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第十九話 出立

 食事を終えると、アメジスト公爵家の別邸を発つべく、馬車に荷物をマリーが運び始めた。

 私の警護をするのは騎士服姿のミシェル。彼女も荷物を持っている。


「アリシア、君はなるべく早くここを発ったほうがいい」

「ええ、わたくしもそう思いますわ」

 アークの意見にマリーもミシェルも賛同したからだ。


 私たちは急いで別邸を出て、馬車に乗り込もうとする。

 すると、聞き覚えのある声がした。

「あら?わたくしに挨拶もなしにここを出ようとなさるの?失礼な方ね」

 そこにいたのは銀の髪の公爵令嬢、ロザライン。紫のドレスを身にまとい、銀の髪は紫の大きなリボンでハーフアップにしている。


「わ……私は――」

 ロザラインの勢いに、私は震えながらやっと声を絞り出す。

 頭が真っ白になるとは、こういう時のことをいうのだろうか? どう言葉を続ければいいか、分からない。


 その時だった。

 アークが私が乗ろうとした馬車から降り立って、庇うように言った。

「ロザライン嬢、アリシアが困っている」


 侍女のマリーも、助け船を出してくれる。

「アリシア様が、昨夜危険な目に遭ったことはロザライン様もご存知のことでしょう?それに国宝のローズクォーツが、行方不明になりかけたのですよ?アリシア様の安全が最優先です。急ぎ発つのも致し方ありません」


「……―っ!」

 ぐうの音も出ないロザライン。


「そういうわけなので、失礼します」

 私はそれだけ言い残して、馬車に乗り込んだ。



「助かったわ、アーク、マリー。どうなることかと思ってしまって」

 馬車の中で、ほっと一息ついた私がそう言うと、アークが頷いた。

「マリーが機転を利かしてくれたからだな」

「まぁアーク様。いつもアーク様がアリシア様を助けてくださっているから……。――アーク様は、アリシア様のことが本当にお好きなのですね」

 にこにことしながらマリーがそう言うと、アークは顔を真っ赤にして押し黙る。

 私も思わず、顔が熱くなる。



 馬車は魔法都市ローズウォーターに向け、走り続けていた。

 馬車の周りをクリスをはじめとする、魔法騎士たちが馬を走らせながら護衛している。


「そうだ、アリシア。前から君に貸そうと思っていたものがあるんだ」

 アークはそう言って、鞄から一冊の古びた本を取り出した。

 本のタイトルは『ピノンの冒険』、ずいぶんと読み込まれたらしく、あちこちが傷んでいる。表紙には髪の長いお姫様を抱き抱えた少年の絵。

「後でいいから、読んでみて」にっこりと笑って、アークは私に本を渡す。

「ありがとう」私はアークにお礼を言う。「読んでみるわ。小説は大好きなの」

「喜んでもらえて、嬉しい」アークは照れるように、笑んでいた。


「お礼を言うのは、私の方だわ、アーク。あなたがいなければ、今ごろ私は――」

 私はアークの顔を見つめて言う。

「俺はアリシアの婚約者だから、何があっても君を守るつもりだよ。でも今は、それ以上に君のことをもっと知りたい」

 アークの言葉に、私はただ一言――

「ありがとう、アーク」

 そう言って、微笑んだのだった。



 馬車はひたすら、ローズウォーター魔法学院のある、魔法都市ローズウォーターへと走りつづけていた。


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