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銃要塞

 人の祖先が見出し、それを手にする事で強力な力を何一つ持っていなかった人という種が、地球という大きな地図を己の色で塗り上げる始まりとなった『火』と、人が生み出しその知性で他の生物には無い、遠距離という安全圏から暴力な火力で命を奪い、時として同胞の命すら奪う『銃』が、夜空を明るく照らしながら、激しくぶつかり合っていた。


「火よ、槍となり我が敵に降り注げ!」


 燃え盛る火の鎧を身に纏いながら、縦横無尽に夜空を駆ける日野森の詠唱に答え、真っ赤に燃える火の槍が生成され、音もなく眼下にいる亀型アビス・ウォーカーへと降り注いでいく。


「チッ!器用に開閉してんじゃないわよ!」


 開いていた亀の甲羅が閉じ、火の槍は爆発こそするが亀型アビス・ウォーカーには何一つとして傷が出来ておらず、殆ど煙幕も晴れてないうちに、再び開き無数の銃器が顔を覗かせ空気を裂く爆音と共に鉛の弾を空飛ぶ日野森向けて吐き出す。

 

『オォォォォン!!』


 煙幕と空気を裂き、日野森へと迫る銃弾だが、現代の戦闘機より小さく、空は自分のものだと言わんばかりに上下左右関係なしに、飛び回る日野森に直撃させるのは難しく、また高温過ぎる火の鎧を纏う彼女に奇跡的に弾が当たったとしても、その身を貫くより早く融解し使い物にならなくなっていた。


「……拉致が明かないわね」


 日野森の遠距離攻撃では、亀型アビス・ウォーカーの装甲を貫き、燃やすには足りず亀型アビス・ウォーカーの火器では、日野森を殺すには足りず……お互いに決定打に欠ける戦いとなっていた。

 しかし、このまま変化がない状態を続けていれば先にガス欠に陥るのは、日野森であり亀型アビス・ウォーカーは、自身の弱点をひたすら隠し続け、時間が過ぎるのを待てば相手が自滅するという状態だ。


「開いたところを狙っても、距離があれば閉じてしまい、近過ぎれば私の鎧を貫通して銃弾が抜けてくる可能性も上がる……ショットガンやアサルトライフルも見えるし、不用意な接近は死を招く。だからと言って……火よ、刺し貫け」


 唯一、甲羅に覆われていない頭部目掛けて、日野森は火を放つが、そもそもの皮膚が硬いのか耐熱性を有しているのかは分からないが、煙幕が晴れれば何一つ変わらない顔がそこにはあった。


「これなのよね……」


 先ほどまで自分が居た場所を無数の弾丸が通過していくのを、チラリ遠いながら日野森は携帯火器では、殆ど効果の薄い高度まで上昇し、その場で滞空する。


「さてと……どうしたものか」


 足がアスファルトすら砕き、その下にある地面へと刺さり動くことのない亀型アビス・ウォーカーは、現状、放置していても問題ない様に思えるが、今は日野森という敵に対して警戒しているからこそ、大人しいのであって彼女が離れても、動き出さないとは誰が言えようか。

 

「はぁ……後で怒られるし始末書とかも書かされるだろうけど……やるしかないか」


 心底面倒臭そうにしたがりも、これから先の未来に対して覚悟を決めた日野森は頭を下に向け、再び亀型アビス・ウォーカーに向けて降りていく。

 

『オォォン!』


 彼女の接近に気がついた亀型アビス・ウォーカーの甲羅が一斉に開き、火器が飛び出し真っ直ぐに向かってくる敵に向けて、一斉放火する。

 轟音と、火薬の匂いが充満していくがそれでも、日野森は速度を落とす事なく亀型アビス・ウォーカーへと、弾丸を避けながら迫り、人が入り込むのは不可能だが亀型アビス・ウォーカーの弾幕のその下、地面との僅かな隙間に降り立つと、今度は地面を滑る様な高さを維持し、銃弾を避けていく。


「アンタ、結構、クソエイムね!」


『オォォン!!』


 亀型アビス・ウォーカーに日野森の狙いは、分からないし言葉を理解する知能も持ち合わせていないが、その言葉は許せないと思ったのか、弾幕の密度が上がっていく。

 どうやら、弾切れを起こした銃を再装填するのではなく、内側に仕舞い既に装填がされている銃に持ち替えるという何処かの戦国武将が、考案した様な手段で撃ち続けている様だ。


「…もうちょい……もうちょいで、良いから当たらないでよ!」


 亀型アビス・ウォーカーの周りをぐるぐると飛ぶ日野森を追いかける様に、無数の弾丸がアスファルトへと穴を空けていく。

 それを見ながら器用に避け続ける日野森であったが、至近距離で弾を避け続けるという幸運が長続きする訳もなく、一発の銃弾が鎧の守りを超えて、彼女の背中に着弾する。


「ッッ!」


 大きくバランスを崩し、地面へと激突しかける日野森であったが、一度地面に手をつきブーストの様に掌から火を噴き出す事で、上昇し追撃を避けると共に体勢を立て直す時間を作った。


 ──大丈夫、スーツのお陰か貫通には至ってない!物凄く痛いけど!!


 出血の有無だけ確認し、日野森は再び、銃弾飛び交う要塞へと突撃していく。


「火よ、火よ、我が手に収束せよ──」


 先程とは違い、攻勢に出る様で詠唱をし右手に火の塊を作りながら亀型アビス・ウォーカーへと向かう。

 何かしらの狙いがある──直感でその様に、看破したのか自ら迫ってくるのならと、手に持つ銃のほとんどをショットガンへと切り替えて、放つ亀型アビス・ウォーカー。

 握られるショットガンは、アメリカで開発されたウェンチェスターM1912であり、大戦の間アメリカ軍の制式散弾銃として使われており、二百万丁近く生産された名銃の一つだ。

 ポンプアクションではあるが、その散弾銃を握る腕の練度は高い様で、セミオート以上の効率で迫る日野森への放たれている。


「──火よ、火よ、我が手に収束せよ」


 だが、亀型アビス・ウォーカーが何かしらの対策を打つと読んでいた日野森は、先程と同じ詠唱をし、反対の左手に火の塊を作ると自身の前に翳し、ウェンチェスターから放たれる暴力を全てを溶かしていき、今度は亀型アビス・ウォーカーの後ろ足の近くに着地した。


「左手の火よ、広がれ!」


 立ち止まった獲物を殺そうと足元に向けて、ウェンチェスターが放たれるが、それより早く詠唱によってまるで、傘の様に広がった火が、先程同様に弾の暴力その一切を溶かしていき、その間に日野森は亀型アビス・ウォーカーの右後ろ足と、地面の接着地点に右手を翳す。


「右手の火よ、荒ぶる業火となり地を走れ!」


『オォォォォン!!』


 亀型アビス・ウォーカーの分厚い皮膚も、荒れ狂うその火は熱いのか悲鳴をあげるが、それでも日野森のその火は亀型アビス・ウォーカーを火で包むことはなく、ただ苦悶の声を発しただけで終わったかに見えた。


「……来た」


 亀型アビス・ウォーカー、そして日野森が立つ地面が、揺れ始めた。

 ──東京は、言うまでもないが近代都市である。

 大勢の人間が、高度な文明を享受出来る理由は、道という道がアスファルトで舗装され、街路がしっかりと整えられ、人が住める家々が一切不自由なく完備されているからである。


 では、その文明あるいは設備、暮らしを維持するものとして舗装された地面の中に埋められたものと言えば──水道管だ。

 人は、生きる上で多くの水を必要とし多くの水を汚す。

 それら全てを、満遍なく多くの家に届けているという事は、日々歩く地面の下をまるで人間の血管の様に水道管が走っているという事だ──そこへ、超高温の火が触れればどうなるか?

 

『オォォン!?!?!?』


 一気に膨張した水が、水道管を破損させ凄まじい勢いで、水が噴き出す事になる。

 だが、それだけではなく、その噴き出した水に呼応する様に亀型アビス・ウォーカーの周囲が崩れていき、気がついた頃には亀型アビス・ウォーカーが足場にしていた地面は、全て崩れてなくなりそこを足場と定め自身を固定していた堅牢な要塞は、容易く横倒れとなった。

 

「アンタが、狙い通りにたっぷり撃ってくれて助かったわ。お陰で、楽できるもの」


『オォォン!!』


 無様に腹を晒す亀型アビス・ウォーカーへと両手を添え、笑顔を浮かべる日野森。

 降り注ぐ水は全て、彼女が纏う火で瞬く間に蒸発していくため、白い霧が上へ上へと立ち込めていた。


「火よ、我が敵を燃やし尽くせ」


『オォォォォォン!!!!!』


 触れている場所を中心から火が噴き出し、燃え上がっていく。

 どうやら、腹部は厚い皮膚に覆われていなかった様で、容易く亀型アビス・ウォーカーを食い破る様に火が広がっていくと、その濡れた身体すら気に留めず巨大な火達磨となり、やがて塵一つ残さず消えていった。


「……あー、始末書どうしよ」


 噴水と化した場所から、離れながら日野森はきっと、先森の場所へ向かう道中に飛んでくる説教と、その後書かされる始末書に憂鬱な気分になるのだった。


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