救出作戦開始!
「……なるほど。確かに貴様の話は一考する価値がある話であったな古の女王」
豪華絢爛な城の天守に座す、強面の男は南蛮より取り寄せた様々な道具を手に取りながら、二人だけの空間で武器も持たずに座している女性から語られた話を聞いていた。
長きに渡る話であった為か、用意された飲み物はすっかりと冷え日は向こうへと沈みかけ、夕日が城に差し込み男と女をまるで区別する様な線引きとなっている。
「では、私の計画に賛同してくださりますか。天眼を持つ信長公」
女王と呼ばれた女は信長の返事に漸くの賛同者を得たのだと、嬉しくなり喜色を隠そうともせず問い掛け、返ってくるであろう同意の言葉を今か今かと、数秒もない時間だというのに落ち着きなく待っていた。
「断る」
「──は?」
しかし、その期待は裏切られる事になった。
喜色から一転、疑問に染まり信長に言い寄ろうとした瞬間、それを見越していた信長が今、最も天下人に近い者としての圧を発し、動きを静止させる。
「貴様の言う天眼だったか?儂のこの力を天下万民に授け、能力という面で不平等を無くし平和な世を創る……儂の様な第六天魔王には到底、考えも思いもしない理想だ。だがな、なんだそれは?生まれるであろう世界は今よりもっと、退屈か醜い世界であろうよ」
道端に転がる腐乱死体を見る様に、退かした岩の裏から溢れ出てきた蠢く虫達を見る様に心底気持ち悪いという表情と声色を発しながら続ける。
「人が皆、力を持ってしまえば自らの力の研鑽に努めるであろう。何故なら、誰しも力を持つ故に力という絶対の指標が生まれそれを基準として捉えるからだ。結果、手を取り合うことを理解し合うことを放棄し天眼という力の奴隷、そんな人間なぞ儂が支配する価値すらない。即刻、燃やし尽くしてくれるわ」
戦国乱世を生き抜く男の言葉に女王は、何か言葉を返すが明確な言葉と捉えるより早く沈んでいた意識が浮上した事により、絢爛な天守から一転見慣れた砂と埃、音を立てながら起動し続けている無数の機械達が古き女王いや、壱与の開けられた視界に広がっていた。
「……随分と懐かしい記憶だ」
腰掛けていたソファから緩慢な動きで、立ち上がった壱与は飲みかけの珈琲を一気に喉に通し、思考に靄をかける眠気を消し飛ばすと外に仕掛けられた監視カメラへと視線を向け、そこに映るADの面々と自衛隊の者達を無感情に見る。
「結局、誰一人として私の計画に賛同する者は居なかったな。それどころかこうして、全力で私の邪魔をする為に集まるとは……人類はいい加減、下らぬ争いから抜け出す時だと云うのに何故、誰もそれを理解しない!」
彼女が苛立ちと共に机を叩くのと同時に、自衛隊の砲撃が灰都に降り注いだ。
「うおっ!?なん、なんだ!?」
音夢と会話するか壱与のやつに宗教勧誘レベルの話をされる以外、暇だからと大半寝て過ごしていた所に突然の轟音と共に、地震とはまた違う腹に響く様な衝撃が何度も起こり叩き起こされる。
おいおい、俺力も使えない状態だってのに此処からどうしろと!?崩落でもしたら死ぬぞ!!
「どうにか……駄目だ、やっぱりピクリともしねぇ」
砂埃を落とす天井を眺めながら、何かの拍子で拘束が外れる事を祈るしか無くなった──定まった運命が訪れるまであと少し。
「砲撃停止!!これより、屋外戦及び屋内戦へとに移行する!!敵は未知の力を怪物だ、それらしきものを見つけた時はADの者達へ引き継ぐこと!!」
「サーイエッサー!!」
隊長の指示により砲撃が停止し、その手に89式5.56mm小銃を握り締め、中隊規模の人数が一気に灰都へと雪崩れ込んでいく。
彼らの後方にはEPSを着込み、その上から防弾チョッキ3型を着込んだ日野森飛鳥と、伊藤源三郎が続き、彼らの背後を一個小隊が護る陣形を維持しながら、砲撃によって消し飛んだ建物を一つ一つ虱潰しに調べ上げ、隠し通路が無いかどうか、何かしらの仕掛けがないかを確認し、次々と灰都を進軍して行くと砂地の中から破壊を間逃れた機関銃が突如として姿を現す。
「ッッ!!遮蔽へ逃げろ!!」
それにいち早く気がついた隊長の掛け声とほぼ同時に、機関銃が火を吹き暴力的な弾の雨を降らす。
「ぐあっ!?」
間に合わなかった何人かが被弾してしまうが、幸いな事にその命に別状はなく機関銃の元へとグレネードが投擲され、壱与が仕込んだ思われる迎撃装置は瞬く間に破壊されて行く。
障害が取り除かれ、余裕が生まれたタイミングで負傷兵の手当てと搬送に人員を割きながら、彼らは以前変わらずに灰都を進む。
「……空間の歪みを感知!!ADの皆さん、お願いします!!」
「了解!!火よ、我が身に纏て鎧となれ!!」
空間を裂きながら、十体ほどの蟻型アビス・ウォーカーが姿を現したを確認し人の背丈など優に超える化け物に、驚きつつもスムーズに後退する自衛隊と前線を交代する巫女服姿の飛鳥。
天敵であり極上の獲物でもあるサードアイの輝きを見て、蟻型アビス・ウォーカー達は自衛隊の人らを狙う事なく、飛翔する飛鳥へと噛み付こうと顎を鳴らす。
「火の槍よ。我が敵を穿ち燃やし尽くせ!」
詠唱と共に無数の火の槍がアビス・ウォーカー達を取り囲むと、届かぬ飛鳥に未だに噛み付こうと顎を鳴らしているところに黒髭危機一髪の様に、一斉に突き刺さり悲鳴の一つ上げる暇なく、一気に燃やし尽くした。
「……すげぇ、アレがサードアイって力か」
「こうして目の前で見てなきゃ、到底、信じる気にならなかったな」
無から火を放ち、巨大な化物を一瞬で焚き火に仕立て上げた飛鳥の攻撃を見て、自衛隊の面々は畏怖と憧憬の言葉を漏らすと同時に、もしも目の前の彼女や後ろにいる老人を裏切った場合、自分達はすぐに死ぬのだろうと冷や汗をかく者たちも僅かばかりいた。
「……増援の気配は……ッッ!」
そんな感情を抱かれているとは露知らず、周囲を警戒している飛鳥の視線の先、空に浮かぶ黒い巨体を見つけ息を呑む。
黒塗りの身体から伸びた翅を羽ばたかせる『彼女』の眼下には地面の色を勘違いするほどの黒に染める蟻型アビス・ウォーカーの姿があり、その中には空を飛ぶ巨大に匹敵する身体の持ち主もおり、今まで妨害者でしか無かった『彼女』が敵対者として明確に、姿を現したのだと飛鳥は理解した。
『A1より地上部隊に伝達。無数のアビス・ウォーカーがそちらに迫っている。直ちに撤退』
「ADの日野森です。こちらでも、敵を確認しました。私がこの場に残り応戦しますので、引き続き彼の捜索を願います」
障害物のほとんどが崩れて無くなった灰都において、地面を覆うほどの数というのはその見た目通りの危険性を有しており、撤退を進言するのは間違っていないのだが、飛鳥はそれではきっともっと大きな危機に間に合わないという直感から即座に代案を進言する。
一瞬の沈黙の後、司令部より出された回答は『日野森飛鳥の意見を認める』というものだった。
「……ありがとうございます!火よ天を貫く柱となり、我が敵を捕える牢獄となれ!」
大軍のアビス・ウォーカーを見据えながら、地におり地面に手をつけながら詠唱すると、出現の邪魔になるアビス・ウォーカーを燃やしながら火柱がいくつも上がり、グルリと円を描くと大軍の半数以上を捕える事に成功する。
「今です!」
その隙に自衛隊の者達は、次の目的地へと迅速に駆けていき、それに伊藤を続いた。
「前回は邪魔が入ったけど、今日は決着をつけましょうか。女王様?」
『ヒトなどと意見が一致するのは気に食わないのですが……良いでしょう、ワタクシもそのつもりです』
飛鳥の目の前に巨体のアビス・ウォーカー……女王が着地し飛鳥と睨み合う。
互いに自らの目的のため、そして大切なものを失わない為に。