第二十二話 リズ・ブラウン
私に気がついたリズは、旅行かばんを床に置くと、私に向かって一礼した。
「初めまして、アリシア王女殿下。リズ・ブラウンです。今日からこの寄宿室でお世話になります。よろしくお願いします」
「初めましてリズさん。アリシア・ローズクォーツです。こちらこそ今日からよろしく」
私はリズに礼を返しながらも、彼女の様子に気を取られていた。
王家や貴族に仕えている者ならともかく、一般の平民ってこんなにきちんとしているものなのかしら?
王女として傅かれて育ち、外の世界を知らない私にはよくわからない。
平民にも富裕層はおり、彼らは貴族以上の暮らしをしているのは話には聞いている。
けれど、リズの質素な服と、旅行かばん一つという荷物の少なさからして、それは考えにくい。
一体、彼女は――。
その時ふと思い立って、私はマリーを呼び、2人分のお茶とお菓子を用意するように耳打ちしたあと、リズに向き合ってこう言った。
「リズさん、いったいあなたはどちらから?」
「王都からです。といっても、外れのほうですけれとも」
少し単刀直入な質問と思ったけれども、物怖じせずにハキハキと彼女は答える。
「長旅だったでしょう。お茶とお菓子を用意しましたの。一緒にどうかしら?」
そう、彼女に誘いをかけてみる。――ちょっと、意地悪だと言えなくもない。彼女の反応を見ているのだ。
「頂いてもよろしいのですか?」
言葉は丁寧だが、変に媚び諂ったりしない、普通の反応だった。
「ええ、もちろん」
リズに気持ちを悟られないように、私は微笑む。
私がミシェルに目配せすると、すぐに気がついた彼女がリズをテーブルに案内する。
マリーが梨のタルトとティーセットを持ってくる。リズはすぐに手をつけずに、マリーがお茶を注ぐのを待っている。
私がお茶に手をつけるのを待ってから、リズはお茶を少しずつ飲む。
彼女のマナーにはまったく問題は無かった。むしろ平民と思えないくらい食べ方が綺麗だった。
「ごちそうさまでした、おいしかったです」
そう言ってリズは微笑んだ。
――一体、彼女はどういう出の者なのだろう?
その後も、そう思う事が続くことになるとは、夢にも思わなかった。