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共闘

 先行する日野森の後ろをバランスを崩しながら、全力で追いかける。

 背後では、体勢を立て直したのであろう獅子のアビス・ウォーカーの強靭な爪が、コンクリートの床を削りながら、逃げ出した獲物を喰らわんと駆け出した音が、殺意と共に迫ってきている。


「クソッ!随分と元気な猫だな!」


「減らず口を言ってる余裕があるなら走りなさい!って、先森、頭下げて!!」


 日野森の声に反射的に頭を下げると、獅子の胴体から伸びていた腕が装備している剣が俺の頭上を右側から超えていき、反対側の壁に大きな傷跡を作った。

 

「っと……闇よ、穴を広げ我が敵を飲め!」


『ガァ!?』


 足元が急に沈んだ弊害により、バランスを大きく崩し前のめりになる獅子を、見ながら距離を取る。

 即席で、落とし穴を作ってみたが案外効果はあるな、あとは大人しく嵌まっててくれれば楽なんだが……そう簡単にはいかないか!

 視線の先では、獅子が胴体から伸びている二本の腕を器用に使い、俺が作った落とし穴の無い地面に手を置くとその腕だけで、巨体を持ち上げ見事に落とし穴から抜け出していた……それ、本来ならお前には備わってない器官だろうに器用に使いやがる、やっぱりアビス・ウォーカーをこっちの常識で考えるのはダメだな!しかも、ちゃんと剣と盾を拾い直してやがる。

 だが、それでもすぐに追いつかれる様な距離から、逃げ切るには十分な距離を稼がせて貰ったぞ。


「そら、こっち来い!間抜け!!」


『ガァァァァ!!』


 言葉の意味を理解しているのかは分からないが、勢いよく吠えると同時に俺に向かって駆け出して来るアビス・ウォーカー。

 ギリギリまで引きつけて、校庭へと繋がる連絡通路を飛び出すと、その上空に日野森が空を飛びながら待機していた。


「火よ、無数の槍となり我が敵を刺し貫け!!」


 日野森の詠唱と共に、少なくとも十本以上はある火の槍が生成され、飛び出してきた獅子の頭上から、まるで隕石の如く降り注いでいく。


「ッッ!?あの雨を掻い潜りながら、迫れるのか!?」


 四つ足の生物は、二足歩行である人間よりバランス感覚や、機動力に優れているとは聞いた事があるが、自分の頭上から降り注ぐ火の槍を一度も、見る事なく避けきるとかマジか……


「ボケっとしない!!」


「あぁ、分かってる!!」


 アビス・ウォーカーが一体だけなら、俺の役目は日野森の援護だ。

 空を飛んでいる彼女を狙う手段がないのか、それとも目の前の狩りやすい獲物を狙うと決めているのかは分からないが、幸いな事にアビス・ウォーカーは今のところ、俺だけを見ている。


「闇よ、我が身に纏て、暗闇を打ち払う力を授けよ!」


 黒い霧が俺を飲み込み、両手両足に感じる空気が重くなった事と視界が覆われた事で、問題なく目的の能力が使用できた事に安心しつつ、構えると俺が臨戦体勢に入ったのを察してかアビス・ウォーカーが身体を僅かに沈める。

 

「ふっ!」


 サードアイの力を使用していると、身体能力まで上がっているらしく、思ったより走り出した時の加速が大きいのは、訓練の時に分かったがやっぱり、まだ慣れないな。

 それでも、アビス・ウォーカーの正面ではなく右横まで回り込む事ができ、腰を落とした正拳突きを放つ。

 

「硬っ!!」


 剣を横にして盾代わりに防ぐとか、本当にこいつ賢いな!?


「火よ、刺し貫け!」


「うおっ!?」


 鍔迫り合いの様な形になっている俺とアビス・ウォーカーを取り囲む様に、火の槍を出現させる日野森。

 ……あの、もしかして俺ごと刺し貫こうとしてませんかね?確かに、俺が今纏ってる闇は、お前の火を受けても飲み込んでくれるとは思うが。


『グルァァ!!』


 グンっと、目の前のアビス・ウォーカーから感じる力が跳ね上がった。

 何が起きたのかを自覚した頃には、俺は既にアビス・ウォーカーの体当たりを利用した弾き飛ばしを受け、勢いよく校庭の地面を、数回跳ねた後だった。

 

「先森!!」


 日野森の攻撃を受けてなお、健在のアビス・ウォーカー。

 手に持っている盾で防ぎ立髪代わりの触手を利用して、火の槍を絡め取った様だ、その証拠に未だ燃え盛っている槍を掴み続けている触手が存在している。


「……大丈夫……だ。まだ、立てる!」


 幸い、骨などは折れてない様で心配する様子の日野森にまだ、戦える事を示す。

 アビス・ウォーカーは、燃え盛る火の槍を複数の触手で、覆うとその火を消し去りそれを見た日野森の表情に、僅かばかりの動揺が浮かぶが、本人もそれを自覚している様ですぐに深呼吸をして、自分を落ち着かせていた。


「思ったより、強いわねこいつ」


 隣に降りて来た日野森を横目で見ながら、拳を構える。


「獅子の姿は、伊達じゃねぇって事だな」


「そうね……アンタ、アイツを拘束できる?」


「さっき無様に吹っ飛ばされた奴に聞く言葉か?」


 はぁっと呆れた様な溜息を零す、音が聞こえてくる。

 見るまでもなく、日野森が呆れ切った顔をしているのがはっきりと想像出来て思わず、笑いそうになるのを堪えつつ、口を開いた。


「やるしかないんだろ。その代わり、ちゃんと焼き尽くしてくれよ日野森」


 わざわざ、上の有利を捨ててまで提案してきた作戦だ。

 きっと、日野森の中では成功率が高い作戦なのだろう、だとすれば俺がやれる事はただ一つ、それを信じて俺が出来る最大限の結果を残す。


「当たり前よ。私を誰だと思ってるわけ」


 彼女のやる気に呼応する様に、纏っている火が昂る。

 その熱を感じながら、俺は返事代わりに鼻で笑うと同時に、獅子のアビス・ウォーカーへと全力で駆け出し、今度は小細工無しに真正面からその鼻ツラを殴る。


『グルァ!!』


 鼻面を殴られたというのに、さほど怯む様子を見せずに噛みついてくるアビス・ウォーカーの涎が滴る大口を、真下から蹴り上げて無理やり閉じると、そのまま体当たりに切り替えるという、柔軟さを見せつけられ正面からの頭突きで、一メートル ほど後方に飛ばされる。


「やるじゃねぇか…」


『ガァァァァ!!』


 体勢を立て直させる訳にはいかないってか?

 咆哮と同時に、跳び上がり振り下ろされる鋭い爪をギリギリのところで、避けて下がった頭を足場に獅子の身体に、登り振るわれる剣を、スラインディングで避けてその勢いのまま、背後を取り、両手を地面に着くと叫ぶ。


「闇よ、我が敵を飲み込み、拘束せよ!!」


 その言葉と共に、アビス・ウォーカーの足元の影が、蠢くと黒い鎖の様なものが何本も、飛び出す様に現れアビス・ウォーカーへと勢い良く、巻き付いていく。


『グルァァ!!!!!!』


 鎖に巻き付かれてなお、その膝を屈する事なく雄々しく吠えるアビス・ウォーカーの姿は、正しく食物連鎖の頂点に立つ獅子の姿に恥じないものであった。

 それでも、この知恵比べは俺と日野森の勝ちだ、アビス・ウォーカー!

 ギチギチと音を立てる鎖の音を聞きながら、喉がはち切れんばかりに俺は叫ぶ。


「今だ、やれぇぇぇ!!」


「──火よ、火よ!我が手に収束しその業火で我が敵を吹き飛ばせ……!蒼華槍!!」


 完全燃焼を示す青い火へと、纏う火を切り替えた日野森が、拘束されたアビス・ウォーカーの正面に立ちその一撃を放つ。

 あまりの熱と光に、目を閉じてしまった俺が目を開くと、そこには上半身が完全に吹き飛ばされ、残された下半身も溶けて消えていく獅子のアビス・ウォーカーの最期の姿があり、拘束する対象を失った鎖がウロウロとしているのが少しシュールであった。


「耐火性のある触手みたいだったけど、至近距離でかつこの高温なら意味が無かったようね」


 燃焼を間逃れた触手を拾い上げ、完全に燃やし尽くしながら俺の前にやってくる日野森は、とても良い笑顔を浮かべていた……やっぱり、美人の笑顔ってのは映えるな。


「お疲れ、先森。立てる?」


「あぁ、立てる」


 その笑顔に少し見惚れてたとは、恥ずかしいので言わずに差し出された手を手に取り、立ち上がる。

 周囲からなんとなく感じていた嫌な気配が、消えていった事から現れたアビス・ウォーカーはこの獅子一体だけだったと直感的に理解する。


「あー……疲れた」


 覚悟を決めてからの初実戦の割には、上手くやれたんじゃないか?何回か、吹き飛ばされたけど、取り敢えず生きてるし……とは言え、日野森が居なきゃ勝てなかっただろうなぁ。


「ほら、まだ終わるには早いわよ。この後、本部で検査があるんだから」


「アビス・ウォーカーから悪影響を受けてないかチェックするんだっけ……めんどくせぇ」


「死んでも良いならそれで良いんじゃない?」


「……お前が言うと冗談に聞こえねぇ」


 先を歩き出した日野森の後ろをゆっくり、歩いていく。

 何かしら注意されないって事は、日野森的にも合格って事で良いのかね?まぁ、わざわざ聞くもんでもないし良いか。


 この後、本部で受けた検査は特に問題ない結果となり、時計の針が十二を過ぎてから漸く帰宅した。

 …翌日、華麗に遅刻して日野森から呆れられるのだった。

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