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過去と未来そして今 前編

「──初めまして。先森綾人様」


「えっと……誰?」


 卑弥呼の過去が見終わったかと思えば、元に戻った暗闇が支配する場所で突如として俺の前に現れたのは歳の近そうな女の子だ。

 着ている服は歴史の教科書でしか見た事ないぐらいには質素だけど、被ってる冠や服の至る所にある赤い飾り付けがあるから多分、高貴な身分なんだろうけど見覚えが全くないな。


「ふふっ、当然の反応ですね。では自己紹介の方を致しましょう。私は卑弥呼様が建国せし、邪馬台国の二代目女王を拝命しておりました壱与と申します」


「女王様って事か。通りで雰囲気が柔らかいというか優雅なわけか」


「ありがとうございます。ですが、所詮は自らの手で国を滅ぼした二代目ですので、賛美を受ける資格はありませんよ」


 そう言って赤い目を伏せる壱与は一気に暗い雰囲気を纏う……えぇ、俺にどうしろと?


「あ、すみません。すぐ暗くなってしまうのは私の悪い癖ですね。壱与反省」


「お、おう」


 なんだろう……もっとこう女王様って威厳があるイメージだったけど両手を合わせてニコニコしだした彼女を見ているとこう凄くポンコツ臭を感じるというか、イメージが音を立てて崩壊していくなぁ。


「むっなにやら私の評価が下げられている気がします」


「キノセイデスヨって、なんで此処に壱与様がいるんだ?」


「壱与で良いですよ。それはそうですね、私のサードアイが火と闇なのですよ」


「二つ?」


 サードアイって卑弥呼が例外なだけで、一人一つの属性だと思っていたが違うのか?

 それとも複数の属性を扱えるから女王として抜擢されたのだろうか。


「サードアイとは意思の力。世界を自分の意思で変えるという強い意思が必要です。綾人様、科学が未発達で神の存在が間近だった時代と今の科学がありふれ、神は空想でしかない時代。どちらがサードアイを受け入れる素養があると思いますか?」


「あー……そりゃ古代だな。サードアイを初めて聞いた時、俺は厨二病か何かとしか思わなかったし」


 今は当たり前の様に使えるが、サードアイの力を初めて知った時は到底信じられなかったもんなぁ……まぁ、そりゃそうだ。

 無から有を生み出し、現実に干渉する力なんて今の科学からは到底考えられない代物だしマジックか何かかと思われても仕方がない。


「その通りです。人はサードアイの力を先天的に持ってはいましたが、時代を追うごとに超常は科学に置換されていきその力を失っていきました。なので、今は限られた人間と限れた属性しか発現しないのです」


「なるほどな」


「まぁ、当時は意思が弱いという方向性で目覚めない人も多かったですが……さて、本体に移りましょうか。私は卑弥呼様に反旗を翻した女王ですが、決して彼女が憎くて行った訳ではないのです。むしろ、敬愛しているが故に修羅の道を歩む彼女を止めたかった……」


 そうして壱与は語り始める──大切だけど辛くて悲しい思い出話を。







 私が卑弥呼様に拾われたのは、邪馬台国が出来てから数年後、すぐ近くに出来た略奪国家に囚われていたところを救い出して貰ったのがきっかけでした。

 と言ってもあの時代は邪馬台国以外は、ほとんど略奪国家でしたのでもしかしたらよくある出会いだったのかもしれませんね。


「辛い目にあってもなお、力を失わぬ瞳……魔の如き赤い瞳を疎まれたか。お主、名をなんと言う?」


「……ない」


「ふむ……ではこれからは壱与と名乗れ」


 あの日の事は今でも鮮明に記憶しています。

 私が捕らえられていた洞窟の外壁を破壊し、差し込む温かな太陽光の光を背にして佇む卑弥呼様の神々しさは忘れたくても忘れられません。

 そうして彼女から壱与と名付けられた私は、邪馬台国でサードアイの修行に打ち込み……まず初めに火のサードアイに覚醒しました。


「……綺麗」


「壱与の優しい心を反映したかの様な暖かな火だな。やはりお前は才能があるよ」


 親に褒められれば嬉しいのが子供の心理ですよね?

 褒められた私はもっと、もっと褒めて欲しくて修行を沢山積んで戦えるだけの力をつけたら、今度は卑弥呼様と一緒にアビス・ウォーカーと戦って少しずつ少しずつサードアイの練度を上げていきました。

 そして、十年の歳月が流れて卑弥呼様から女王の座を継承する際に闇のサードアイに覚醒したのです。


──ただ、それはあまり喜ばしい事ではなかったのですが──


 え?どうしてだって?

 だって、今まで自分たちを襲ってきていた存在と同じ力ですよ?嫌悪されて当然じゃないですか。


「壱与は悪くない!!見てくれこそ連中と同じだが、その本質は別のものだ」


 卑弥呼様が私を庇ってはくれましたが、二代目である私がアビス・ウォーカー由来の力を使うと言うのは瞬く間に周辺国に知れ渡り、邪馬台国は戦乱の時代を迎えてしまいました。

 もちろん、此方には最強のサードアイである卑弥呼様を有しているので負ける事はなかったのですが国力は消耗し、お優しい卑弥呼様の心は日を追う毎にすり減っていき──私を捕らえていた国をたった一人で滅ぼした時にはもう修羅に堕ちかけていたのです。


「卑弥呼様……!!」


「壱与か。敵は滅ぼしたぞ。これで邪馬台国は」


「お気を確かに!!こんな……子供まで殺すのは間違えております!!」


 燃え盛る村々には夥しいまでの死が溢れていて、そこには今まで殺すことのなかった時代を担う子供達まで含まれていました。

 ……はい、既に卑弥呼様は己の領分で守れる者達に見切りをつけそれ以外を排斥する在り方を定めてしまっていたのです。

 えぇ、貴方様が此処で見た通り邪馬台国の滅びは外部からの敵による者ですよ。

 それを誘致したのが私と言うだけです。


「このままでは卑弥呼様は心を壊してしまう……民の皆様、酷な選択を強います。私と死ぬか生きるかを決めてください」


 卑弥呼様とて人の子、眠るという行為を省く事は出来ず彼女が眠る丑三つ時に私は集めた民の方々と話をし、多くの者が計画に賛同、私は他国と密かに繋がり卑弥呼様を終わらせる為に武器を取りました。

 

「結果はご覧の通り……見事に負けましたけどね」


 綾人様と私の周りを無数の死体と炎が囲い、その中央で在りし日の私が卑弥呼様の手によって心臓を貫かれている光景が再現されています。

 あぁ……その様に悲しげな顔をしないでくださいまし綾人様……私はこの結末に後悔こそあれど間違った事はしていないと思っておりますので。


「そして僅かに生き残った私の血を引く者達が、火ノ守として復興していくのです」


「飛鳥の起源か……」


「はい。久しぶりに見ましたよあんなにも綺麗な火のサードアイは」


 だからこそ私もこうしてこの場に現れる事が出来たのかもしれませんね。

 かつての私を、かつての卑弥呼様を連想させるあの火のサードアイの輝きに呼ばれて。


「……綾人様。此処から出る手助けを私がします」


「その代わりに卑弥呼を止めてくれって言いたいんだろ?馬鹿の俺でも分かるよ」


「……任せてばかりの女王で申し訳ありません」


 名ばかりの女王と揶揄されても仕方がありませんねこれでは……いつもいつも私は力が足りず、自らの選択を誰かに任せてばかり。


「──違いますよ。貴女が選択をしてくれたから今があるんです」


「え?」


「俺はあんまり難しい事が分かんないっすけど、それでも飛鳥の一族が今まで日本を守ってきた事、今こうしている間も卑弥呼と戦っているのは貴女が戦う選択をしてくれたお陰です。あとは俺が……いえ、俺達が引き継ぎますから」


 あぁ……なんと意思の強い瞳……卑弥呼様、次代を託す気持ちが漸く私にも分かった気がします。


「……では、綾人様。貴方様にはこれから忘れている記憶を取り戻していただきます」


「それは……」


「はい。貴方様が記憶を失った日に何があったのか、そしてその上で会ってほしい人達がいますから」


 記憶を閉ざすほどの出来事に向き合うのはとても辛い事ですが、そこから目を逸らしていたら闇のサードアイが本当の意味で覚醒する事はない。

 そう告げると綾人様は少しだけ、緊張した面持ちで大きく息を吸って吐くと覚悟決めた戦士の顔付きとなりました。


「宜しいのですか?」


「音夢との約束以外にも俺に大切なものがあった筈だから、それを思い出せるのならどんな地獄とも向き合うさ」


「良い覚悟です」


 両手を広げて、三種の神器の一つ八咫鏡を取り出し綾人様を写すと、鏡は光り輝き彼の霧がかった記憶を明るく照らし始めた──どうか、心を壊さぬ様に。

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