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いざ、乗り込まん

「くっ……」


「その程度ですか?」


 分かってはいたけど……流石は御老公、私より圧倒的にサードアイの力が強い!

 どうにか視界一杯に広がっている火球を、避け続けているけどここ数日、まともに寝ていないし食事も取ってない……そんな状態で自分より格上を相手しろとか、どんなクソゲーよ。

 頭痛も酷いし……まだ空でも飛べたら楽なのに、祀り場はそこまで縦の大きさがないから走りながら、弾幕ゲームみたいな火球を避けて、御老公に触れる攻撃を直撃させなきゃいけないのに、走る衝撃が頭に響いて辛い……


「…火よ……槍となって我が敵を貫け」


 扇状に飛んできた火球を飛び越え、頭痛を我慢しながらどうにか詠唱をして放った火の槍は、今までより弱々しく御老公の元へと飛んでいき、彼女が展開している火のバリアみたいなのに当たって弾けてしまった。


「……なんと軟弱な。常在戦場、いついかなる状況であろうと、自らの状態が悪かろうが、常に最高であれと命じたはずですよ当代の剣」


 そんなの理想論でしょうがって、文句を言いたかったが口を開いた瞬間にまるで、さっきの見本を示すと言わんばかりに鋭い、火の槍が私を取り囲むように放たれる。

 一瞬だけ飛ぶ事で、避けて天井に足をつけ勢いのままに御老公へと、接近し──視界を埋め尽くす火球が放たれた。


「我らを照らしたまえ」


「キャァァ!」


 私を飲み込み爆ぜた火球によって、宙を舞い叩きつけられる。

 同じ、火のサードアイであるために火傷を負う事はないけど……爆破の衝撃を和らげたり出来る訳じゃないし、痛いものは痛い……本当に嫌になる、この修行と称したただのイジメには。


「……それは逆らえない私も同じか」


 ただあそこで座しているだけの御老公に怯えて、なにも出来ない私、相変わらずなにを考えてるか分からないし、発する言葉は嫌味しかない父親、私がどうなろうと……なんなら最近、下衆な視線を向けてくるウチの男どもや女達……お母さんもいつの間にか、何処かに消えているし……本当に腐ってるわねこの家。


「どうしました。早く立ちなさい、剣よ」


「……は、はい」


 ……なんかもう、どうでも良いか、色々と考えるの面倒くさくなっちゃった。


「ッッ……それです。それですよ、剣!!貴女に、何かを考えるなどという不要な感情は必要ありません。ただ、命じられるがままに目の前の敵を倒す。それで良いのです!」


 うるさいなぁ……


「……火よ、我が敵を黙らせろ」


 『剣』の詠唱に従い、祀り場の光源となっている蝋燭の火が明らかに、異常なレベルで燃え盛り物理現象を遥かに凌駕した、火柱へとその姿を変えると、まるで意志を持つように『剣』の元へと集まり、祀り場ごと命令に従い御老公を燃やし尽くさんと渦を巻きながら迫る。


「猛き火よ、鎮まりたまえ」


 御老公の詠唱が行われると、彼女を守っていたバリアが強化されたのか荒ぶっていた火は、彼女の近くに迫れば迫るほど、彼女を避けるように立体的な円の様に広がっていく──大人しく、燃えなさいよ。

 耐火性のある素材で作られた祀り場ではあるが、徐々に上がっていく火の温度に限界が来たのか、至る所に煤が出来始め、このままだと火事になる可能性が出てきている。


「御老公、失礼──熱!?これは……」


 ──お父様?此処は危険で……あれ?なんで、私、お父様の事なんて気にしてるんだろ?


「どうかしましたか?今、良いところなのですが」


「ッッ……屋敷に侵入者です。姿をくらましていた私の妻、翔子と共にとある子供が一人、暴れています」


「……先森?」


 私の纏っていた火が一気に消え、僅かに浮いていた足が地面に着くとそのまま力なく座り込む……どうして、アンタが此処に……それもお母さんと一緒になんて……








「本当にこの道で合ってるんですか!?」


「はい!舗装されていない道を通らなければ家には、着きません!」


 ガタガタと揺れながら、獅子堂が運転する車は日野森翔子の案内の元、長野県に入り何処からどう見ても獣道の様な荒れた道を走っていた。

 獣道レベルとはいえ、何度か車の通りがあるのか道幅自体は確保されており、よく見れば周囲の木々も邪魔にならない様に切られた跡があるのが分かる。


「これは確かに知る人が居なければ辿り着けないな…!」


 それでも道は整備されていない為に通り辛く、曲がり道も多い為、周囲の木々によって視界は決して良いとは言えず、日野森翔子の案内がなければ、道を踏み外し崖に落ちてもおかしくない状態であった。

 そんな状態で三十分ほど走らせていると、獣道を超えて整備された道に出ると共に獅子堂は一度、ブレーキをかけ、後部座席を見る。


「……酔うって……」


「……気持ちは分からなくはない。だが、着いたぞ」


 まだ距離は離れているが、道を抜けた先には遠目であっても分かる立派な日本家屋が、建っておりそこが目的地だと獅子堂は理解したが、険しい顔でこちらに近づいてくる和服の男二名を睨みつけていた。

 彼らを目敏く見つけた日野森翔子が、顔を隠す様に縮こまったのを見て彼らが先森達にとって、良い相手ではないのは察したが、まだ目的地までは五百メートルほどあり此処で彼らを下ろす訳にはいかなかった。


「……日野森さん、そのまま顔を隠していてください。先森、お前は後部座席で隠れていろ、どうしようもなくなれば、車を急発進させるから何かに捕まっておけ」


「うす」


 日野森翔子は体調不良の様に、身体を丸くし顔を隠し先森は、後部座席と前席の間にその身を無理やり隠すと同時に、目の前から歩いてきた男達が運転席のドアをノックした。


「……すみません、この先、私有地ですのでどうかお戻りを」


「あぁ!それはありがたい!!すまないが、どうにも妻が体調を崩してしまって、もしこの先に家があるのなら電話だけでも貸していただきたい!」


 獅子堂の誤魔化しに対して、男二人は顔を見合わせてなにやら小言で、二、三やり取りをするがその顔は、警戒の色をはっきりと浮かべていた。


「申し訳ないが、此処にくるまでの道は明らかに整備されていなかった筈だ。そんな道を疑問を覚えずに、通ってきた者を通すわけにはいかない」


「そんな!!……確かに此処までの道は不安定なものでしたが、妻を思い遣るあまり気が動転してまして……お願いします、電話だけで良いのです!スマホを二人して、忘れてしまったので助けを呼ぶのも不可能なのです!!」


「……それは……いやだめだ。こちらとしても心苦しいが、今は大事な時期で、不審者をあの家に近づかせる訳にはいかないのだ」


「……ん?おい、そこの女、少しで良い顔を──」


「──捕まれぇ!」


 もう一人の男が、身体を丸めている日野森翔子に違和感を覚えたのか、問いかけると同時に穏便にいく作戦の失敗を悟った獅子堂が、よく響く力強い声で叫ぶと同時に、怯んだ男達の隙を突き車を急発進させ、日野森の本家へと車を走らせる。


「なんだか、映画の登場人物になった気分だな!」


「テンション上がるのは良いけど、これ、大丈夫なのか!?」


「安心しろ、最大限の安全運転だ!」


「人を紙一重で避けるのは、安全運転とは言わねぇ!」


 即座に男達から連絡が行ったのか、見張りをしていた者達が次々と、その手に時代錯誤な刀や、槍を持って車へと迫ってくるが、その全てをギリギリで避けるという見事なドライブテクを見せる獅子堂と、それに突っ込む先森。


「で、でもこれ、どうやって家に!?このスピードのままじゃ、事故になりますよ!?」


「一瞬だけ、どうにか止まってみせる。あとは、先森、任せるぞ」


「なんつう無茶振り……けど、やってやるよ獅子堂!とりあえず、翔子さんは俺の横に来てください」


 荒ぶる運転の中、日野森翔子は後部座席へ転がる様に移動すると、彼女の手を取った先森がドアに手をかけ、頷く。

 それを確認した獅子堂が、態とスピードを緩めると好奇と見た男達が迫ってくる。

 タイミングを見定めて、ギリギリのところで車をぐるぐると回転させると、それに驚いた男達が慌てて一度距離をとった事で、包囲網の隙間が生まれそこを急発進で、一気に人を追い抜き本家の目の前で、急ブレーキをかける。


「先森!」


「了解!!翔子さん、俺にしっかり捕まっててくださいね!」


「え、う、うん!」


 扉を開けて飛び出した先森は、日野森翔子をお姫様抱っこの形で持ち上げる。


「闇よ、我が足場となれ!!」


 そして、サードアイの力を使い足場を生み出すと、それを駆け上がり門ではなく塀を越えて日野森の本家へと侵入した。


「俺の役目は可能な限り暴れて、人の目を集めることか」


 突っ込んでいく生徒の背中を見つめながら、獅子堂は再び車のエンジンを高らかにかけ、車を急反転、向かってくる男達目掛けて突っ込んでいった。

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