お腹が空いた
彼らは僕の事をこう呼ぶ
ーーーーー 一角獣、と。
僕には名前が無い。住む家もない。
春になり王都は活気づいている。そこら中から芳ばしい食べ物の匂いが運ばれてくる。
ジュ〜ッと肉の焼ける音、香ばしいタレの匂い。程よく焼けた柔らかな牛肉。スパイシーな赤いタレのかかったスープ。
あっちは七面鳥の丸焼きだ。
お腹が空いて死にそうだ、、。
ギュルルルル...
僕は傍にあった屋台に近寄り、訊ねた。
「あの、僕にも...何か頂けませんか、、。使わなくなった皮でいいので、、。」
亭主はこちらを一瞥したが、無視した。
「あ、あの...」
「さっさと失せな、こっちだって商売なんだ。シッシッ」
亭主はそう言って僕を追い払った。
その時チラッと奥の少女がこちらを見た。
身なりが良い訳では無いが、ピンクの髪に白のワンピースが良く似合う、可愛らしい子だった。
少女が立ってこちらへ歩いてきた。
「これ、食べる?お母さんがくれたの」
そういって少女は青カビの生えたカチカチに固まったパンを取り出した。よく見ると、彼女はとても痩せていた。
「...いいの?」
少女はコクンと頷いた。
そのパンは丁寧に赤いハンカチに包まれていた。
きっと大事に取っていたのだろう。
「ありがとう。でも君は?ほんとにいいの?」
そう言うと彼女はとびきりの笑顔で嬉しそうな顔をした。
「えへへ、困ってる人がいたら助けるもの」
世の中には優しい人がいるものだ。僕は感心しながら、だが空腹に負け、一心に冷えたパンを口に押し込んだ。
空腹は最高のスパイスとはよく言ったもので、パンの味は絶品だった。久しぶりのご飯に涙がこぼれた。
「ごめんね、こんなのしかなくて。私がもっと働ければ、、お金があれば、、もっといいものを食べさせてあげられるのに。」
彼女は悲しそうな顔をした。しかしすぐ顔を上げた
「私の夢はね、お金を集めて街の貧しい人たちのお家を作ることなんだ。誰が来ても、いつだって、具のあるスープと寝る場所がある家。誰もが好きに出入りして、休める家。」
「...パン、口にあったかな?君はこれからどうするの?」
そういって彼女はまた満面の笑みを浮かべた。
少し辛そうに見えた。どう答えたらいいか分からなかった。
「...」
「...あっ、ごめん僕パン全部食べちゃった」
「全然大丈夫よ、困ったらあの煙突のある工場へおいで。私達はそこで暮らしてるから。それから、貴族には気をつけてね」
彼女は何かを思い出したかのように走って行った。