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その気持ちを──

「音夢!」


「綾人!」


 喧嘩を始めて楽しいと感じている自分に驚いている。

 思えば、ストレス発散だったり向こうから勝手に因縁つけられたり、そんなどうでも良い一時凌ぎの喧嘩ばかりで、友達の為に……好きだからこそ面と向き合って拳を交えるってのは初めての経験だ。

 それはきっと対面している音夢も同じで、俺と似たような獰猛な笑顔を浮かべている……あぁ、そうだよな……俺は俺が思う音夢の為に!音夢は音夢の思う俺の為に!決して負けられないのだから!!


「そうだろう!!音夢!!」


 音夢の間合いに入る直前、一気に跳躍をして彼女目掛けてて殴りかかるが、一瞬、驚くだけでクッションのような柔らかさを持つ見事な受け流しで、俺の拳は去なされ彼女の間合いを作られ、振り向けばそこには既に音夢の蹴りが飛んできていた。


「そうだよ綾人!私はこの道を突き進むと決めたんだ!」


「互いが敵になろうとも変えられない……変える訳にはいかない……不器用だな俺達!」


 腕をクロスさせ、蹴りを受け止め仰反るが即座に身体を起こし、音夢の追撃より早く距離を詰める。

 

「綾人がすぐに折れてくれればそれで解決する話だよ!」


 一切の遠慮なく顔面ストレートに振るった右拳は、音夢の左腕に受け止められお返しと言わんばかりに、珍しく彼女の右ストレートが俺の顔面を捉え、痛みが走る……ハハっ、痛くねぇな!


「それはこっちのセリフだ!楽しかっただろ?学園生活は!」


 多分、アドレナリンってやつがドバドバ出てるんだろうな、完全に変なテンションなのを自覚しているがそんな理性は、身体を突き動かす衝動の前にはあまりにも無力だ……お前が珍しく、拳を使うなら俺も蹴りを使うぞ。


「あぐっ!」


 ガラ空きのボディを蹴り飛ばし、完全に俺が有利の状態から走って詰め寄る。

 薄い灯りしか無いというのに、音夢の長い髪の向こうから覗く右目が俺を捉えたのが分かり、嬉しくなりながら拳を振り上げる。


「綾人と過ごせる生活が楽しくない訳ないでしょ!私がずっとずっと、望んでた夢みたいな光景なんだから!」


「がっ!?」


 ──ここで頭突きを選ぶかよ!?はっ、ははは!本当に強い奴だよ音夢!!


「だからこそ、私はその夢がもう二度と崩れないように、綾人が手の届かない場所に行かないようにずっと繋ぎ止めるって決めたんだ!!」


 頭突きで怯んだ俺を音夢の鋭い蹴りが、見逃すわけもなく腹部に一発大きいのを貰うと、続け様に飛び上がりながらの思わず、薄明かりに広がる音夢の濡れた黒髪に見惚れてしまう様な回し蹴りが俺の顎を捉えて、脳が揺れるのを自覚しながら守らなければならない装置の近くへと蹴り飛ばされる。


「ぐぉ……クソいてぇ……」


 視界がぐわんぐわんと揺れて、身体に力が入らないのってこんなに気持ち悪いのか……

 

「はぁ……はぁ……結構良いの入ったと思うんだけど、まだ立つんだね」


「ったりめぇだ……俺はまだ負けを認めてないからな」


 守らなきゃいけない装置を支えに立ち上がるのはどうかと思うけど、ちょうどそこに便利な物があるのが悪い。


「今日は俺達、意地の張り合いをするんだろ?ほら、まだ俺は立ってるぞ」


「ふふっ、そうだね。綾人はそうやって立てちゃう人だもんね……だからこそ私は──」


 最後の方に何を言ったかは聞き取れなかったが、音夢はとても綺麗な笑顔をそっと浮かべた。

 今、この瞬間だけは敵意も闘志も何もない、それこそ執着のような俺への異常な好意もない、本当にただの土御門 音夢という少女が、俺という好きな人を見ている……不思議とそんな感じがした。


「──あぁ、うん。不味いなこれ……」


「ん?」


 さっきまでの戦いの昂揚感とはまた違った心臓の高鳴りを必死に抑える……正直、見惚れるとかそういう思考回路全部すっ飛んで頭真っ白になったぞ一瞬。


「なんでもない……本当になんでもないから気に──音夢!!」


 全身の毛が逆立つのを感じ、『上』からくる嫌な気配に直感が働き、音夢の方へ走り跳躍しながら抱きしめ今いる場所から少しでも離れる。

 直後、凄まじい轟音と共に天井が破壊され土埃やらなんやらが巻き上がる。


「ゲホッゴホッ!音夢、無事か!?」


「う、うん……綾人が守ってくれたから」


 勢いよく押し倒す様な形になったから心配していたが、どうやら音夢に怪我はない様だな……さてと、俺の直感が正しいのなら折角の戦いと守らなきゃいけない装置を登場の為だけに、ぶっ壊してくれやがった案畜生がいる筈だが。


『ハハハハハ!!心地よい殺気をぶつけてくるではないか先森 綾人!!』


「……やっぱりお前か、デクスター!!無駄に月明かりを浴びやがって、格好いい登場の仕方してんじゃねぇよ!!」


 つか、アビス・ウォーカーは物理的な壁を壊すまでもなく、透過出来るんだから態々ぶっ壊して、登場してんじゃねぇよ……脳筋なのはそのゴツい身体で分かりきってる事なんだが。


『己を昂らせる良い輝きを感じたものでなぁ……傷を眺めるのも飽きた頃合い、再び貴様と対峙出来るとなればこの迸る衝動に身を任せたくなると云うものよ!!』


「……本当になんなんだよお前は」


 音夢なら兎も角、こんなゴリラみたいな筋肉達磨に好かれても嬉しくもなんともねぇ!

 そんな事を考えているとぎゅっと右腕が柔らかいものに包まれる感覚があり、視線を向ければ立ち上がった音夢が頬をぷくっと膨らませながら、俺の右腕を抱きしめていた。


「音夢さん?」


「綾人は渡さない」


『……ハハッ!案ずるな昏く鈍い輝きを放つ娘よ。己はただ殺されたいだけだ。己が目覚めるに値する輝きを魅せる者に、殺されるのはさぞ気分が良いものだろうなぁぁ』


 だったら大人しく死んでくれ……って言いたくなるが、コイツは死力を尽くした先に死にたいんだろうなぁ……何故か分かってしまうのが辛いわ。


「……というか、俺がお前を目覚めさせた?どういう事だ?お前ら、アビス・ウォーカーは最初から存在してる訳じゃないのか?」


『確かに己らは人の業、罪、愚かさ……そう云ったものが故郷であり、余程の事がない限り不変的な終わっている生命体だ。だが!己はお前という輝きに、突き動かされこうして話し!思考する自我を手に入れた……人は多くの欲望を持つものだが、己にとっては先森 綾人!貴様に殺される事が唯一にして、最大の存在理由!!』


 両腕を引き絞りながら高らかに叫ぶと共に、デクスターの身体から黒い靄が放出され、肌に粘着く様な嫌な気配が更に色濃くなる。

 正直、何を言っているのかさっぱり、分からないけどコイツが我慢の限界だって事は理解した、だって唯一感情を伺える目の様な赤い光が、さっきより爛々と光輝いているし。


「綾人は渡さないと言った。彼を独り占めするのはこの私」


「……あれ?もしかして変なスイッチ入ってる音夢?」


『ハハハハハ!!良いぞ、己らは同類よ。欲する宝が一つしかないというのであれば、互いに殺し合い奪い合うのが道理というものか。構わん、二人相手であろうと己は滾るのみ!』


 ……もうなんでも嬉しいじゃんお前。

 

「あーもう、分かったよ。どうせ、守るべき装置は登場と共に盛大に壊されたんだ、デクスター!憂さ晴らしに付き合って貰うぞ!」


 音夢と肩を並べて拳を構える。

 音夢との戦いでダメージはあるが、それでもお互いに以前、学園でコイツと対峙した時より気力も体力もまだ残ってる……今度はそう簡単に負けないぞデクスター!!

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