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貫くは自らの理想

「我が名は卑弥呼、邪馬台国の初代女王にして、黒き太陽の巫女である。人よ、今こそ、我が膝下でつまらぬ争いを止める時だ」


 人類を滅ぼす厄災を飲み干し、原初の女王は今ここに再誕した。

 かつて背負った遍く全てを照らし、暖める黄金の太陽はここに無く、代わりに掲げられるは全ての生命を否定し、飲み込む黒き太陽であり、従える八岐大蛇は彼女の絶望を具現するかの如き、一切の赦しなく目の前の死した老人を抱き抱える綾人へと、赤き視線を向ける。


「……これがテメェの書いたシナリオって訳か」


「厄災によって新たなサードアイが、生まれ落ち倒されるのであれば私が出張る意味はなかった。しかし、既存のサードアイ……それも、最も愚かな争いを起こした時代の者が倒しては意味がない。英雄或いは、英霊として称賛されるだけで未来は、何も変わらん」


 強大すぎる力を宿す卑弥呼は、地に足を着けておらず地面を滑るように綾人へと迫る。


「最後の選択だ。闇のサードアイを宿す選ばれた人間よ。私と共に来い、お前は私が作る世界に存在する価値がある」


「なんで俺なんだ……もっと、真面目に生きてる奴は大勢いる筈だ」


 サードアイに目覚めてからの彼は、見ず知らずの人の為に戦ってきた善人と言えるかもしれないが、それ以前の彼はやさぐれ、腐っておりあらゆる場所で喧嘩をし、他者を傷つけてきた……到底、善人とは呼べない人種だった。

 だが、そんな綾人の言葉を卑弥呼は、眉一つ動かす事なくさも当然のように言葉を続ける。


「真面目かどうかなど関係ない。私にとって重要なのは、この世界を自らの意志だけで改変し脅威に抗いながら、必死に生きようとする者なのだ。先森綾人、アビス・ウォーカーは人が目の前の現実から目を逸らし、逃げる事で蓄積される負の感情から産まれた怪物だ」


「……」


「少しでも多くの人間をサードアイとして、覚醒させる事でアビス・ウォーカーの発生源を断ち、他者ではなく己と向き合うようになった人類だけで構成される争いのない理想郷!!それが私の作る世界だ……他者を憎み続ける行為が如何に無駄か、アビス・ウォーカーの似て非なる力を持つ君になら分かる筈だ!!」


 闇のサードアイだけが、アビス・ウォーカーを飲み込み、自らの力と変える事が出来た理由……それは根源を同じとするからだと卑弥呼は語った。

 人造的に音夢を闇のサードアイに覚醒させる事が出来たのも、アビス・ウォーカーの因子を組み込む事で無理やり下地を作ったからである。


「……あぁ、分かるよ。どうして俺だけがと他人を憎んだ事だってある」


「ならば、選択は一つだ。分かるな?」


 確かに闇のサードアイの適正には、他者を憎む事が必要なのだろう。

 だがしかし──それだけであれば、アビス・ウォーカーと何一つ変わらない、闇のサードアイである必要性がない。

 差し出した手が握り返されると、確信している卑弥呼はこの一点を見逃して、いや、正しく言うのであれば()()()()()()()()()()()()()()()


「ADで色んな人に会ってなければ、音夢に先に出会っていれば、そして何より飛鳥の奴に出会っていなければ、俺はアンタの手を握っていたかもしれない」


「……なに?」


 パァンという音を立てて、卑弥呼の差し出した手を跳ね除けられ、綾人は伊藤の死体を抱き抱え、後方へと飛び退く。

 その身はいつの間にか闇のサードアイによる鎧が身に纏われており、音夢と約束したヒーローの仮面を被るだけとなっていた。


「俺はこの世界が好きだ。死んで欲しくない人達がいるこの世界が!!……それと、何よりな一部を犠牲にして良い事しようとしているアンタが気に食わねぇ!!救世主を騙るなら、目の前にいる人間全部救ってみせろや!!」


 世界を憎んでなお、今を懸命に生きる者達を嫌いになれない先森綾人の人間性を、そんな彼らを守る為なら自己犠牲すら厭わない覚悟を、卑弥呼は自分と同じように諦めると見誤っていたのだ。


「伊藤の爺さんが、繋いでくれた今を守る為に……卑弥呼、テメェは俺がぶっ倒す!!」


『平和な今がずっと続けば良いのに』


「ッッ……良かろう。では、此処で死に果てるが良い!!」


 在りし日の己が重なる光景を見て、卑弥呼は何を感じたのだろうか。









「八岐大蛇よ!!」


「穿て闇の柱!!」


 闇の柱を生み出し、八岐大蛇の頭部一つ一つにブッ刺して、拘束している間に駆け抜け……チッ、やっぱりそう簡単にはいかないか。

 瞬く間に柱は飲み込まれ、一秒の時間を稼いだのが良いところかというレベルで再び、八岐大蛇が俺に迫ってくる。


「その程度の闇で、私の闇を越えられるとでも?」


「ウルセェ、この厨二ババァ!!」


 個体差があるのか俺に迫ってくる八岐大蛇は、少しだけズレて迫ってきている……なら、とりあえず目の前のコイツをぶん殴って、出来た隙間に身体を捩じ込んで迫ってきたもう一匹を踏み台にして跳躍!!


「翼のない人間が上に逃げてどうする?」


 上に逃げれば、自由の効かない俺を食べようと大口を開けながら迫ってくるよな?


「闇よ、足場となれ!」


『ガァァァ!?』


 ヨシッ、間抜けが一匹出来上がりってな!とはいえ、さっきみたいにすぐに吸収される可能性が高い以上、すぐにコイツは元通りになるだろう。

 それでも、今この瞬間は駆け抜けるだけの隙間が生まれる。


「闇よ、我を導け」


「小癪な!!」


 狙い通り、俺を追いかけてくる卑弥呼と八岐大蛇……良かった、これで戦闘のせいで伊藤さんの遺体が失われる事はない筈だ。


「ッッ……とは言え、何処に逃げるか……!」


 足場を次々と作り、どうにか捕捉されないように逃げているがこのままだとジリ貧になる……可能な限り都市から離したいが、そこまで露骨な動きは絶対に狙いがバレる。


「アビス・ウォーカーの脅威も、サードアイの特異性も既に世へと放たれた!!此処で私を倒したところで、待っているのは守った者達からの迫害しかないぞ!!」


 ッッ、しまった!?新しく出した足場が飲み込まれた!!クソッ、地面を転がるしかねぇ……とことん運がないな俺は。

 瓦礫の山に突っ込むために身を丸めて、どうにか鎧の防御力で転がり出る。

 

「ゲホッ……身体中がイテェ」


 そういや俺、全身筋肉痛みたいな状態だったな……なんか、この戦いになってから気合いで凌いでばっかりだ、とんだ熱血キャラになっちまったもんだな俺も。


「……とりあえず、離すことは出来たから此処で戦うか。闇よ、我が糧となれ」


 周囲の闇を吸収して、気力だけ賄って再び立ち上がり、目の前の卑弥呼を睨みつける。


「どうあっても考えは変えぬか」


「はっ、当たり前だ。この灰都に住んでた人を、音夢を犠牲にしたお前の考えなんか認めねぇよ」


「……そうか。では、死ね」


 ブワッと八岐大蛇が広がり、俺を喰らおうと迫ってくる。


「死んでたまるかよ!!オラァ!!」


 逃げる理由は無くなった。

 なら、やるべき事はただ一つ、目の前の化け物をぶん殴って、ぶん殴って、ぶん殴るだけだ!!


「オラァァァ!!」


 鼻っ面を思いっきりぶん殴り、怯んでる間に右から迫る奴の顎下をかち上げ、振り返りながら左肘を目玉に叩き込み、真正面から突っ込んできた奴をサマーソルトで蹴り上げながら、背後に回り込んだ二匹の頭部を鷲掴みにして、落下の勢いそのままに地面に叩きつける。

 

「闇よ、我を押し出せ!!」


 卑弥呼との間を遮る二匹を振り切り、振りかぶった右腕を勢いよく振り下ろす。


「……」


「チッ!」


 そう簡単に殴られてはくれないか。

 位置関係を切り替える様に受け流され、再び背後から八岐大蛇が迫るのを感じる。


「ハァァァ!!」


 卑弥呼が避けると踏んで、回し蹴りを放ち、そのまま背後に迫った奴を蹴り飛ばす。


「闇よ壁となれ!」


 追撃を防ぐために作った壁を足場にし、背を向けている卑弥呼の掌から出る謎の黒い衝撃波を飛び越えるように避け、背後を取ると同時に手刀を放つが、いつの間にか回り込んできた八岐大蛇の一匹を突き刺すに終わってしまう。


「このっっ!」


「……大した戦闘力だ。だが、所詮は一つのサードアイしか使えん」


 ヤバいと思って八岐大蛇から腕を引き抜くが、時すでに遅く背後から黒い鎖が現れ、俺を拘束したかと思うと意識が飛びそうになるほどの電撃が俺を襲う。


「がぁぁあ!?」


「お前や音夢が闇のサードアイをどの様に使ってきたか、私はよく知っている。形がない故に、何処にでもある闇……人の悪意と同じだな」


 不味い……電撃のせいで意識が朦朧と……


「ッッァアアアアア!!」


「……驚いたな。無理やり、抜けてくるか」


 鎖が闇で出来てるってなら、吸収するぐらいは簡単だ……ああくそっ、フラフラしやがる。

 

「だが、それだけだな。暴れよ、八岐大蛇」


「まずっ──!」


 腹部に衝撃が走り、宙を舞うと黒い太陽を隠す様に三匹の蛇が大口を開き、俺に迫る。

 大人しく食われてたまるかと、抵抗し、なんとか二匹の攻撃は凌いだが三匹めに腕を噛まれ、そのまま地面に叩きつけられ、引き摺られる。


「ぐおっっ……このやろう……串刺しになりやがれ!!」


『がァァ!?』


 口の中を無数の刃で、ズタズタにしてやれば流石のコイツも痛みで、口を開ける様だな……っと、もう追撃かよ!?

 卑弥呼の奴は、一歩も動いていないが縦横無尽に動き回る八岐大蛇の追撃は、ダメージが色濃く残る今の身体では、逃げ切る事が出来ず、絡め取られ、おもちゃの様に地面に叩きつられたり、宙へと飛ばされたりやられたい放題になってしまった。


「そこまでだ」


「……ぐっ……」


 卑弥呼が止めた頃には、俺は指先一つすら動かすのが億劫になるほどのダメージを負っていた。

 それでも未だ死んでいないのは、この身に纏う鎧のお陰だ……なんとしてもこの状態だけは維持しなくてはならない。


「無様だな。結局、貴様は何も出来ず死んでいくのだ」


 俺を見下ろす卑弥呼の掌と、八岐大蛇の八つの口が黒く妖しく光出す。

 

「……何勝った気がいやがる……俺は、まだ……戦えるぞ……」


「ふん。もはや、口だけの虚勢ではないか」


 ウルセェ……今に見てろ、すぐに立ち上がってテメェを……動きやがれ、俺の身体……睡眠時間はもう十分に取ってるだろうが!!此処で、何もかも終わりなんて俺は認めねぇぞ!!


「諦めて……たまるかぁぁぁ!!!」


 どれだけ吠えたところで、身体は動かずほんの僅かにこの身を浮かせただけで、放たれようとしている攻撃を防ぐ事など夢物語の次元だと分かっていても、俺は立ちあがろうと足掻く事を辞めなかった──だからこそ、奴が来たのだろう。


『フハハハ!!!そうだ!!その足掻きこそ、己が認めた人間だ!!』


──黒い太陽を横切る流星が一つ、俺と卑弥呼の前に堕ちる。


 暑苦しさすら感じるその声だけで、正体は分かっていたが立ち昇る煙が晴れていき、先ずは人間離れした巨大な背中が目に映る……やっぱり、お前か。


「デクスター!!」


『さぁ、立ち上がれ先森綾人!!己が手を貸してやろう。そして、全てが終わった時に己と殺し合おうではないか!!』


「お前……はぁ、こんな時でも変わんねぇな」


 ゴツい手を取り、持ち上げられる様に立ち上がりデクスターと肩を並べる……まさか、コイツと共闘する機会が来るとはな。


「……イレギュラーのアビス・ウォーカーめ。邪魔立てをするか」


『人が滅びるのであれば、残念だが終わりを見届けるつもりであった。だが!!絶対の滅びを前に、血反吐を吐こうとも、声高く抗う事を辞めない者がいる!!己はそういう存在に殺されたいのだ、此処で貴様の様な奴に殺させる訳にはいかんのだ!!』


「……なぜ、なぜこうも全ての存在が私の邪魔をする!!」


 忌々しそうにデクスターと俺を睨みつける卑弥呼は、これまで以上に黒いオーラと圧を身に纏った。

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