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世界の裏側で伝える想い

不定期の極みになってるけど頑張っていきたい……!!

 記憶の奥底、決して晴れることのなかった霧が晴れ渡って行く感覚と共に俺は瞳を開ける。


「これは……」


 綺麗な建物群……見覚えは無いはずなのにとても懐かしいと思えるこの景色はまさか、灰になる前の灰都か!?

 だとすればこの既視感にも納得がいく──俺にとって懐かしいと呼べる景色なんてきっと、灰都しかないから。


「だけどこれは……子供になってるって訳じゃない。本当に記憶を閲覧してる状態ってことか」


 道を行く人々に触れる事は出来ないし、当然声をかけても反応が返ってくる事はない。

 なんなら俺の体は半透明だしな。


「壱与さんが言うにはこれが俺の忘れてた記憶ってやつか……ん?」


 特に目的地も何もないので足が赴くままに歩いていたけど、ふと目に入ったこれと言って特徴のない一軒家の前で立ち止まる。

 なんだかその家がとても懐かしい気がして近づいて行けば表札に書かれている名前は『先森』で、目に入った瞬間ほぅっと息が漏れた。


「……此処が俺の家」


 何処にでもある普通の家だ。

 豪邸って訳でもなく、家族三人で暮らす分には恐らく何も不自由がないだろうと分かるぐらいの。


『グルァァァァァ!!!!!』


「ッッ!?なんだ!!」


 それは突然だった。

 出現する様な兆候もなく、地面から黒い龍の様なもの──今なら分かるが厄災の一部分だろう存在が時間にして数秒ではあったが街中を駆け抜けていった。

 ただそれだけで街は黒い灰が舞い散る地獄へと変わり、運転手を失った車が相次いで激突し爆発炎上、民家からも料理していた人が消えた為に発火し何もかもが燃えていく。


「……少し前まで平和だったのに」


 卑弥呼の言っていたサードアイを生み出す実験、その為だけに多くの命が平穏が失われた。

 今の俺に何かが出来る訳ではないと分かっていても、歯を食いしばってしまう。


「綾人!!」


「……ん?」


 俺の後ろから俺によく似たけれど、俺よりも数段優しい顔をした警官が家の中へと入っていき、少しの後にまだ幼い俺を抱き抱え飛び出してきた。


「無事で良かった……!!すぐに母さんを迎えに行こう!!」


 親父だ。

 俺の憧れだった警官になって、街を守っていた親父が俺を抱き抱えて悲鳴が上がる街中を走っていく。

 当然、警官である親父に助けを求める街の人達が居て助けてと呼び止める。


「ッッ、綾人。少し待っててくれ!!」


「……本当は自分だって母さんが心配なのに」


 その度に親父は俺を下ろして、話を聞いて応援を手配して一人でどうにか出来そうなら人を助けながら進んで行った。

 その姿を家族が大切じゃないのかと思う人もいるだろうが……俺には格好良く思えた。

 親父は俺達を助けたいという思いと、街の人たちを助けたいという思い、その二つのどちらも捨てずに成し遂げると決めたのだろう……俺にはその覚悟を責める事なんて出来なかった。


「っと、追いかけるか」


 なんとなくではあるけど、ただ見送るより親父達に着いて行った方が良い気がする。

 つか、俺も大人しいな……親父が助ける度に降ろされてるのに何も文句言わないし、じっとして親父が仕事してる風景を見てる。

 当たり前だが、やっぱり憧れてたんだな親父に。


「よし、病院に着いたぞ」


「その声は……あなた!!綾人!!無事だったのね!!」


 避難が始まった病院でベットで寝た患者を救急車に乗せていた看護師、長い黒髪が似合う女性は俺の母親だ。

 両親揃って人の為に生きてる二人が俺は本当に好きだった……


「よし、このまま逃げッッ!!」


「あなた!!」


「綾人……お前は生きろ!!」


 ッッ……なんで此処からまた出てくるんだよ厄災……!!

 逃げようとした俺達をまるで仕留める様に現れた厄災が、両親と逃げようとしていた医者や看護師、患者達を飲み込んで黒い灰へと変えていく。

 俺は放り出された事でギリギリ助かり、呆然としているところを親切な人に助けられていった。


「……これが俺の忘れていた記憶か」


 再び、真っ暗に戻った空間で呟く。

 全ての始まりにして、俺の心を容易くへし折った絶望……そりゃそうだな、憧れと夢と両親を一気に失ったのだから。


「にしても俺に会いたいって人は一体……」


「俺達だよ綾人」


 聞こえるはずのない声に呼吸が止まる。

 暗闇からゆっくりと現れてはっきりとするその姿は俺の親父と母さんなのだから。


「綾人!!」


 ふわりとけれど確かに強く母さんに抱きしめられ、その力強さや感じる暖かさにこれが幻覚でもなんでもないと分かる。


「ずっと……ずっとお父さんと一緒に見ていたわ。綾人の頑張りを……ごめんね、苦しい時辛い時に側に居てあげられなくて」


 そっと優しく頭を撫でられ、目元が熱くなるのを感じた。

 全てを思い出した今、この暖かさはあまりにも心地よくて懐かしくて空っぽだった心が満たされ──溢れ落ちそうになる涙をグッと堪える。

 ……今はまだ泣く訳にはいかないんだ。


「……昔からお前は泣かない子だったが、今のお前は強くなったな」


「親父……俺は音夢に約束したんだ。ヒーローは泣かないって」


「あぁ。知っている」


 そんな俺を困ったように見て笑うなよ親父……これは男の意地なんだからさ。

 好きだった子との約束ぐらい貫き通したいんだ。


「綾人、お前は普通とは違う力を手にしてしまった。きっとお前が本気を出せば人類を滅ぼすのはとても簡単だ」


「……親父」


 俺にそんなつもりはないと言いたかったが、親父は俺が荒れてたのも知っているしきっと俺の心の中に音夢を奪ったこの世界を憎んでいる気持ちがあるのも見抜いているんだろうなと分かってしまい言葉が出なかった。

 そんな情けない俺を親父は優しい顔で見ている。


「世界は優しくないかもしれない。けどな、お前の周りにはお前を大切に想ってくれる者達がいる。そんな彼らの為にその力を振るうと誓えるか?」


『──他人を思い遣る気持ちはあるんですよ。まぁ、分かりやすい暴力などを解決策に選ぶんですが』


 獅子堂先生。


『本当は休んで欲しいが、君は大人しくするタイプではないからな。私も後から向かう、君は君のやりたい事をすると良い。全ての責任は私が負うとも』


 茂光さん。


『そうか……これからはお主ら若いもんらの時代だ。負の遺産は……儂が連れて行く……だから、これからの世を頼んだぞ』


 伊藤の爺さん。


『──存外に心地よいか?クハハハ!!憎しみ合うだけの己らではなかったと!!』


 デクスター。


『好きだよ……愛してる……ふふっ……漸く……言えた……本当は君から聞きたかったけどね』


 ……音夢。


『良いわよ、友達になりましょうか。同じなんでしょ、私達?』


 飛鳥。

 

 親父の問いかけを聞いた瞬間、頭を駆け巡ったのは俺と関わってきた人達から向けられた様々な感情が込められた言葉の数々で、その全てが胸の奥を熱くさせる──あぁ、そうだ俺はこんなにも多くのものを受け取ってきていたんだ。


 なら少しずつでも返していかなきゃな……だってこんなにも心が温かくなるのだから。


「──大丈夫だよ。卑弥呼の気持ちも分かるけど、でも俺はこんな俺の事を愛してくれた世界を裏切りたくはない。今は無理でもこんなにも世界は優しいんだって広めていきたいから」


「綾人……」


「心配してくれてありがとう母さん。俺、この暖かさを思い出せてよかった」


 離れるのは寂しい。

 けど、前と違って俺の中には母さんがくれた暖かさが残ってるからいつでも思い出せるから。


「……強くなったねぇ綾人」


「俺達の息子だ。弱い訳がない」


「ッッ、二人ともなんか透けてないか?」


 感じられる気配もどんどん薄くなってきている……あぁ、もう時間なのか。


「俺達はこれからもお前を見守っているからな。綾人、決して忘れるなよ!!お前の闇は他人から熱を奪うものじゃない。辛くて苦しくて、どうしようもない誰かをそっと包んであげられるそういう優しい闇だ!!」


「あぁ……あぁ!!分かったよ親父!!母さん!!」


 優しく揃って微笑んで消えていく二人を見送って、俺は走り出す。

 遠くに見える暖かな光……アレはきっと飛鳥の火だ──あの暖かさに救われて何度も隣で見て来たのだから間違いはない!!


「うん。そうだよ……だから私が手伝ってあげる」


 あぁ……君も此処にいるんだね。

 バイオリンの音共に暗闇を青白い火が照らし出し、走りやすいように道が出来上がる。

 外へと向かう俺を邪魔したいのかアビス・ウォーカーの叫び声が聞こえ出す。


「綾人の邪魔させない」


 後ろを振り返る事はないけど、確かに彼女が助けてくれる音を聞いて全力で走りそして聞こえてきた飛鳥らしい啖呵に笑いながら飛び出した。


「──いってらっしゃい。綾人」

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