第二十話 王立ローズウォーター魔法アカデミー
――魔法都市ローズウォーター。
そこは、王立ローズウォーター魔法学院をはじめ、王立士官アカデミー、ローズウォーター魔法大学、王立図書館などが並び立つ、この国でも一番の学園都市。
王族をはじめ、ローズクォーツ王国の中枢となる者たちは、皆この街で学ぶことになっている。
魔法アカデミーの建物が、馬車からも見えてきた。
クリスタルの結晶からなる、特徴的な尖塔がふたつ。そこから辺りに響く、鐘の鳴る音。
木に囲まれた門の前で、馬車は止まる。
「アリシア様、アーク様、到着いたしました」
馬車のドアを開けるのはミシェルだった。
「行こうか、アリシア」アークはそう言って、さりげなく手を取る。
「ええ」私は頷いて、アークに続いて馬車から降りる。
騎士服を着たミシェルが先導し、アークと私がそれに続く。
アークの隣を護るのはアークの侍従マーク。一番後ろを歩くのがメイド服姿のマリー。
魔法学院の庭には、魔宝石で照らされた街灯が続いており、まだ薄暗い石畳の道を照らしていた。
明かりが続く方向に、私たちは進んでいく。
校舎入り口で副学院長のフローライト夫人が私たちを出迎える。
彼女は白い三角帽子とローブを身にまとい眼鏡をかけている、おっとりとしたお嬢様という雰囲気の女性だった。
「フローライト副学院長、アリシア王女殿下とグランバーグ王国のアーク王子殿下を連れて参りました」
ミシェルがフローライト夫人に言った。
「お初にお目にかかりますわ。わたくしは王立ローズウォーター魔法アカデミー副学長の、オフィーリア・フローライトです」
フローライト夫人が私たちに向かってお辞儀をする。
「遠い王都からよく来られました、アリシア王女殿下。アーク王子殿下もはるかグランバーグ王国よりようこそ。両殿下は特別寄宿室へ入寮されるとのことなので、ご案内いたしますわ」
そう言ってフローライト夫人は、私たちを特別応接室へと案内した。
そこには銀髪にひげを蓄えた紳士といった雰囲気の男性が待っていた。
「アリシア王女殿下、並びにアーク王子殿下、初めまして。私がアカデミー学長のマシュー・フローライトです。男子寮は私が監督していますので、アーク殿下は私が案内いたします。女子寮はオフィーリア副院長に案内させますので、アリシア殿下はそちらへ」
「わかりました」
私はそう言って、フローライト夫人の後に続く。後をミシェルとマリーが続いていく。
「それにしても久しぶりね、ミシェル・クリスタルにマリー・ムーンストーン。こんな形で再会するとは思わなかったけれど?」
フローライト夫人はそう二人に話しかけた。彼女はマシュー・フローライト学長と結婚しており、学生時代はミシェルやマリーと成績を競い合った仲らしい。
「私だけ学院に残ることも、騎士団に入ることも許されなくて恥ずかしいですわ」
遠慮がちにマリーが言う。
「あら、マリー。王家の侍女なんて名誉ある仕事じゃない」
「皮肉で仰ってますの?オフィーリア副学長様」
「その辺で止めておきなさい、二人とも。私たちはアリシア様のために学院に来ているのですから」
ミシェルが二人を止めに入る。
「さあ、アリシア王女殿下。ここが殿下が三年間を過ごされる特別寄宿室です。侍女としてミシェルとマリーが王女殿下の身の回りの世話をします。それからすでに聞いているかもしれませんが、リズ・ブラウンが殿下と同室を使います」
そう言って、フローライト夫人は特別寄宿室の案内を始めた。