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分からない事だらけ

「……そうか。装置まで完璧に壊されていたか」


「その装置ってなんなんっすか?こう、職員と人らとか茂光さんの顔色見てると、相当不味いものらしいのは分かったけど」


 ついでに付け加えるなら、昨日の発電所に桜井さんが残っている事も相まって、多分ヤバいんだろうなって事だけは分かるんだが、飛鳥の件も含めて俺はADの詳しい部分を全然知らないから、この悲壮感漂う空気が分からん。


「君も随分とADに関わっている……今更、この話を知ったところでもう遅いか」


 え、なにそれ……真剣な声なのもあって物凄く、怖いんですが。

 チラッとテレビで見た映画とかならこの後、説明を受けて向こうから説明した癖に、君は知りすぎた……よって此処で死んで貰うとか言われて、銃で撃たれるシーンに繋がりそうな言葉にしか聞こえないぞ。


「はぁ……茂光さん、早く説明してあげた方が良いわよ。この馬鹿、多分凄く変な方向に思考飛んでるから」


 失礼なと言いたいが、こうやって飛鳥が言うってことは俺の考えてる事は間違ってるんだろうな。


「先森君、疑問に思った事はないかね?君達サードアイが居るというのに、このAD本部が連中に襲撃されていない事を」


「あー……」


「……アンタ、言われて初めて考えたわね?」


 だから心を読むなって飛鳥!

 いやまぁだって、俺からしたらADに所属してから全ての事が常識の外側の出来事なんだぞ、そんな事考えてる余裕がなかったというか……正直、アビス・ウォーカーとの戦いに慣れたり音夢や飛鳥の事で手一杯過ぎて、想像もしてなかった。


「しゃーないだろ。俺はほぼ、一般人だったんだから」


「うむ。君のその立場を考え、教えていなかったのはこちら側だ。先ずはADという組織の成り立ちから説明しなければならないか……少し話が長くなるから、配ってあるお茶でも適宜飲みながら聞いてほしい」


 座ってる席の前にあるペットボトルのお茶の蓋を開けて、軽く飲み覚悟を決める。

 真剣な顔付きになった俺を見て、頷いた後茂光さんは話し出した。


「元々、アビス・ウォーカーの脅威に対処していたのは君も知っての通り、日野森の者達でありその暦で言えば、我々など未だ新米だろう。何せ、そもそもの始まりはたった一つの研究室から始まったのだから」


「研究室?」


「そうだ。人の次なる進化の為に……そういう旗を掲げた一人の天才が居た。君達も知っている通り、サードアイは明らかに現行の科学の常識を覆す、超常の力だ。だが、その天才が言うにはサードアイは本来、全ての人間にその資質が宿っており、歴史で名を残した英雄達は皆、何かしらのサードアイに覚醒していたという……神話や御伽噺だと思うかね?」 


 自分でその力を宿している以上、否定は難しいが……でも、この力を人類の全員が使えてたらもっとこう、ヤバかったんじゃないのか?


「茂光さん、それが真実だとするなら疑問があるわ。なんで、日野森の家はどんどんサードアイに覚醒する者が減っていったの?全員が使えるのなら、何も必死に力を繋ぎ止める必要は無かったと思うんだけど」


 飛鳥の疑問は尤もだ。

 日野森のお母さん、翔子さんはサードアイに覚醒していないからその責務が娘の飛鳥に回ってしまったって言っていたし、皆んなが宿している力ならあんなにも御老公が飛鳥に執着する理由はなかったはず。


「……人は異端を嫌う生物だ。時代が進み、人はあらゆる超常を科学に落とし込んだ、そうすれば人の認識はどうなる?無から火を出せなくて当たり前、闇を動かせなくて当たり前、その様な思考回路が当たり前になりサードアイに覚醒した者はその数を減らし、数少ない者達も異端として殺されるか、人知れずアビス・ウォーカーに殺されていく。

 世界を自らの定義のみで、見るには人間の心は弱すぎた為に、今では一定上の資質を持っていなければ使えない力となった……そうその天才は定義した」


「なるほど……随分と視野が広いのねその天才は」


 ……既に難しくて俺にはついていけない話だが、取り敢えず黙って頷いておこう、此処で話題を振られてもなんて答えて良いか分かんないし。


「その天才主導のもと研究を進めた我々は、アビス・ウォーカーと異界の存在を明らかにし、その脅威を国に訴え、日野森の予備プランとして生まれたのが我々、ADだ。もっとも、その頃には天才は発明品だけ残しその姿を消していたがね。

 そして、これが本題でもある。その天才が残した発明品の中に、所謂、電磁フィールドを展開しそこに囲まれた場所をアビス・ウォーカーにとって不可侵の領域にする……そういう装置があったんだ」


「なるほど、だから襲われない……ん?ちょっと待ってくれ、さっき装置が壊されたとかどうとか言ってなかったか!?」


 今まで守ってくれていたものが壊された……それってつまり、此処が次の襲撃先に指定されてもおかしくないって事だよな!?俺、間違ってないよな?


「そうだ。そして、その装置を稼働させる事は我々でも出来たが、新しく開発する為の解析は殆ど出来ていない……天才の発明に胡座をしていたツケと言える。だが、安心してくれ、装置は全部で三つあり、全てが壊されない限りアビス・ウォーカーがこの場所に来る事はない」


 俺を落ち着かせる為だろうけど、そんな自信満々な顔で言われてもな……現に一つの装置は壊された訳だし、安心しろってのが無理だろ。


「現場の確認を行ってはいるが、犯行時、アビス・ウォーカー出現の予兆は一切なく、通信も遮断された……これは拝火学園で起きた事例と酷似している、つまりこの事件の背後には土御門 音夢が間違いなく関わっていると我々は予想している」


「音夢が……」


 否定をしたい気持ちはあるが、音夢の力を目の前で見た者として音夢なら可能かもしれないと思う自分が居て、反論が思う様に口から出てこない……くそっ、友達を疑わなきゃいけないのはこんなに辛いのかよ……


「……仮に土御門が犯人だったとして、どうして装置のある場所を的確に襲撃出来たのよ?ADの中でもトップクラスに秘匿されてた情報でしょ。茂光さん、教えて」


「分かっている日野森君。確かに事件の裏には土御門 音夢が絡んでいるのは間違いないだろうが、彼女は実行犯であって黒幕ではない。本当の黒幕は、天才──黒羽くろばね 日輪ひのわ、私の恩師にしてサードアイ及び、アビス・ウォーカーに関しては、この世界の誰よりも熟知している彼女だ。

 先程も言ったが、彼女はADの前身となった研究室の立ち上げ、そして装置の開発を行なった者であり、何処にその装置を設置するのが適しているのか全て知っている人間だ」


 そして、と一言区切り、手元にあるお茶の半分を一気に飲み干す茂光さん。


「──君らが知る名で呼べば、土御門 音夢に『壱与』と呼ばれている人間でもある」


「は?待ってくれ!壱与さんが黒幕?何処をどう見ても、俺らより少し年上かいってても三十は過ぎてねえぐらいの見た目だったぞ!?」


「彼女がどの様な手段を用いているかは不明だがこれが我々の掴んだ情報であり、揺らぐ事のない真実だ。また、彼女の目的はADを潰す……事ではなく、君だ先森君。君を手に入れる為に、彼女は此処を襲撃するだろう。君達、二人を呼んだのは状況の説明もあるが、これから行う防衛作戦の時も必ず二人で動いてくれと命じる為だ」


 もう訳がわかんねぇ……一体全体、なんで俺が狙われるんだよ……なぁ、音夢──君に聞けば教えてくれるか?

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