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滅びの象徴

「このっ!!雨まで降ってて、鬱陶しいってのに……こっちを見ろ!!デカブツ!!火の羽根よ、舞い散れ!!」


 絨毯爆撃をイメージしたから、それなりの広範囲を爆撃出来たけど……やっぱり、雨のせいで威力低下してるわね……これくらいの雨で消えるほど柔な火じゃないけど、出力100%の火力にはなってない。

 こういう時は、雷である伊藤さんの力を借りたいけどって!?


「危な!?」


『■■■──ァァァ!!』


 爆発のダメージや生じた煙幕なんて、関係ないって言わんばかりの目玉からのレーザーをスレスレで避けたけど、図体が大きいのもあって、綾人と戦ったクラゲ以上の弾幕を容易く展開してくるせいで、常に警戒してないといけないし何より……倒れて、気絶してる伊藤さんを巻き込む訳にはいかない。


「布都御魂霊剣よ!!」


 くぅぅ……流石に二回目となると疲れるわねって、え?なんか今までこっちの事なんてどうでも良いって感じだった厄災の瞳が、全て私を見てないこれ?もの凄く気色悪いんですけど!?


『■■■■──ァァァア!!』


「なんでよ!?」


 視界を埋め尽くすほど黒い光線が放たれると同時に、厄災本体が私目掛けて噛み付いてくるのを、どうにか布都御魂霊剣で、受け止めたけど……こいつ、力が強すぎて全力で羽根から火を噴かないと、弾き飛ばされる……!

 

 ビキッ……パキッ……パキパキッ!


「なんの音……って、は?」


 私の目の前には血の様な赤を滴らせ、その手に骨で出来た槍を持つ女の姿があった。


「いやいや……確かに折り畳まれてる様に見えたけど、それは反則じゃ!?」


 背中に強い衝撃を受けると共に、地面に向かって落下していく。

 何をされたかなんて考える必要はない……構えた槍を振り下ろされたんだ、私の防御力が勝ったから良いけどそうじゃなきゃ、刺殺されてたわね。

 羽根を動かし、地面への直撃を避け低空飛行を維持し、光線の雨を縫いながら避け、一気に高度を跳ね上げる。


「くぅぅ……!」


 纏う火の火力を上げて、雨が目に入る前に蒸発させていくと狙い通り、白い蒸気が私の姿を厄災から隠したのか、途中から黒い光線が飛んで来なくなる。

 とはいえ、嫌な気配はすぐ後ろにまだ感じられるから厄災に追われている事に変わりはない。


「あれだけ巨体だと、一部分だけ爆破しても効果は薄そう……いつかの亀みたいに装甲が薄い部分とかあれば話は変わるけど……」


 絨毯爆撃がほとんど通用しなかった時点で、装甲の厚さは統一されてると考えた方が良さそうね……そうなると、私も危険だけど試してみるしかなさそうね。


「リスクが大きい手段はあまり取りたくなかったんだけど……どっかの馬鹿が移ったかしら」


 一度だけ急加速し、厄災との距離を取って布都御魂霊剣を霞の構え──刃が上を向く様にし、顔の横で構える──を取り、切先に可能な限りの熱を集める。

 あまりの高温で、触れた雨が即座に蒸発していく中、視界に厄災を捉えると同時にただ真っ直ぐに、最高速度で厄災の頭部へと突撃する。


「やぁぁぁ──!!」


 黒い光線がスレスレを通っていくのに肝を冷やしつつ、ただ真っ直ぐにそれだけを考える。

 迎撃しようと、身体を起こした女が持つ槍と切先が触れると一気に燃え広がり、女は汚い叫びを上げながら燃え滓となり、そして厄災の頭部へと布都御魂霊剣が突き刺さった。


『──ァアアアアア!!!!!』


「爆ぜろぉぉ!!」


 切先に込めた熱量を全て、爆発へと回すと同時に、視界が真っ白に染まり激しい耳鳴りが起きるほどの大爆発が起きた。



「っは!?」


 やばいやばい!?意識トンでた!?

 風を感じるから落下してるのだろうけどって、もうほぼ地面じゃん……これは間に合わ──


「飛鳥!!」


 ──聞きたかった声が聞こえると共に、横から強い衝撃を受けて何回か二人でゴロゴロと地面を転がる事になった……こういう時、普通は格好良く抱き止めてくれるところじゃないの?


「……少し見ないうちに姿変わったわね、綾人」


「……色々とあったからな。動けるか?飛鳥」


 押し倒す様な形で、下敷きになっている彼にお礼を言いながら立ち上がり、手を差し出し立たせ隣に並ぶ。

 ……何処の戦隊ヒーロー?って言いたくなる格好だけど、コスプレ感とかそういうのは無くて凄く似合ってて、ほんの少しだけ本当にほんの少しだけ、見惚れてしまった。


「男子、三日会わざればナントヤラねぇ……」


「うっせ……構えろ、くるぞ」


 嫌な気配は未だ健在だったから、顔を上げた彼に倣い視線を上に向ければ顔の右半分が崩壊しながらも、更にその下から黒い龍の様な顔を覗かせ、私達を忌々しそうに睨み付ける厄災の姿があった。


「……そりゃ、倒せればなーとかは思ってなかったけど、あの禍々しい部位ただの兜とは予想してないわ」


「アビス・ウォーカーのボスってだけはあるな。気配も何もかもが段違いだ」


「ビビってるなら下がる?」


「はっ、下がるかよ。ヒーローは負けられないからな」


 思わず横を見れば、仮面を展開する直前の綾人の顔が見えて、再開した時から薄らと感じていた昏い雰囲気をより強く感じ、揶揄おうとした言葉が喉で詰まる。

 ……大胆不敵なのはいつものアンタだけど、今のそれはいつもと違う気がする。


『───!!!!!』


 何かこのままではいけないと思いつつも、言葉を投げかけるより早く厄災が動き出してしまう。

 あーもう、久しぶりの会話でただでさえ色々と言いたい事があるのに、どうしてこんなに面倒な状況になるのかな!


「火よ我が身に纏え!」


 我ながら現金な事だけど、好きな人を見れたから体力は尽きかけてる気がするのに、気力が無限大に湧いてくるのを感じ、消えていた衣を纏ってみればさっきより勢いのある青い火が巫女服として私を包み込む。


「綾人!」


「!助かる」


 突進してくる厄災を避ける為に、差し出された綾人の手を取り飛び上がる……空を飛ぶ相手にはいつもやってる戦法、私が運び綾人が防御して、攻撃はその時にノリの良い方が担当!


「火よ──」


「闇よ──」


 同時に詠唱を始めた事に驚いて、顔を見れば綾人も私を見てニヤリと笑う……そう、じゃあ合わせなさいよ!


「「──我らが敵を穿て!!」」


 私達が手を掲げた先、厄災の頭上に赤い火の螺旋と、黒い闇の螺旋が合わさった巨大な槍が出現し雨も雲も全て、蒸発させ/飲み込みながら、兜の砕けた厄災を貫くべく落下させる。


『───!!!!!』


 チッ、避けられた!でも、その当たり判定の大きさは誤魔化せなかったわね。

 背中から一気に刺し貫き、槍によって地面へと固定される厄災を見てガッツポーズをとる。


「油断するな、来るぞ!!」


 ギョロっという効果音が似合う勢いで、鱗の目玉が全て私達を見つめ黒い光線を放ち、それを綾人が無詠唱で生み出していた盾で受け止める。


「いつの間に?」


「この格好は伊達じゃねぇって事さ──ッッ、あの野郎何をするつもりだ!?」


 焦りの表情を浮かべる綾人の視線の先で、厄災は頭を持ち上げ口に黒い輝きを溜めると、上空にある大穴へ向けて放つと、内側で爆発のようなものが起きたのか一度だけ、穴が揺れ動いた……何アレ?わざわざ、敵を減らしてくれたって訳じゃないわよね?


「ッッ!?」


「嘘でしょ……」


 大穴から泥の様にこぼれ落ちて来たアビス・ウォーカーは混ざり合うと厄災と全く同じ姿へと変わり、浮かび上がる……気が付けば、厄災の群れとかいう絶望感漂う光景へと目の前の景色は切り替わった。


「ここからが本番ってか」


「ラスボスが自己増殖とか……頭痛くなるわ」

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