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恨みだけでは足りない

昨日の分、更新した気になってました。申し訳ないです

 稲妻が走り、厄災と共に溢れ出てきたアビス・ウォーカー達が全て霧散していくが、最も殺したい厄災はそんなものは微塵も効いていない様子で都市部への移動を緩めず、自らの身体に蛆虫の如く這い回る男の存在など微塵も興味がないという事は、鱗に蠢く瞳が迎撃する素振りを見せない時点で火を見るより明らかであった。


「何故だ……何故、儂を見ない厄災!!」


 普段の伊藤からは考えられない冷静さを失った激昂と共に、厄災に向けて殺気をぶつけるが、厄災は伊藤を敵と見る事はない。


「雷神の一太刀!」


 一度、納刀し悠々と空を飛ぶ厄災を睨みつけながら、刀から溢れ出るほどの雷撃が放たれ、厄災へと飛んでいき黒い鱗へとぶつかるが、バチィィ!と轟音を鳴らすだけで終わり傷の一つも負った様子は見受けられない。

 しかし、厄災の気を一瞬でも引き付ける事には成功したのか、一つの鱗の瞳がギョロリと動き、伊藤を見つけると禍々しい黒い光線を放つ。


「ッッ!」


 全身に雷を纏い、黒い光線を避ける伊藤だが自身の身体から離れた雷が、吸い込まれる様に黒い光線へと消えて行ったのを見て、一撃であろうと直撃を受けてはならぬと悟る。


「……強い重力場か何か……例えるのならブラックホールを光線として打ち出している様なものか。生粋の化け物め、その攻撃をあの目の数だけ行えるというのか」


 空を飛ぶ厄災と跳躍しか出来ぬ伊藤。

 必死の攻撃も、ほとんど通じないどころか無視され、伊藤の胸中に未だなお燃えたぎる憎悪を嘲笑うかの様に、一度の攻撃だけで追撃を放とうともしない厄災。


「くっ!!」


 冷静さが失われている事など、自覚しているがそれでも奥歯を噛み締める伊藤からは、幾千もの雷が迸り彼の心情を表す様に荒々しく光り輝く。

 相手にされていない、自らの攻撃は通じていない、それでもなお、諦める選択肢など彼は持たず復讐を誓った刀へと雷を纏わせる。


 ──厄災よ、儂は貴様だけは必ず殺すと誓ったのだ──






 時は第二次世界大戦末期、日本軍約二万とアメリカ軍約十一万が戦った1995年、三月の事だ。

 敗戦を重ね、国防の為に硫黄島を守り抜きたい日本と、日本本土を安定し爆撃する為の領地を欲したアメリカ軍との激しい戦いが行われ、後に玉砕の島共に呼ばれる戦場に当時の儂は、支給された銃と刀を持って信頼の出来る仲間と共に戦地を駆け巡っていた。

 儂らの部隊は皆、サードアイに覚醒した者達で構成されており『特別選抜部隊』通常、特選隊と呼ばれていた。


「っしゃー!まだまだ俺は戦えるぞ!!」


「突出するな伊藤!!お前の速度でも囲まれれば、死ぬぞ!」


 この時の儂は若く、サードアイの力で闇雲に身体強化をし車の様な速度で走り回る事で、迫り来る米兵達を返り討ちにしていた。

 戦果を上げてはいるが、この戦いは軍人のソレではなく規律を乱す行為として何度も、叱られたがそれでも儂は戦い方を変えなかった……そんな儂を心配する人も居た。


「……全く、お前の戦いぶりは危なくて見ていられんな」


「佐々木隊長!」


「その様子を見るとまた飯抜きにでもされたか?ほれ、バレずに食えよ」


 懲罰を受ける儂の為にお世辞にも、見た目が良いとは言えないおにぎりを持ってきてくれるのが、儂の恩人、佐々ささき 重国しげくにさんだった。

 この人は鉄のサードアイに覚醒しており、儂と違って機動力は無いが鉄の防御力で鉛玉を防ぎ、無手だと侮った相手に刀を作り出し、斬りかかったりと儂より上手く力を使い熟しており、単純じゃが、自分より強いと断言出来るこの人には儂も素直に尊敬していた。


「良いか、伊藤。お前はまだ若い、俺の様なおっさんと違って未来があるんだ。身体を使い潰す様な戦い方は止めるんだ」


「ですが、負ければその未来が!」


「生きていれば選択肢はある。だがな、死ねばそこで終わりだ、伊藤」


 普段は人好きそうな笑顔を浮かべる人だったが、この時は笑顔ではなく一文字にキュッと、絞められた口と睨みに近い真剣な表情であり、儂より長く戦場を見ているからこその圧が言葉に込められており、祖国の為に散るのなら本望と本気で思っていた儂の中の凝り固まった考えに、ヒビが入るのを感じ、もっとこの人を知りたいと若いながらに思った。


 しかし、これだけのサードアイが集まり、人のありとあらゆる憎悪が渦巻く戦場にアビス・ウォーカーが現れない筈がなかった。


 翌日、嵐の様な天候の日にも関わらず、色んな場所で怒号と悲鳴、そして銃声と砲撃が鳴り響くこの世の地獄に、儂と佐々木隊長は泥に塗れながら、走っていた。

 他の仲間は皆、米兵の奇襲に遭い力を使う前に死亡した……どうやら、特異な力を持つ儂らに敵は狙いを絞っていたらしい。


「くっ……ただでさえ、数で負けているというのに」


「だからだろうな。連中が我々を狙ったのは!」


 敵の気配からして既に儂らは囲まれており、儂も佐々木隊長も絶対絶命だと諦めかけたその時、曇天を貫く様に雨を蹴散らし、空に黒い大穴を空けて奴は現れた。

 その時、奴は頭部を覗かせただけだったが、その一部分だけでも十分な大きさを誇る化け物に儂らも米兵も取り乱し、闇雲に頭部へと攻撃を放った……この時、この瞬間だけは自分達の隣にいる奴が憎き敵だとは思っていなかった。


『ガァァァァ!!!!!』


 しかし、鬱陶しそうに奴が吠え、頭部を地面に叩きつけた。

 たったそれだけの行動で、儂らも米兵も吹き飛ばされ、サードアイの力で辛うじて防御を行なった儂ら以外は、肉片すら残さず黒い靄となり消えていった……ただでさえ、地獄だと思っていたのに更に底が広がっておるとは思わんかった。


「さ、佐々木隊長……」


「生きてるが……くっ、足を負傷した」


 儂の視線の先で、きっと自分で作ったのであろう鉄の塊に足を挟んでいる佐々木隊長を見て、慌てて駆け寄るが儂の力では鉄の塊を持ち上げる事は出来ず、ただ体力だけを消費するだけに終わった。


『ガァァァ……』


「くそっ、なんなんだ……なんなんだよお前は!!」


『ガァァァ!!!!!』


「落ち着け!!無駄に刺激を……もう遅いか!鉄塊よ!壁となれ!!」


 地面から伸びる様に生成された鉄塊が儂らを包み、奴からの追撃を防ぐがただの一撃だけでヒビが入る。 


「ダメなのか……」


 心が折れ、全てを諦めようとした瞬間、突如として横から殴られて儂はその場に力なく倒れた。

 視線を弱々しく向ければ、当然、そこには拳を振り抜いた佐々木隊長がおり、昨日見た時と同じ表情をしていた。


「佐々木隊長……」


「……伊藤、今からお前に隊長として命じる──生きろ、何があろうと生きて生き抜いて、最期に未来を託せる若葉の為に散れ。その為にこいつをお前にやる」


 懐から引き抜いた刀を儂に放り投げる佐々木隊長の顔は、どこまでも優しくそして死ぬ覚悟を決めた漢の顔をしていた。

 この人の事をもっと知りたいと思った矢先に、儂はその導を失い、新たな標を受け取ったのだ。


「その刀は、俺が初めて作った刀だ。ちょいと、切れ味は悪いかもしれないがお前の力と組み合わせて上手く使ってくれ……良いか、伊藤。この鉄の壁が割れたら全力で走れ、お前の足ならアレからも逃れる」


「ですが……それでは隊長が!」


「馬鹿野郎!俺の命令を忘れたか?それとも、もっと実利的な話をしてやろうか。此処で俺達二人が死に、何も知らずに来た味方を死なせるのか、お前が逃げて味方を生かすか……ほら、どっちが得かは分かるだろ?」


「ッッ……佐々木隊長……俺はもっと貴方から色々、学びたかった……」


 儂の言葉に佐々木隊長が目を見開いた瞬間、奴の攻撃で壁は粉々に砕け散り、悍ましい顔を覗かせる。

 

「走れぇぇ!!伊藤!!!!!」


「ッッはい!!駆けよ、雷!!」


 受け取った刀を抱えて儂は、全力で走り出した。 

 後ろから響き渡る佐々木隊長の怒号と、作られたであろう鉄が砕け散っていく音を聞きながら……未熟だった儂との決別、そして何よりも佐々木隊長の仇を取る為に、厄災を儂は殺さねばならん。


「ガハッ……そう誓った筈なのにな……」


 ──あの日の様な降り頻る雨の中、伊藤はその手に半ばから折れた刀を手に持ち、地面に倒れ伏していた……全てを乗せた一撃ですら、厄災には届かなかったのだ。

ストックが切れそう……

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