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母の愛と友の愛

「いきなりでごめんね?飛鳥から聞いてると思うけど、日野森という家系は昔から異能……確か、サードアイって呼ぶんだっけ。それに目覚めやすい一族として、化け物から人々を敷いては、国々を守る事が決定された個人の自由が無い一族なの。それでも、時代が進むに連れ異能に目覚める者は減っていき、私も特別な力なんてないただの人として生まれた」


 水族館に行ったあの日に、その話は日野森から聞いている俺は、苦しそうに皺を寄せている彼女が何を言いたいか分かった。


「……日野森が、娘が逃げられない運命を背負ってしまった」


「えぇ。飛鳥は、言葉を話せるぐらいの年齢からもう異能を使っていたの。ほとんど、無意識に意味も分からずだったと思うけど……だからこそ、百年ぶりに異能に目覚めたあの子を一族はまるで、神様の様に持ち上げて小学校に上がる頃には、大婆様から力の使い方を学ぶことになって、気が付けば『護国救民の使命を果たします』なんて、子供らしさが何処かにいってしまったわ」


 そんなに前から……アイツは、一族の運命を背負って生きてきていたのか……自由が無いとは言っていたが、本当に何もなく独りぼっちで戦っていた。

 そりゃ、人付き合いが下手な訳だよ、まともに接した同年代なんて俺くらいだろうし。

 クラスの人気者、優等生……サードアイに目覚める前に知っていたアイツの印象は、真面目一辺倒で退屈そうな生き方だななんて、思っていたがその生き方しか知らないんだな。


「そんなんだから、母親である私にも辛いとか、逃げたいとか泣き言を一切言わないの。だからもし、君が戦うの怖くて辛いのなら、私達には出来ない……あの子の手を取って一緒に逃げて欲しいの。あの子を心の底から、笑顔に出来る君ならあの子を運命っていう呪縛から助けてあげられるかもしれない……情けない話だけど、親である私じゃそれは出来ないの……」


 段々と泣きそうな声になりながら、日野森のお母さんは俺の手を握って、力強く握って頼み込んでくる。

 生まれたその瞬間から、生き方から何まで縛られるという呪い……それは中途半端にしか想像できないが、あの時水族館で日野森に向けて、同情した感情より重たくて、辛いもので正直、俺にどうにか出来るものじゃないが、一つだけ話を聞いて疑問に思った事がある。


「……アイツは、今の生き方に誇りを持っているって言ってた。確かに、今の日野森は自分じゃない多くの誰かによって、その生き方を強制されたかもしれない。けど、けど、アイツは──」


『私達は助けられた分だけ、背筋を伸ばして前を向いて歩いて行くの!』


 日野森に力強く言われた言葉が、脳内で蘇り胸の奥で火が灯るのを感じた。

 あの言葉は、誰かに決められた道であったとしてもその道を自分の足で、真っ直ぐに歩くと決めた奴じゃないと言えない熱があった──それを俺は嘘だと言いたくない。


「──背筋を伸ばして、前を向いて歩くって決めている。アイツは、辛い事も苦しい事も全部飲み込んだ上で、会った事もない人の為に力を振るうって、誰の意思でもなく自分の意思で決めているんです……確かに、俺は戦うのが怖いし、こんな怪我だって負いたくないと思ってます」


 俺と同じような事を日野森も、本心では思っているのかもしれない。

 一度、小さく息を吐いて呼吸を整え言いたい事を頭の中で、纏めてから動きづらい右手を動かし握ってきている日野森の母さんの、優しい手の上に乗せる。


「でもそれは俺であって、日野森じゃありません。彼女が一度でも、そうしたいと口にしたのなら友人として、協力すると約束しますけど、口にしていない事を強制するのは……それこそ、運命を捻じ曲げる呪いと何も変わんないと俺は思います。アイツは、色んな意味で強いですから信じてやってください、頼りないとは思うっすけど俺もいるんで……って、すんません!生意気言って……」


 すっげえ、らしくない事を言ってる気がする!?あーもう、こういう真面目なのはキャラじゃないというか俺、不良だぞ、どの口が言ってんだ話だよ……そもそも、日野森に助けられてるのは誰がどう見ても俺の方だし……って、なんだか手だけに雨が!?


「ちょ!?だ、大丈夫っすか?テ、ティッシュ、どうぞ!!」


 いつの間にか日野森の母さんが泣き出していたのに、大慌ての俺は近くにあったティッシュを手に取り、彼女に渡すとごめんないっと言って、涙を拭っていく……友達の親泣かせたとか、日野森にバレたら殺される……


「恥ずかしいところ見せちゃったわね先森君」


 数分後、少しだけ目元を赤くしながらも落ち着いた日野森の母さんに謝られる。

 

「いや、大丈夫っす」


 完全に目が泳ぎまくってる気がするけど、表面上だけは頑張って気にしてないという態度を取り繕う。

 目の前で泣いてしまった人を慰める良い言葉、なんて咄嗟に出せる訳がない。


「親になるって難しいわね……でも、君の言う通りかもね、勝手に辛い事ばかりで、苦しんでいると思っていたけど、これからは娘を信じて待ってみるわ。娘が本当に辛くて、どうしようもないって言ってきたら、その時は親として例え、一族を追われる事になろうと守ってみせる」


 ふんっと張り切るように胸の前で、握り拳を作って笑って見せる日野森の母さんの姿は、とても力強くこういうのを母は強しというのだろうなぁ。


「そうだ、先森君、連絡先交換しときましょう」


「え?別に良いっすけど」


「学校での飛鳥の様子とか、写真とかあったら色々教えたりして欲しいの」


 あぁーなるほどねぇ……本当に娘が大好きなんだなこの人。

 スマホを取り出して、日野森の母さん……ぱっと見で紛らわしいから翔子さんって登録しとくか──と連絡先を交換したタイミングで、都合よく風呂から上がった日野森がリビングにやってきた。


「ふぅー、スッキリしたぁーって、それココア?なに、二人で楽しそうにお茶会してるのよ」


「いやぁ、日野森の色んな話を聞けたよ。愛されてるなーお前!」


 日野森の母さんの目元が赤いのにバレて、追及されたら誤魔化せる気がしないから、揶揄う方向性で、日野森の意識を俺に向けると、顔を赤くして冷静さが消えた彼女はぐんっと俺に詰め寄ってきた。


「なに聞いたの?」


「そりゃまぁ、色々と?」


「その色々を教えなさいよ!って、お母さんもなに話したの!?」


「んー、二人だけの秘密よね先森君。ほら、そんな事より飛鳥の分のココアも淹れたから、座りなさい」


 俺に意識が向いている間に、キッチンへと避難していた日野森の母さんからいい感じの援護が入り、どうにか日野森に親を泣かせた事はバレずに済んだ……その代わり、人妻狙い?とかいう謎のレッテルを貼られかけたが、全力で否定して事なきを得た。


「鞄ペチャンコねぇ」


「何も入れてないからな」


 次の日、日野森の部屋の玄関の前で制服に着替えた俺と日野森が立っていた。

 住んでる建物が同じなのはこういう時に便利で良いな。


「はい、二人ともお弁当。仲良く食べてね」


「ありがとうお母さん」


「世話なってすんません」


 夕飯をご馳走になっただけでなく、学園での昼飯も作ってくれたらしく、本当に頭が上がらない。


「良いのよ。それより、こういう時はお礼を言われた方が嬉しいわ……いってらっしゃい」


「……ありがとう、ございます」


「いってきますお母さん」


 小さく頭を下げてお礼を言ってから、日野森と一緒に学園へと向かう。

 今日の天気は、まだ梅雨に入ったばかりなのもあって少し空気は、じめっとしているが青空が広がる良い天気だ。

 

「少し歩きづらそうね。補助はいる?」


「いや、これくらいなら大丈夫だ。少し、学園に着くのが遅くなるが、良いのか?日野森」


「大丈夫よ。それくらいの時間は見積もって家を出たでしょ」


「それもそうか」


 普段よりかなりゆっくりに日野森と、どうでも良い話をしながら歩いていると案の定、生徒の視線が集まるのを感じるが、もはや慣れてきているため、ある程度は無視し歩いていると、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。


「あ〜や〜と〜!」


「ちょっま!?」


「きゃあ!?」


 怪我をした人間が、人間一人分の突進を受け止められるか──考えるまでもなく、無理であり存在をアピールするが如く、足音と名前を呼びながら来た音夢の方を中途半端に向こうとしていた俺は、その勢いのままバランスを崩し、俺を支えようとしていた日野森ごと、倒れる事となった。

 ……つまり、この後頭部に感じる柔らかい感覚と、目の前が真っ暗だが確かに感じる柔らかい感覚の正体は考えるまでもない訳で。


「いたた……ちょ、アンタ達退いて!!立てないから!!」


「えー……別にお前が立てないとかどーでも良いんだけど」


「いいから退いてって!!苦しいから!」


 ……考えるのをやめて現実から逃げよう──音夢が来ると、こういうイベントによく巻き込まれる気がする。

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