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意味のある死を望む

『ハハハハハ!』


 黒い靄を自らの身体から放出しながら、デクスターは高笑いと共に揃って戦う意志を魅せる輝かしい人間達へと、目にも止まらぬ速度で駆け寄り、人の頭など容易く握りつぶせそうな大きな手を振り下ろすがそこへ、綾人が前に飛び出し手を組み合い有ろうことか、競り合いを選ぶ。


「ぐっ……見た目通りの馬鹿力め!」


『このまま捻り潰すのは少々、退屈な展開だぞ人間!』


「させるわけないでしょ」


 言葉と共に組み合った綾人の肩に手を置き、身体を支える音夢の蹴りがデクスターの下顎を思いっきり蹴り上げ、力が緩んだ瞬間、綾人の跳び膝蹴りが鳩尾に食い込み、組み合いが解除されると三歩ほど後方へと下がるデクスターであったが、最後の三歩目が地面に触れるとアスファルトの床を砕きながら、振り上げられた強烈な蹴りが散弾銃の様に破片を飛ばしながら、彼らへと振り下ろされる。


「闇よ、盾となれ!」


 破片が飛来するより早く、綾人の詠唱により盾が生成され全ての破片は彼らに到達する事はなかった。


『脆い脆い!』


「ぐおっ!?」


 盾に使われた闇を吸収し、蹴り砕きながら迫る一撃を受け止める事が出来ず、腕をクロスしたまま綾人が後方へと、勢いよく吹き飛ばされる。

 飛ばされた方向を一瞬だけ、音夢は見るが彼を信頼し追撃をさせないようにデクスターへと蹴りかかる。


『信頼!良い輝きだが、召喚者が体術とは己も舐められたものよなぁ!』


「……どうせ吸収するくせによく言うよ!」


『ハハハハハ!』


 容易く受け止められた右足を即座に下ろし、デクスターが振り下ろした拳をギリギリのところで避けるた音夢は、そのまま足の先端に生み出した刃で、地面と火花を散らしながらデクスターの胸部目掛けて突き刺す様に蹴りを放つ。

 ──だが、刃はデクスターを貫く事なく、真横から刀身を左手で掴み取られ、吸収され勢いの無くなった弱い蹴りが虚しく胸を叩き、そのまま音夢の細い足をデクスターは掴み取り力のまま彼女を逆さ吊りに持ち上げる。


「その手を離しやがれぇ!」


『ォオオ!』


 地面に叩きつけられる前に全力疾走で、戻ってきた綾人のまるでヒーローの様な跳躍蹴りがデクスターの顔面を捉え、音夢を拘束から解放すると浮かび上がった彼女を器用に空中で、お姫様抱っこし捕まえそのまま着地をしてみせる綾人。


「無事か?っと、そのまま掴まっててくれ!」


『どこまでお姫様を守れるかな先森 綾人!』


 彼女を下ろすより早く、デクスターが楽しげな声と共に彼らに詰め寄り威力ではなく、回数を意識した短いジャブを何度も放ち、それら全てを綾人は後方へスキップの様に小さなジャンプをしながら少しでも距離を取り避けていくが、人一人を担いでいる為に限界は近そうだ。


「もう少しだけ耐えてて」


 いつの間にかバイオリンを手に持った音夢が、『魔王』を奏でるとデクスターを足止めする為に太い足へと絡みつく様に、人形が現れ動きを一瞬止める。

 その隙に綾人は急いで、音夢を下ろし人形を吸収し駆け寄ってくるデクスターの拳と真正面から拳をぶつけ合わせ、一撃一撃ごとに、轟音が鳴り響く。


『単なる力比べでは己を倒せぬぞ?』


「そんなもん分かってるわ!……音夢!」


「鎖よ」


 魔王の演奏を続けたまま、音夢が詠唱を行うと現れた人形達が次々のその姿を鎖に変え、地を這う蛇の様にデクスターへと迫り、その身体に巻きつき拘束し、吸収までの僅かな隙を狙い綾人の拳がデクスターの芯を捉えて殴り飛ばすが、地面に足をつけると火花を上げながら勢いを完全に殺し、まるで何事もなかった様に走り出そうとし再び、鎖が巻きつく。


『ハハハハハ!足りぬ!足りぬぞ!!動きを僅かに封じたところで、まだ足りぬわ──ほぅ?』


 デクスターの視線の先、彼が現れてからずっと見ていた綾人が腰を深く落とし、振り絞る右手に翳す様に左手を広げていた。

 何をと首を傾げた瞬間、綾人の右拳から黒い光が溢れ出しその光を見た瞬間、デクスターの心中は一気に歓喜に支配された──それもその筈、綾人の右拳から発せられる黒い光は他ならぬデクスターが見せた技の兆候にソックリなのだから。


『たった一度見ただけで模倣するか!!』


「ぶっつけ本番だけどな……同じ系統のサードアイに技を見せたお前の自業自得だよ」


 サードアイとは、本人の認識がそのまま力となる……つまり、原理や仕組みを理解していなくても、目に映った光景をそのものとして、捉えてしまえば同系統の力である以上模倣は行えてしまうのだが、それを本番でいきなりやってしまう度胸にデクスターは歓喜していた。


「とは言え、少々アレンジはさせて貰うぞ……食らえ、黒色凶星!」


 デクスターが放った黒色凶星は、いわゆるビーム兵器の様にエネルギーの奔流として敵を穿つ技であったが、それではデクスターの吸収能力によって何一つ意味がないと理解している綾人は、本来、放出するエネルギーを右手に蓄えたまま鎖で拘束されているデクスターへと勢いよく放ち、両者は凄まじい爆音と共に吹き飛ばされる。


「綾人!!」


 数十メートル後方へ、勢いよく吹き飛んでいった綾人の元へと駆け寄る音夢。

 

「……おう、無事だ、生きてるぞ」


 駆け寄った先で、右手を押さえながらも五体満足で生きている綾人を発見して、安堵の息を溢す音夢だったが、すぐに綾人の右手から血が零れ落ちている事に気がつく。


「血が……」


「あぁ……やっぱり、碌に確認してない技を撃つのはダメだな……反動で右手がイカれちまった」


 殴った衝撃を抑える事が出来ず、一部右手の皮膚が、裂けてしまい血が零れ落ちていた。

 模倣したは良いが、本来、放出されるはずのエネルギーの行き先を考えていなかった結果、自爆技となってしまった様だ。


「早く治療をしないと」


 そんな彼を心配し、治療しようとする音夢を綾人は手で止める。


「綾人?」


「まだだ……この程度で死ぬ奴には思えねぇ……なぁ!そうだろう!デクスター!!」


 確信と共に暗闇に向けて叫ぶ綾人に応えるかの様に、黒い靄が禍々しく広がりそこから空間を裂き、巨大な蟷螂の様なアビス・ウォーカーが現れ、視界の先にいる綾人と音夢を威嚇する様に鎌を振り上げた瞬間、不機嫌そうな声をがその背後からかかる。


『己の性質とは言え……邪魔をするな、虫風情が!』


 胸元に大きな風穴を作っているデクスターが、口を開き牙を剥き出しにしながら蟷螂型アビス・ウォーカーへと飛び掛かると、特徴的な鎌を掴み取り一気に毟り取ってしまう。

 両脚の鎌を失い痛みに悲鳴をあげる蟷螂型アビス・ウォーカーであったが、そんなものは知らんと頭を鷲掴みにし、地面に叩き伏せると、暴れる蟷螂型アビス・ウォーカーの細い首に噛みつき、なんとそのまま捕食してしまった。


「……躊躇いもなく食ってるな」


「あそこだけ見れば仲間かと勘違いしそうになる」


 似た様な例として、狼型アビス・ウォーカーの一件があるが、アレは群れとして生きる狼がより強く、群れではなく個として強くなろうとした結果であり、あくまで狼型アビス・ウォーカーの総意の様なものがあった。

 しかし、蟷螂型アビス・ウォーカーは抵抗する姿勢を見せており、一方的に喰われる事を容認しておらずまた、デクスターの態度も拒絶されると分かった上での行動であった為に、一見すれば新たに出てきた敵から守っている風にも見えなくはなかった。


 勿論、そんな夢物語である訳がないのだが。


 一通り、蟷螂型アビス・ウォーカーを食らったデクスターはゆっくりと立ち上がり、胸に空いていた傷が若干の痕こそあれ、塞がっているのを彼らに見せつける。


『ッハァァ……さぁ、貴様らが殺すべき敵は未だ健在だぞ?再び、立ち見事に討ち倒して魅せろォォ!!』


「……たくっ、胸に大穴空けたんだから大人しく、死んでろっての」


 右手を押さえたまま、綾人は立ち上がり再び、デクスターの方へ向けて歩き始める──この男もまた、闘志を失っていなかった。

 失った体力は周囲の闇を吸収する事で戻し、出血による痛みは根性で耐えながら心配する音夢を他所に、綾人は歩みを止める事なくデクスターの目の前まで戻ると、上がらない右腕をそのままに左だけで構える。


『クハハ!その傷でなお、立ち上がる事を己は嬉しく思うぞ先森 綾人。やはり、人間はそうでなくてはつまらん』


「お前の中の人間基準が馬鹿な気がするけど……まぁ、良いか」


 ──未だ戦いは止まる気配を見せていない。

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