第十話 失われた秘宝と深まる謎
「アーク……!私、私…」
私はアークに駆け寄り、その胸に飛び込んだ。
「アリシア…、無事で良かった――!」
アークが私をきつく抱きしめる。その腕は、思ったよりずっと逞しく、背中に回る手はお父様みたいに大きい。彼の流れるような黒髪と、サファイアブルーの目が私に近づく。なぜか胸がドキドキし始めるのがわかる。
そこでアークは、私からぱっと離れた。
「あ……何か、ごめん」
ふいっと顔を赤くして、彼は一瞬黙り込む。
「――っ」
私の胸のドキドキも、まだ止まらない。
「――アーク殿下!……アリシア様を助けに来てくださったのでしょうか?」
マリーの声で、私はハッとする。
アークも顔を上げて、
「ええ、アリシア王女を無事助けられて良かった――」
そう言って、私の手を取ってくれた。暖かくて、大きな手の温もりが伝わる。
――やだっ、また胸がドキドキしてきてしまうわ。
「アーク殿下、お話がございます」
マリーが話を切り出す。
「実は、アリシア様の荷物が無くなっていました。ドレス、アクセサリー、そして王家に伝わる秘宝、ローズクォーツが」
「――ローズクォーツか。……大変なことになったな」
アークはどうやら、事態を把握しているようだ。
「それと、不審な点がございます」
「何だ?」
「この部屋ですが、何者かが魔法で鍵をかけたようです。わたくしも、魔法を解こうとしたのですが至りませんでした」
「それも分かっている。私の魔法でも、魔法騎士の魔法でも無理だった。だから力づくで開けさせて頂いた」
私の手を握るアークの握力が、わずかに大きくなる。
「力づく?」
私が聞くと、凛とした青い瞳がわずかに柔らかくなる。
「爆発の魔法だよ。まさか、こんなところで攻撃魔法を使うことになるとは思わなかったけれど。――だが、これだけの事態になったんだから仕方ない。それに」
さっき柔らかくなったサファイアの瞳が、再び厳しくなった。
「――アリシアをこんな目に合わせた者を、許しておくわけにはいかない」
「アーク――」
私は、アークを見上げる。
「アリシア、聞きたいことがある」
アークは真剣な目で、私を見つめた。
「――聞きたい、こと?」
私が戸惑いながら聞き返すと、アークは再び私の手を取り、そして言った。
「アリシア、君のペンダント、――ローズクォーツをいつ無くしたか覚えてる?」