様は、本当にアーク様がお好きなのですね」
マリーの言葉に、私の顔が熱くなる。
「もう!マリー、あまりからかわないで!」
「はいはい、アリシア様」
ニコニコと笑うマリーのことを、私は信頼していた。
夕食は前菜、クリームスープ、鶏のパテ。食後にミルフィーユとカモミールティーが出される。
私はリズが夕食を食べるのを見つめていた。やはり、食べ方は平民とは思えないくらい上品。
本当に彼女は、ただの平民なのかしら?
そう、思った時だった。
「アリシア様、夕食もとてもおいしかったです。あの、こんなことを聞いて良いのか分かりませんが、王族の方々はいつもこんな食事を食べているのですか?」
リズさんが尋ねてくる。
「そうね、パーティの時とかはもっと豪華になることもあるし、逆に朝食はもっと軽く済ませることもあるわ」
「この寄宿室、キッチンがありますね」
リズさんは話を変えた。
「あるけれど、――それが、どうかしたのかしら?」
「キッチンで、わたしが料理を作ってもいいでしょうか?こんなに凝ったものは作れませんが――というか、アリシア様のお口に合うか分かりませんが」
何かいつの間にか、私がリズさんの料理を食べることになっているようだ。
「分かったわ。私がミシェルとマリーに許可を出しておくから、詳しい使い方は彼女たちに聞いてね。多分、全部魔法で動くことになってると思うから」
そう、私が言うとリズさんはパッと顔を輝かせた。
「ありがとうございます、後でミシェルさんとマリーさんに聞いてみますね」
そう言って彼女は自分の部屋に戻る。
――それにしても、料理か。
何が話のきっかけになるか、わからないものね。