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裏に潜むのは……?

 真っ白な汚れの一つすらないタイルに、インテリア代わりに置かれた観葉植物や見頃を迎え、真っ赤に咲き誇る薔薇が飾られているAD本部の会議室に、日野森、先森、伊藤のサードアイ覚醒者と茂光、桜井を中心とする数人のアビス・ウォーカー研究者達が、揃って集まっていた。

 ここに居る大人達は皆、学生である二名に対しきちんと通って欲しいという願いを持っており、その事を知っている先森はわざわざ平日に、休みを取るよう言われ集合させられた事に、やや緊張感を感じており貧乏ゆすりをする落ち着きの無さを見せていた。


「すまないな、先森君達にも集まって貰って」


 大人達を代表し、全員の視線が集まる前方中央に立った茂光が彼らへの謝罪を示すと共に、本題が始まった。


「しかし、これは君達にとっても共有しておくべき事柄なのだ。先ず、その一つだが昨日、伊藤が早期に間に合った事、そして彼の方針に従い周囲には我々の手のものが避難勧告を行なっていたのは、皆が知っての通りだと思う。だが、何故かその場所に先森君が誰にも呼び止められる事なく、たどり着いてしまった。幸い、出現したアビス・ウォーカーは伊藤の一撃で、葬り去る事が出来たが……その後の確認で全員が何者かに気絶させられていた事が明らかになった」


「え……それって、私達の動向を知る者が居るって事ですか?」


 日野森が示した疑問の通り、彼女らADは政府による極秘組織でありその情報を盗み出すというのは、容易なものではなく仮に、情報を盗み出したとしても即座に裏で処理されるであろう。

 その事を良く知る日野森は、横でうん?っと首を傾げている先森より嫌な想像をしてしまっている──もしかして、AD組織内部に裏切り者が居るのではないかと。


「我々とは異なる目的を持つ組織、その可能性を私は睨んでいる。そして、伊藤、頼めるか?」


「うむ」


 杖を突きながら立ち上がる伊藤はそのまま、茂光と立ち位置を交代し手元にある端末を弄ると、背後に日本地図が投影された。


「儂が暫く、此処を離れて日本各地を放浪していた理由を話そう。日野森のお嬢ちゃんが気にする事柄にも、繋がっておる」


 一度、話を区切り端末を弄ると、黒い点が日本の各地に出現する。


「これは、儂が此処一年近くで遭遇し、斬り伏せてきたアビス・ウォーカーの出現地域だ。後で、気になればその具体的な数も教えよう。そして、これが此処一月の変動だ」


 伊藤が再び、端末を操作すると黒い点が全て東京に集約しその光景にその場の全員が驚く。

 確かに出撃の回数こそ上がっていたが、その一つ一つが命懸けであった為に、現場に出ていたサードアイの二名は疑問こそあれ、自覚をしておらず他の者達も、それぞれが持つ仕事との兼ね合いで気がついていなかった。


「儂が日本の各地を見て回っていたのは、アビス・ウォーカーの脅威に対応する為ではあるが、今までより強大なアビス・ウォーカー、通称『厄災』の出現、その予兆を調べるのが主目的だ」


「……厄災?聞いた事もない単語だけど、伊藤さん、なんすかそれ?」


「アビス・ウォーカーが、出現する時空間を歪めて突如としてその場に現れる事は、知っておるな?」


 伊藤の問いかけに先森は頷きで答えながら思い返す。

 アビス・ウォーカーは、先森達がいる現実世界とは異なる空間に存在しておりADは、その領域を『深淵』と定め、未だ直接的にその場所を観測出来る訳ではないが、彼らが出現する際に異なる空間へ出現する為か、現実世界の空間を歪めるのを利用し、それを予兆として観測する事でサードアイの派遣を可能としているという事を。


「より強大なものが出現しようとすれば、当然、その空間の歪みも大きくなる。そして、過去に出現する際の歪みだけで、多くの人間を殺し、好き勝手大暴れしたアビス・ウォーカーが一体だけおる。それが、厄災じゃ」


 普段は落ち着きがあり、老紳士といった雰囲気を一切崩さない伊藤だが、この時ばかりは内に眠っている戦士としての顔が浮かび上がり、威圧感を醸し出す。

 即座にそれに気が付き、ひりつく様な威圧感は霧散していくがこの場の誰もが、厄災と伊藤の間で何かしらの因縁があると察するのは容易であった。


「アビス・ウォーカーはその性質の都合上、サードアイ以外では太刀打ちが出来ない。それはつまり、兵器などに用いれば国家転覆など容易いという事だ……つまり、私が言った異なる目的を持つ組織というのは、強大な力を持つアビス・ウォーカーを軍事転用しようと考える組織だ」


 伊藤の続きを引き継ぐ様に、茂光は己の推測とそうであって欲しいという願望を織り交ぜた言葉を綴る。


「国家の敵は国家、という訳ですか」


「そうだ日野森君。君達、サードアイ覚醒者が直接的に狙われる可能性はあるが、昨日の一件を鑑みるにその可能性は低いと思われる。連中が行動を起こすとしたら、十分な戦闘データを回収してからだろう」


「なるほど……アビス・ウォーカーに関するデータは、どの国と比べても日本が先んじていますし、兵器転用が目的であれば十二分に可能性はありますね」


 桜井が茂光の発言に真実味を持たせて、日野森と先森の両名を納得させる。

 そう、この会議の目的はAD内部には、裏切り者が居ないと二人を安心させる為に大人達が一芝居打ちつつ、伝えられる事は伝えておく場であったのだ。


「なるほどなぁ」


 そんな空気を一切、理解してる様子のない先森が間の抜けた声を出すと、日野森がそれに呆れた様にため息を溢す。


「あのねぇ、アンタ分かってる?他でもないアンタをわざわざ通過させた理由が、向こうにはあるのよ?」


「……ん?もしかして、俺が狙われてる?」


「馬鹿」


 楽観的というか深く物事を考えようとしない先森の悪い癖に、日野森が呆れきった言葉を吐き捨てる様に放ち、彼に絶対零度の視線をぶつけると、居心地が悪くなったのか視線を逸らす。


「儂は当面、厄災の脅威に備えるつもりだが、茂光局長提案がある」


「なんだ?」


 そんなやり取りを見ていたからだろうか、視線を逸らした先にいた伊藤が先森を見て、ニヤリと悪どく微笑む。


「護衛も兼ねて、儂が先森少年を預かろうと思うのだが良いかね?稽古もつけてやろう」


 戦闘力の一点で見た時、伊藤 源三郎ほど適している人間は居ないだろう。

 その実力を実際に目にした先森は、その言葉を聞いて驚きながらも好奇心を隠せない目で、彼を見ていた。


「ふむ……分かった、貴方になら託せるだろう」


 顎に手を当てて考えながら、そんな先森の様子と苦楽を共にしてきた伊藤を信じて、託す決断をする茂光。

 すると、そんな戦う者として好ましい環境に身を置く事になる彼を嫉妬してか、つまらなそうな声が上がる。


「へぇ、良かったじゃない先森」


「そんな、ドスの効いた声を出すなよ日野森……」


 そんな彼らが微笑ましく見えたのか伊藤は、大きく笑うと視線が彼に集中するがそれでも笑い続け、暫くすると目尻に浮かんだ涙を拭いつつ、口を開いた。


「日野森の嬢ちゃんは既に、戦い方が固まっておる。その様な人間を、指導するというのは難しくてな。それに引き換え、先森少年は未だ、これといった固まりは見せてないし、戦い方も近接と儂に近い。ならば、どちらが合理的か分かってくれるな?」


「……分かりました」


 反論を考えた日野森であったが、上手い言葉は出てこずどう足掻いても丸め込まれると理解した彼女は、大人しく……先森を睨み付ける事で、大人しく引き下がる。


「では、よろしく頼むな少年」


「は、はい!」


 柔和に微笑む伊藤であったが、その表情の奥に何やら嫌な予感がした先森は、反射的に背筋を伸ばして返事をするのであった。

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