第十八話 王家の秘密の魔法
――リズ・ブラウンは平民なのに、癒しの魔法を?
一体何のことなのか、私は面食らうしか無かった。
病気や怪我を治す癒しの魔法を使えるのは、ここ、ローズクォーツ王国の正当な王家の血を引く者、それも受け継がれるのは男女関係なく長子のみ。
私の伯父であるアメジスト公爵が、第一王子なのにも関わらず王位を継げず、公爵位を賜り事実上の臣籍降下をしたのも癒しの魔法が使えなかったため。
幸いにも第二王子だったお父様が癒しの魔法を使えたので、無事リチャード16世として即位出来たのだけれど。
王妃エレノアとの間に生まれた私、アリシアは王女であるにも関わらず、癒しどころか、魔法ひとつ使えなかった。
私を幼い時見立てた宮廷魔道士は、こう言っていたという。
「王家の魔法の力が弱まっているのでしょうな。政治が乱れ、民衆の心が王家から離れ始めているのかもしれない。実際、不景気や不作続きで、民は苦しんでおります」
その言葉に動かされたのか、お父様は民衆のための政治を心掛けていた。
狩りと称して農村を見回ったり、恵まれない者のために積極的に寄付したり。
その一方で魔法の使えない王女である私を慈しんで育ててくれて、お母様は王家の象徴であるペンダント、ローズクォーツを私に譲ってくれたのだ。
その日から家庭教師に教わって、少しずつ魔法が使えるようになったけれど――やはり癒しの魔法を使うことが出来るようにはならなかった。
これはローズクォーツ王家と、それに近しい者だけが知る秘密。
私も15歳の誕生日に、全てを知らされたのだから――
「――アリシア?」
アークの声に、私は我に帰る。
婚約者とはいえ、アークは他国の王子。
ローズベリー王家の秘密について、知るはずもないのだ。
もちろん、癒しの魔法が持つ意味も。
「ううん、何でも無いの。ただ、そのリズさんという方と、仲良くなれるのか悩んでいただけよ。ほら、身分も違うし――」
「アリシア、無理するな。何か悩んでいるとしたら、俺が力になるから」
サファイアブルーの目が、真剣にこちらを見つめる。
その時、マリーが食後のケーキを運んでくる。
薔薇が飾られた上品なケーキ。
「アリシア様、アーク様がさっきのお茶と合わせて作らせたそうですよ。今、お茶もお持ちしますので」
直後、さっき出された薔薇のお茶が出される。
ケーキを口にし、お茶を口に運ぶ。とても良い、薔薇の香りがする。
「とてもおいしいわ。アーク、気を遣ってくれてありがとう」
「君が喜んでくれて嬉しいよ、アリシア。――その、君の笑顔が見たかったから」
照れるようにそう言う、アークの顔を見て、私は可愛いと思ってしまった。
――男の方を、可愛いだなんて、私、変かしら?
良い香りのお茶を飲みながら、私はそんなことを考えていた。