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新装備テスト

サブタイに話数の数字って入れた方が良いですかね?

『先ずは、正常に稼働するかテストをするよ。取り敢えず、力は使わずに軽く二人で組み手でもして欲しい』


 EPSに着替えた俺達は、前にも使った試験場に来ていた。

 前は、AR技術で街並みが再現されてたけど使ってないと、なんつうかでっかい体育館みたいに何もないんだな……多分、投影した時にビルになると思われる出っ張りは何個もあるけど、それも色すらついてない白い物体だし、目がちょっと痛くなりそうだ。


「組み手だとよ日野森……出来るか?」


 羞恥心から自分の身体を隠そうとしている日野森の姿は、とても組み手とか出来る様には見えない。

 一応、彼女の事を思って声をかけたのだが、どうやらプライドの高い彼女の脳内で何やら俺には、想像できないような変換が行われたらしく、顔を真っ赤にしながらも立ち上がり構えた。


「わ、私だって近接戦の一つや二つ出来るわ」


 格好を心配した俺の言葉は、近接戦が出来るかどうかに変換されたらしい……おう、まぁそういう事ならそれでも良いよ。

 向かい合うように立ち位置を変え、我流とはいえ形になってきたと思う構え──右脚を前に出し、左足をその後ろに移動させ、軽く膝を曲げ腰を落とし右手を胸の高さに握り拳を作り置き、左手は腰に握った時の指が上を向く形だ──日野森と目を合わすと、そこに羞恥心で顔を赤くしていた彼女はおらずスゥゥっと、目が座り自然体のままの彼女がいた。


『では、始め!』


「はぁっ!」


 普段の戦いからして、近接戦を行わない日野森はあの自然体な構えからして、カウンター型だと判断し俺から殴りかかる。

 とは言え、全力ではなく様子見を兼ねた右手でのジャブで、これに日野森がどういう動きを見せるかでこの後の動きを変えようという慢心にも似た気持ちは一瞬で失われることになる。


「ふぅ──」


 左手で内側から払う様にして、俺のジャブを往なす日野森に向けて、本命の左拳でボディを狙いに行くが今度は、外側から手首を掴まれ、驚く事に殴り行った俺の力が一切止まることなく、流されてしまい俺と日野森の位置関係が入れ替わろうとした瞬間、左手首が捻られて俺はその痛みから逃れようとし地面に崩されてしまった。


「アンタ、真っ直ぐだからやりやすいわね」


 手首から手を離しながら、勝ち誇った笑みを浮かべる日野森。

 

「まだ一回だけだろ、舐めんな」


 起き上がると同時に、距離を取りながら構える。

 何をされたかは、考えるまでもない……小手返しをされた。

 日野森が積極的に攻めてくるのではなく、カウンター型だという読みは間違ってなかったが、それにしてもアイツが使うのが、合気道だとは思わなかったな。


『お前の気質には合ってないだろうが、武術や武道には積極的に攻めるものではないものも多い。分かりやすいのは、そうだな……合気道と呼ばれる武道だろう。まぁ、アレの前身には当身もあったが、今広く知られているものは女性警官が習う物の一つにあり……うむ、座学は辞めておこう。何が言いたいかと言いとだな、受動的ではあるが効率よく相手を制するものもあるという事だ』


 伊藤の爺さんのところで稽古をしていた時の事を思い出す。

 確かに、今なおこちらの様子を伺う日野森を見ていれば、俺の気質とは合ってないとよく分かるな……


「うしっ、行くぞ日野森!」


「良いわよ。来なさい」


 先ほどと同様にジャブを放ち、往なされると同時に、彼女の顎下目掛けて左足を蹴り上げる。

 だが、しっかりと警戒されていた様で、半歩下がることで簡単に避けられてしまうが、伊藤の爺さんの様に上がった俺の足を掴んでバランスを崩したりとかはして来ないため、戻す勢いで踵を落とし一度距離を元に戻すと見せかけ、そのまま叩きつけて軸とし、反対の足で蹴りを放つ。


「荒々しいわね!」


 連撃は予想していなかったのか、バランスを崩しながら後ろへと退がる日野森──そいつを狙っていた!

 

『柔よく剛を制すとは言うが、実際、あの手の連中には力でごり押すのは難しい』


『んじゃ、どうすんだよ?俺、一生爺さんに一撃入れられないぞ』


『なに、案じるな。お前は、馬鹿の一つ覚えみたいに暴れてればそれで良い。そういう才能がお前にはある』


 確かに日野森が使う武道は、俺との相性が悪いしゴリ押ししようとしても先に悲鳴をあげるのは、俺の関節だろう。

 だから、今みたいにバランスが崩れている状態を作らせて貰った!!爺さんレベルには通じないだろうって予想が出来ちゃうのが悲しいけどな!

 一気に詰め寄り、引き絞った拳を真正面から突き出す。


「──初めての模擬戦、もう忘れちゃった?」


 片足しか地面に着いてないという不安定な状況下でも、日野森は不敵に笑みを浮かべる。

 一体なにをと思ったときには、もう遅くガラ空きの胴体に日野森の蹴りが、突き刺さっていた……お前、空手も使えるのかよ。


「ぐっ!」


「けほっ!」


 伸びきってない蹴りであった為に、俺の拳も日野森には届いたが、まずお互いが思っただろう、あれ?ダメージ少なくね?と。


「……そういや、衝撃がどうのこうのとか言ってたな」


「なるほどね……道理でほとんどダメージを感じない訳だわ」


 圧力自体は感じたが、少なくともこれを着ている限り能力なしでのダメージは、ほとんど通らないと考えて良いだろう……いや、強くね?これ、俺達やアビス・ウォーカーだから、微妙だけど普通の人らが使ったら一方的な戦いになるぞ。


『よし、次は鎧を纏った状態で運動をしてくれ。あ、模擬戦はしないからね』


「「了解」」


 取り敢えず、試験場内を走り回ることにして、俺と日野森は次の連絡が入るまで適度な運動に興じる事にした。

 








「……テストは概ね、良好かな」


 コーヒー片手に、進行形で上がってるデータを見て、一先ず安心しつつ順調に兵士へと仕上げられていく二人を見て、思わず溜息が溢れてしまう。


「政府は少なくとも、EPSの有効性を知りたがるだろうね……大元は、大戦の頃から研究されてたものを利用しているけど、一銭の価値にもならない物に投資をするほど、国も馬鹿じゃない……大方、死んでも誤魔化しがいく彼らで実戦を利用し、より良い改良版を回せってところかな」


 アビス・ウォーカーは確かに脅威ではあるけど、人類全体で見てしまえば精々、原因不明の神隠しを起こす存在ってところでしかない。

 もちろん、目の前で連中がどういった存在でどれほど危険かをよく知ってる僕ら、ADからすればその認識は愚かと断じるものだけど、所詮、紙で送られてくる内容を見て複数人のSPに守られ、凶刃を見ることもない安全圏に座っているお上では、こうして僕らの活動を認めてくれているだけでも優秀と言えてしまう。


「……人の敵は人か。首都の半分が焼け落ちた災害を経験しても、人は変わらないね」


『ちょ、日野森!?悪かったって!事故だから、事故だから許して!!』


『人の胸揉んでおいて、事故はないでしょ!!ただでさえ、恥ずかしい格好だってのにぃ!!』


 声に釣られて、モニターに視線を移すと顔を赤くし、胸を押さえている日野森さんと頭を下げながら、走り回って迫り来る火の手から、逃げている先森君の姿があった。

 何があったんだろう?と少しだけ、巻き戻してみたら鎧を纏った状態で走り回るというテスト中に、試験場のわずかな段差で躓いた先森君が、見事に休憩中だった日野森さんに向かって倒れ込み、その手が彼女の胸に触れている光景を確認出来た。


「ふふっ、何をやっているんだ彼は……ほら、二人とも!!まだ、試験はあるから一旦、落ち着いて!!」


『ほ、ほら、桜井さんもそう言ってるし!』


『……後で、絞める』


『ひぇ……』


 うーん、これはちょうど良いから、予定を少しだけ変えて先に実戦を行わせた方が、日野森さんの気分も晴れるかな?


「分かった、じゃあこれから実践形式のテストをしよう!制限時間は10分間、大技の使用は禁止ね」


『鬼っすか桜井さん!?』


『流石、話が分かる桜井さんね!』


 ほどほどにしてあげなよ日野森さん。

 ……幸い、茂光局長の努力もあって、彼らは大人の汚い争いに巻き込まれてはおらず、ああやって無邪気に子供らしくいられる事は、喜べることであって欲しい。


「すみません、桜井さん!!ご報告が!」


 ……ほんの些細な祈りすら聞き届けてはくれないんだね。

 部下から受け取った書類とデータにざっと目を通しつつ、頭を切り替えて手元にあるマイクのスイッチを再び、オンにした。








 場所は変わり夜の帷が降ち、殆どの人が家に帰宅している頃新宿にて黒いフードを被り、その下にある素顔を伺う事は出来ないが、身体つきから女性である事が分かる人物がバイオリン片手に歩いていた。

 不思議な事に、前後不覚になっている酔っ払いはともかくとして街を歩く、疲れ切った顔のサラリーマン等、道行く人々は一切、彼女に気がつく様子はない。


「……」


 彼女は無言のまま、新宿にある公園に入って行き、滑り台の前で足を止めそれを眺めると、徐にバイオリンを奏で始める。

 夜の公園に彼女のバイオリンが奏でる、色気と哀愁に満ちた音楽が響き渡る──その曲は、モンティ作曲のチャルダッシュというものだ。

 もしも、この場に観客がいれば月と星の灯りに照らされるという神秘的な彼女の音色に聞き入る者もいたかもしれないが、幸運な事に誰一人としてこの公園には居らず彼女の演奏は誰の耳にも入らない。


「──♪───♪♪」


 ただ一人の演奏会と名づけるのが相応しい光景でも彼女は楽しそうに音楽を紡ぎ、そしてその楽しげな様子とは反対に周囲の空気は澱み、奏でる音楽と周囲の空気がどんどんと乖離していき……彼女が演奏をやめたその瞬間には──


『──!!!!!』


 ──アビス・ウォーカーがその姿を現していた。

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