表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/89

舞い戻る剣

 なんとレビューをいただきました!!雫夜さん、ありがとうございます!!

 大変嬉しくウキウキで、今回の話を書くことが出来ました。

『クハハハハッ!!滾る滾るぞ!!貴様も少しは楽しむ余裕を見せてみろ!』


「貴様らとの殺し合いを楽しむ?有り得んな」


 デクスターの力によって誘引されたアビス・ウォーカーは例え厄災の力を身に宿す卑弥呼が相手であろうとも、容赦なく襲いかかり八岐大蛇の一つに噛み付かれ、存在を霧散させる。

 無論、デクスターも同じ様に襲われるが闇のサードアイ同様に吸収する事が出来るデクスターにとって木っ端のアビス・ウォーカーなどは単なる餌に過ぎず、触れた場所から吸収され卑弥呼から受けた傷を回復させていく。


「……やはり厄介だな。闇のサードアイの系譜が持つ吸収の力は」


 アビス・ウォーカーを呼び、そして喰らうという特異な変異を遂げているデクスターを眼下に収めながらその背に火、水、雷、岩のサードアイによって生み出した四つの槍を浮かべる卑弥呼。


「蛇の追撃に加えてこれらを吸収出来るか?」


 全ての槍が一斉に音を置き去りにする速度でデクスターへと迫り──


『クハハハハ!!』


「……」


 ──激しくデクスターの拳とぶつかり合い、込められた属性に応じた爆発が周囲のアビス・ウォーカーごと吹き飛ばすが依然、デクスターは健在で大口を開き高笑いを響かせながらお返しと言わんばかりに黒い極光が開かれた口より放たれた。


『虚黒咆哮!!』


「大蛇!!」


 七つの首が折り重なり黒い極光を押し留める中、一つの首がデクスターを喰らわんと迫り不運な事に同じタイミングでデクスターに襲いかかったアルマジロの様な硬い外殻を持つアビス・ウォーカーを喰らってしまう。

 

「チッ」


 即座にアルマジロ型のアビス・ウォーカーを投げ捨てるが、既にそこにデクスターの姿はなく何処だと視線を巡らせ──極光を辿る事で奴が飛び上がっている事に気がつく。

 攻撃をしながら飛び上がるという器用さを見せるデクスターに僅かばかり、驚く卑弥呼であったが迎撃のために右手に火の爪を左手に水の爪をそれぞれ、とんでもない大きさで作り出すと拍手をするように手を閉じる。


『ぬぅ!』


 回避をしなければ挟まれるその攻撃を前にして漸く、デクスターは極光を放つのをやめるが迫る両の手を見る事すらせずに足裏に足場を作り出すと蹴り出し卑弥呼へと迫り、直後に背中で高音の火と水が混ざり合い水蒸気爆発を起こす。


『ぬぉぉぉぉ!!』


「小癪な真似を」


 両手を広げる事で爆風を全て逞しい肉体で受け止めることに成功したデクスターはミサイルの如き、勢いで卑弥呼へと迫り極光を放つ右腕を振り上げる。


『黒色凶星!!』


 元々、ただ放つだけでも膨大な破壊力のある黒色凶星を自由落下に加え、水蒸気爆発の勢いを利用した急スピードでぶつけるのだから喰らえば一溜まりもないであろうデクスターの一撃を卑弥呼はジッと見つめながら、迎え撃つ為に全ての蛇が彼女の右腕に形を変えて集まる。


『遅いわ!!』


「所詮は人の真似事。零れ落ちた感情によって形を得ているに過ぎない贋作だな」


 卑弥呼がゆっくりと腕を振るった刹那、デクスターの体を突如として四つの衝撃が襲い空中で操り人形の様に身体を左右に揺らし、地面へと落下。

 巻き上がる土煙の中、呆然とした様子でデクスターは卑弥呼を見上げる。


『己の方が先に届くはずだ……なぜ、貴様の拳が先に届く!?』


「認めたくはないが戦いとは発展を呼ぶものだ。取り込んだ厄災の力が馴染む」


『何を言って』


「分からぬか。では見せてやろう」


 卑弥呼が拳を横へと突き出すと、黒い靄が彼女の手を飲み込む。


『がっ!?』


 すると、デクスターの顔の横にも似た黒い靄が現れそこから卑弥呼の手が突き出され殴られる。

 

『……クハハ。なるほど、己らと同じ空間を超える力か』


「同じ?力尽くでしか超えられぬ貴様らと?ハハっ、笑わせてくれる!」


 瞬く間に無数の靄が展開され、同時に四つのサードアイそれぞれの属性で生み出された槍が飲み込まれデクスターの身体を刺し貫き、苦悶の声を漏らすがその程度で卑弥呼が追撃をやめる訳もなく続け様に複数属性の槍が展開され靄の中へと消える。


『ズサズサと連続で刺してくれる……だがっ!!』


「見た目通りのタフさか」


 串刺しにされた身体をそのままに立ち上がり、突き刺さったままの槍を黒く侵食し吸収すると傷を回復させるデクスターであったが全快には足りず浅く残った傷から黒い粒子が溢れ落ちる。


『貴様は強い。力の使い方も上手く、厄災すら御しているのだから恐れてばかりの己らよりも十二分に格上と言えよう……だが、手数の多い貴様なんぞの攻撃より先森綾人の一撃の方が重かったぞ?』


「……何故、そこまであの男に執着する?私の理想を否定するその意志の強さは認めよう。だが、それだけだ。力の使い方は下手で現実も見えていないあの男より我が弱いと?」


 今の卑弥呼を前にして即死せず、これ程までに抗えているデクスターが一向に自分を認めようとせず、あまつさえ先森の方が強いと語る事にいよいよ我慢の限界がきたのか苛立ちと共に尋ねると、デクスターは楽しげに喉を鳴らし笑う。


『ソレだよ。理想を語りその道に全てを捧げる殉教者の様に貴様は己を語るが、その目はその口は誰よりも現実を知り夢を諦めている……クハハハハ!ソレがあの男との差よ!!』


「なんだと?」


『あの男は現実をよく知っている。しかし、それでも子供の夢物語を語りそれを現実にしようとお前という現実を見てなお!!あの男は抗っている!!あぁ……それこそ、人間の強さ!!届かぬ叶わぬと知りながらなお、その手に収めんと欲し足掻き続けることをやめない!!』


 深淵(アビス)に眠っていたデクスターを叩き起こした先森綾人の輝きは、人の愚かさを多分に含んだもの。

 現実というどうしようもない壁にぶつかりながらも、自らの欲する理想を掲げて貫こうとする人の強さにデクスターは羨望を抱き、そういう人間に打倒されたいと願った。


『故に!!現実を知り足掻くことをやめ、自らの手に届く妥協点で納得した貴様に己が殺される事はない!!』


 ──ふざけるなよ怪物風情が。

 厄災を吸収したことで禍々しい気配を常に放っている卑弥呼だが、デクスターの言葉を聞いた瞬間に凄まじい殺気が彼女から放たれた。

 

「たかが、十数年生きただけの子供と私の数千年が同じだとでも言いたいのか!!」


 争いなく生きる事が出来る世界……それを望んで卑弥呼は長い時間を生きてきた。

 その果てに人類に強い絶望を抱き、サードアイを持つ者と持たざる者を選定する事で自身と同じ力ある者だけが生きる世界にすると決めたのだ。

 

 ──それをこんな化け物に知った風な口を聞かれ、貶される?──


 自分が生きてきた時間、その中で感じた絶望も何もかもが否定された卑弥呼は完全にキレた。


「貴様は一片たりとも残さずに消してくれる……!」


 腕に纏われていた八岐大蛇が全て元通りになると、卑弥呼の背で大口を開き火、水、雷、岩、風、氷、光、闇の八つのサードアイの属性を帯びたブレスが充填され、卑弥呼自身も左手を開きデクスターに向ける。


「東に昇りて、万物を照らし恵みをもたらす豊穣の光。西に落ちて、民草に安眠を与える安息の光よ。我が名によって命じる極小の輝きとなりて此処に顕現し、御身の御威光をもって遍く闇を照らしたもう!!」


 卑弥呼の手に再現されるのは彼女が天上より奪った太陽の輝き。

 未だ天に昇る黒い太陽とは違う暖かな光が彼女の手に再現されるが、それは彼女の殺意を形にする様にただそこにあるだけでデクスターの周囲を燃やし始める。


『滑稽!!あまりに滑稽だな!!貴様が陽光を作り出すとは!!』


「いくらでも笑うが良い。貴様はこれより死に至るのだからな」


 限界まで溜め込まれた全ての攻撃は今にもデクスターに向けて放たれようとしているが、デクスターは変わらずに嗤った。

 何故か?


「終わりだ!!」


「──迦具土の火よ!!我が手に矢を!!」


 天高くから聞こえてきたその言葉と共に放たれた蒼い火の矢が八岐大蛇の一つ──氷を放とうとしていた──に深々と突き刺さり、大きな爆発を巻き起こす。


 ──漸く戻ったか火の娘──


 デクスターが嗤っていた理由、それはもう一人の可能性を信じていた為だった。

 

「アンタらが争ってる理由は知らないけど、とっとと綾人を返して貰うわよ!!」


「日野森……飛鳥ぁぁ!」


 ここに来てまたしてもあの男に強い感情を抱く者が私の邪魔をするか!!と集中力を乱された事で太陽を消してしまった卑弥呼は内心で叫ぶのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ