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その血の始まり

お久しぶりです

 きっと今起きなきゃ私は後悔するだろうって予感があった気がする。

 意識を取り戻した瞬間、聞こえてくる様々な喧騒は此処がまだ戦場である証で繋いでいた筈の手の先は妙に冷たくて……ああきっとアイツが危険な状態なんだろうって分かった。


「……なら休んでいる暇はないわね」


 あの馬鹿はまた私の知らないところで何かを背負っている筈だ。

 いつの間にか身に付けていた仮面のせいで表情は見えなかったけど、雰囲気というか言葉の感じというかいつものアイツよりも何処か暗いものを感じた気がする。


「一人で全部背負ってんじゃないわよ馬鹿」


 立ち上がった瞬間にふらつく身体の気力を燃やして、無理やり奮い立たせ与えられていた部屋を出るとそこにはやはり色んな人達がそれぞれ自分達の出来ることに取り組んでいるのが分かった。


「負傷者は奥に!自分で動ける方は、外のテントへとお願いします!!」


「日本中が今はパニック状態だが、こんな時こそ我々警察は落ち着くべきだ。冷静に避難誘導と行方不明者の捜索をするんだ」


「アビス・ウォーカーの出現反応……全て戦場に向かっている様です!!」


「死なない程度に引きつけろ!!今、あそこで戦っているであろう英雄を邪魔させるな!!」


 ……みんな強いわね。

 アビス・ウォーカーなんていう理解不能な化け物を前にしても、今の自分達が出来る最善を尽くし動こうとしているこの光景が私はとても尊いものだと思える。

 私はこんな強い人達を守りたい……ううん、この強い人達でも太刀打ち出来ないものに対抗する力があるのだから私が誰よりも戦わなくてはならないのよ。


 ──胸の奥、心臓が熱くなる感覚が走る。


「……あれ?身体が軽く……そうか。サードアイとは意志の力。アイツが強いわけよね」


 ほんとアイツよりも先に守護者を気取ってた癖に、何もかもアイツの背中を追いかけてるわね私ったら。


「よしっ!これならいける!!」


「……何がいけるかは分からんが病院着から着替えるぐらいはしろ飛鳥」


「お父様!?」


 いつの間に後ろに……というか私、病院着だったのね……そりゃEPS着てる訳もないか。

 相変わらずサングラスで表情が分からないお父様は、ゆっくりと私に近づいてきて手に持っていたスーツケースを差し出してきた。


「ADの長から受け取ってきたEPSだ。これを着て今度こそ、全てを終わらせてこい」


 電話で聞いた時よりもぶっきらぼうで、何処か冷たさを感じる声はあの家で聞き慣れたものだけど今の私は目の前のこの不器用な人が持つ優しさをちゃんと理解しているせいか、不思議と笑みが溢れてしまった。


「……笑うな」


「ふふっ、お父様って本当に不器用だなって。でも、ありがとう。今はこれが必要だったから」


 スーツケースを受け取ると、お父様は空いた手を少しの間その場に留めていたがゆっくりと下ろした……きっと、色々と言いたい事があるんだろうなって察したけれど今は時間がなかった。


「行ってくるねお父様」


「……あぁ」


 向かう途中で着替えればいっかななんて考えながら、お父様に背を向けて走り出す。

 背中から声がかかる事はなかったけど、不思議と背中を押された様な感じがして私は今まで以上に力が漲ってくるのを感じていた。


「……帰ってこいよ飛鳥」








「アンタらが争ってる理由は知らないけど、とっとと綾人を返して貰うわよ!!」


「日野森……飛鳥ぁぁ!」


 穢れを断ち切り、燃やし尽くす飛鳥の火は今の卑弥呼にとって天敵にも等しく、彼女の攻撃よって打ち消された極小の太陽がその証だ。

 宿している熱量からすれば、飛鳥の火は太陽と比べるまでもなく弱々しいものであったのにも関わらずただの火の矢で消し飛ばされてしまったのは今の卑弥呼が扱うサードアイは全て、闇を宿した力である為だ。

 それを理解しているからこそ、卑弥呼は忌々しく彼女を睨みつけているのだろう。


「そんなに叫ばなくても聞こえてるわよ……てか、なんでアンタがアレと戦ってんの?」


『クハハ!!アレの仲間と思われているのなら心外だな火の娘よ!己は己の欲望のままに振る舞う化身よ、人類救済など一欠片も興味ないわ!!』


「……つまり綾人と戦いたいってことね。じゃあ取り返すまでは味方ね」


『そういう事だ!!』


 あっさりと飛鳥とデクスターは協力体制を作り、彼女はその手に布都御魂剣を握り締めデクスターは周囲の闇を喰らい尽くし、自らの傷を回復させると握り拳を作り構え、卑弥呼を揃って睨みつける。

 当然、卑弥呼にとって目の前の光景が気にいる訳もなく青筋を浮かべながら八岐大蛇を広げ、更に使い慣れたワイヤーも展開させた。


「……火ノ守の子孫よ。お前もまた彼女と同じ様に私の理想を阻むのか」


「?誰のこと言ってるのか知らないけど阻むわよ。私は今を生きてる人達が大好きだからね!」


 返答と共に広げられた青い火の翼から無数の羽が卑弥呼目掛けて射出されるが、ワイヤーに無数の岩が生じるとそれらがドームの様になり攻撃を防ぎ反撃と言わんばかりに雷と水を纏ったワイヤーが空を飛ぶ飛鳥に向かって飛んでいく。


「今更その程度当たらないわ」


 空中で見事な軌道を見せ全ての攻撃を避ける飛鳥を尻目に、デクスターは駆け出し卑弥呼を守る岩のドームを破壊しようと試みるが八岐大蛇が進路を塞ぎ、デクスターの拳はその堅牢な鱗によって弾かれてしまう。


『火の娘!!己の目の前の蛇を狙え!!』


「当たるんじゃないわよ!!」


『クハハ!!誰にものを言っている!!』


「ふっ──火の鳥よ暗き蛇を穿て!!」


 翼から舞い散る火の粉が一瞬にして姿を変え、鳥になり無数の火の鳥が八岐大蛇目掛けて激突すると勢いよくその身体を燃やし尽くす。

 そうして生まれた空間をデクスターは躊躇なく突っ込み駆け抜け、卑弥呼を守る岩のドームを力いっぱい殴り粉砕する。


「……」


『これで終わりだ!!』


 拳に黒い極光を集めるデクスターに合わせる様に飛鳥は、布都御魂剣を構えて卑弥呼に向かって飛んでいく。

 アビス・ウォーカーと人間の共闘……卑弥呼は微塵も想像していなかった光景を前にしながらも浮かべる表情に諦めの色はなく、何処までも冷たい人の悪意がそこにはあった。


「……勝った。そう思っているのだろうが」


 背中の空間に亀裂を作ると彼等の攻撃が届くより早く、その中へと沈み次の瞬間には彼等の背後に現れる卑弥呼。

 深淵を利用した空間転移……未だ彼女には絶対の盾があった。


「ッッ!」


『フンッ!!』


 それでも歴戦の戦士たる彼等の反撃は早く、即座に反転して卑弥呼を攻撃しようとするが既にそこには無数に張り巡らされたワイヤーの罠と八岐大蛇しかなかった──それも丁寧に飛鳥の前にはワイヤーを、デクスターの前には八岐大蛇という徹底ぶりだった。


「このッッ!?」


 ワイヤーを切り裂いた飛鳥であったが、次の瞬間全身を走る雷撃に動きを止めてしまう。

 ワイヤーという導線を失った雷がすぐ近くの飛鳥を襲うのは自明の理であり、その僅かな停止があれば卑弥呼には十分であった。


「──水龍、画竜点睛」


「キャァァ!?!?」


 飛鳥の背後をとった卑弥呼の両腕から巨大な水で出来た龍が作り出されると、飛鳥を瞬く間に飲み込みすぐ近くの瓦礫へと叩きつける。


『火の娘!!』


「人間を案じている場合か?化け物よ」


 デクスターはアビス・ウォーカーを食らい力に変える事が出来る。

 だがそれは、彼が処理し切れる量だからこそだ──八体全ての八岐大蛇が向かってくればその全てを吸収する事は出来ない。


『グォォォォ!?』


 拮抗は一瞬。

 瞬く間に八岐大蛇に噛みつかれ、デクスターは地面へと押さえつけられてしまう。


「この力が馴染む前であれば勝ち目もあったが……遅かったな火ノ守の子孫よ」


「ゲホッ、ゲホッ……何勝ったつもりでいるのよ……まだ私は立てるわよ」


「……その諦めの悪さ。血は変わらんという事か」


「さっきから随分と物知り顔するじゃない……何処かで会った事あるのかしら?」


 その言葉に卑弥呼は何処か懐かしむ様な表情を浮かべながら飛鳥を見る。


「お前の一族の始祖は……我が弟子、二代目邪馬台国女王、壱与なのさ」


「……は?」


「我にとっては思い入れのある名よ。故に使わせて貰っていたのさ……ふむ、冥土の土産に教えてやるとするか」


 そうして卑弥呼は語り出す……大切な思い出を。

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